第二部 導かれし幼女たち
第1話 フェアリ子
唐突に思い出した野望を胸に秘めながら、グリスラ子とコボル子と一緒に街を目指してます
木の少ない森というか林を歩いていると、なにやらヒラヒラと飛んでいる何かを目にした。
「モンスター、コボ!」
「お前、目がいいのな?」
「わたしにも見えるぷるよ、お兄ちゃん。
きっとフェアリーぷる!」
フェアリー。なんのひねりもなく妖精である。
ついつい先ほど、ブルースライムをなんの躊躇もなく経験値に変えてしまったのはこのモンスターの存在があったからともいえなくもない。
序盤の回復役として非常に頼もしく、しかも進化してどんどんと強くなっていく。進化素材の収集に苦労はするものの、最終的にはレアリティ4、つまりは☆4つ、視覚的に表すと『☆☆☆☆』まで、成長するため最終パーティの回復役を担っていることも多いといわれる優秀なモンスターなのである。
ブルースライムを除いて初めて出会うレアリティ持ちのモンスターでもある。
「……にしても……」
思っていたのと違う現実を目の当たりにしてちょいと凹む。
このモンスター、長く使えるしそこそこ可愛い幼女(っぽく見える18歳以上の乙女)だしで、結構好きだったのだが。
極端に小さいのである。
幼女(に見えるが18歳以上、しつこくてごめんさい)だから小さいのは当たり前なのだろうが、それったって110センチとかそういうレヴェルとかそういう問題ではなく、20センチほどしかないのである。
「あんなに小さいとは思ってなかった……。
攻撃が当たるんだろうか……」
小ささには、仲間にして宿に泊まったときのいろいろなどと今後の後々の事に関しても思うところはあるものの、それ以前にまずは戦いだ。
「とにかく頑張ってみるぷる!」
「やってやるコボ!」
とまあ二人がヤル気になっているし、戦う前から諦めてちゃいろいろ終了だからな。
フェアリーもこちらに気づいたようで、のんきにゆらゆらと飛んでくるのを迎え撃つべく陣形を組んだ。
フェアリーは基本的に攻撃力は弱い。仲間と他のモンスターと一緒に出てくると回復魔法を使用されて厄介だが、今回は単体であるのでまず後れをとることはないだろう。
コボル子だってグリスラ子だってレベルが上がって多少は体力もついているので、この二人を前衛に押し出すことにした。
というのも、コボル子の打撃やグリスラ子の体当たりのほうがまだ攻撃範囲が広く、フェアリーをとらえやすいと思ったからだ。
俺の剣なんか当たるのかどうなのかまったくもって定かではない。
「おどきなさい!」
うん? フェアフェア~! とでも叫ぶのかと思えばそうでもないようだ。
フェアリーがコボル子に攻撃する。
何がどうなっているのかわからない(とにかく小さいのでその動きが良く見えない)が、コボル子が「コボー!」っと悲鳴を上げたのだから、ダメージを受けているのだろう。
コボル子もグリスラ子も動かないところを見ると攻撃権は俺に回ってきているようだ。というか、攻撃権が無い時に動きがたい感情が芽生えるのと同様に、攻撃権が回ってきた瞬間に動き出したい感情に駆られるのでそれに気づく。
「ままよ!」
どうせ当たると思っていない。期待はせずに、かといって攻撃権を放棄もせずに、とりあえずヒラヒラと飛ぶフェアリーに向かって剣を振った。
「きゃあぁぁぁ!!」
この小さい的であるフェアリーに対して俺の剣は見事にヒットする。
補正が聞いているのか。レベルやステータスによって俺の技量がアップしているのか定かではないが、敵の大きさについて心配する必要はないのかもしれない。
とにかく。
俺の繰り出した攻撃はヒットして、フェアリーにダメージを与えた。
しかも、1段階目を突破して2段階目のグラフィックになっている。
元々まとっていた薄いスケスケの衣のような布がほとんどはぎとられている。
「なんて破廉恥な!」
フェアリーは文句を言ってくるが、攻撃権はまだうちのパーティにある。
「いくぷる!」
とグリスラ子が身構えて、フェアリーに体当たりする。
「ぷるぷる~!」
素早さステータス的にはかなり差のある両者のはずだが、見事に攻撃は命中し、
「む、無念……」
と、幼女らしからぬセリフを吐いて、フェアリーは地面に落下していった。
「あっさりコボね。
あっしにまわってこなかったコボ」
「お兄ちゃんの攻撃が随分とダメージを与えていたぷる!」
『フェアリーが仲間になりそうにこちらを見ている』
頭の中にそんなメッセージが浮かぶが……。
地面で横たわり、軽く頭を上げこちらに視線を向けるフェアリーの表情は硬く、とても仲間に入ろうとしているようには見えない。
いってみれば、観念の表情だ。犯すなら犯せ。いや、不埒な真似をするのなら舌を噛んで死んでやる。といった覚悟がほの見える。
将来性のあるモンスターなので仲間にしておきたいところなのだが。
こいつも性格とかが面倒くさいというパターンなのだろうか。
とにかく話をしてみるか。
俺はフェアリーを仲間にするという選択肢を脳内で選択した。
「くっ……」
小さくフェアリーがうめく。同時に顔をしかめる。しかめるなんていう生易しい言葉では表せないぐらいの、苦悶を浮かべる。浮かべるなんていう表現では似つかわしくないくらいありありと表情に出す。
そして、フェアリー、あらため仲間になったので『フェアリ子』はそのまま地面に頭を下ろし、目を閉じてしまった。
「死んだコボ?」
「お兄ちゃん?」
二人にも何が起こったのかわからないようだ。
後味が悪い結果にならなければよいのだが。
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