第13話 ブルセラ子かく語りき

 ブルセラ子の話を聞くことになりました




「で?」


「まずは兄者に確認してもらうことがあるセラじゃー」


「なんだ?」


「わっちのステータスなのセラじゃー」


 いちいちセラじゃーセラじゃーうるさいが、言われたとおりにしてやることにした。


 想像どおりの結果だった。


 すなわち。

 ステータスはそれほどでもなく、魔力値以外はグリーンスライムにも劣る程度だ。そもそもにして、ブルースライムは回復魔法が使える敵キャラだっているんだよというのを仄めかすために早い段階で出てくるだけのモンスターで冒険初期の戦闘の戦略(各個撃破とか個別撃破とか)に幅を持たせるためのいわば教育係であったりする。


 マドハンドなんかも、仲間を呼んでうっとおしいのでグループ魔法でダメージを蓄積させて一気に倒すと爽快かつ効率的とかそういうプレイヤーの自己満足度を高めるための行動パターンを取っているとかいないとか。まあそれは別のゲームの話だ。


 とにかくブルースライムは一応回復役であるので、先に倒したほうが結果として回復魔法を使われるリスクが減り、効率的に戦闘を終わらせられる、それに気づいた俺賢い。的な。


 話を戻すと、ブルセラ子のステータス画面(ステータスを確認しようと思うと視界に浮かんでくる)には見慣れぬ記号があった。

 それはレアリティを示す『☆』印。


 ブルセラ子2のほうを確認すると『☆』はついていない。

 それがブルセラ子が、いやさ、ブルースライムが特別扱いされている所以である。


 元々この世界の元となったゲーム(18歳以上の幼女に見えるモンスターを倒していくロールプレイングゲーム)をプレイしてクリアもしている俺だからその辺りは重々承知だったが、ブルセラ子は得意げに説明を始めた。


「わっちらブルースライムはそんじょそこらのスライムとは違うのじゃセラー」


「そうなのじゃセラー」


 何故だかブルセラ子2も説明に加わる。


「ひとつは、個体によってレアリティが異なるということなのじゃセラー。

 わっちはレアリティ2を与えられてるのじゃセラー。

 すなわち☆二つなのじゃセラー」


「わっちはレアリティゼロなのじゃセラー」


「ああ、それはこっちでも確認できる」


「そういうことなのじゃセラー。

 わっちはそんじょそこらのスライムとは違うのじゃセラー」


「それはさっき聞いたコボよ」


「黙って聞くのじゃセラー」


「レアリティが高いということは、今後格段に成長するのじゃセラー。

 レベルが限界突破しているのじゃセラー。

 レベル10で打ち止めなんて情けないグリーンスライムとは違うのじゃセラー」


 ブルセラ子の言うとおりである。

 レアリティゼロのモンスターは基本的にはレベルを上げても10で打ち止めである。

 進化もしない。

 従ってどう考えても、中盤以降にパーティに置いておく価値がないのである。


 が、レアリティが1、つまりは☆がひとつになれば上がるレベルは一気に30となる。種族によっては上位種族に進化させることもでき、そうなるとさらにレアリティは上がる。

 レアリティが2ならばレベル40まで、3ならばレベル50まで。4なら60、超絶レアの『☆☆☆☆☆』になると、70までレベルがあげられる。実際にはレベル50ぐらいからゲーム自体のクリアが可能になるためにそこまで上げずに終わることも多いのだが、とにかくそういうことである。


 ブルースライムは個体によってレアリティが0~2までとバラつきがある。

 レアリティ1にはわりと遭遇するがレアリティ2はほぼほぼ遭遇しない。かなりのレアなのである。


「それだけじゃないのじゃセラー」

「そうなのじゃセラー」


「ブルースライムという種族は世界中に散らばってるのじゃセラー。

 そしてわっちらはお互いにコンタクトがとれるのじゃセラー」


「コンタクト?」


「まあ、他のブルースライムは闇の波動を受けておかしくなっているから会話にはならないセラが、その地域の様子なんかを知ることはできるのじゃー」


「ただしそれはレアリティ1以上のブルースライム同士に限られるから、わっちには無理なのじゃセラー」


 ブルースライムの出現地域があちこちに散らばっているというのはゲームと同じ設定だった。

 これ以降、頻繁ではないがほぼあらゆる地域といっても過言ではないほどのエリアで出没する。

 それもブルースライム特有の性質である。開発者がブルマー推しなのだろう。

 だが、ブルースライム同士でコンタクトがとれるというのは初耳だった。


 まあ、他の地域の様子なんて行ってみればわかることでそれにどんなメリットがあるのかはわからないのだが。


「で、言いたいことはそれだけか?」


 と俺はブルセラ子に聞いた。


「話はここからなのじゃセラー」

「肝心な話はここからなのじゃセラー」


「こんなレアで有用なあっちがパーティに入ったのじゃセラー」


「有用かどうかは知らんが」


「パーティにスライムは二匹もいらないのじゃセラー。

 とっととそのグリーンスライムを牧場に放牧するなり、わっちの餌に変えるなりするのじゃセラー」


「お、お兄ちゃんっ! ぷる……」


 グリスラ子が声を上げた。心細そうに俺の方を見てくる。


「新入りの分際で何を生意気言うコボか!

 グリスラ子先輩は兄貴のパーティの最古参コボよ!

 口が過ぎるコボ!」


 コボル子はグリスラ子寄りの立場を取るようだ。


「兄者、はっきりさせるのじゃセラー。

 わっちをとるか、そのグリスラ子とかいう雑魚を選ぶのか!?」


「選ぶのかのじゃセラー!?」


「ぷ、ぷる……お兄ちゃん?」


 グリスラ子が一層不安そうな表情になる。

 それはそうだろう。

 グリーンスライムは、最弱種族と言っても過言ではない。好き嫌いでコボルトが良かったりマミーが良かったり、グリーンスライムが良かったりというぐらいの程度で。

 見た目と性格で判断しきってしまえるほど。


 それに比べブルースライムのブルセラ子はレアリティも高く、成長が見込め、回復魔法までもが使えるのである。


「そうだな、パーティにスライムは二匹もいらないな」


「お、お兄ちゃん!」


「まさかコボ! グリスラ子先輩をパーティから外すなんてことはコボ!?

 っていうか、現在兄貴のパーティは既に3人コボ。

 ブルセラ子とブルセラ子2を入れると溢れてしまうコボよ!

 まさか、このタイミングでグリスラ子先輩を経験値玉に変えてしまうなんてことは……」


 コボル子は知っているのか知らないのか。

 俺が経験値を得る手段はモンスターを経験値玉にして摂取することだが、それには二通りの方法がある。

 ひとつは戦闘終了時にすぐに経験値玉にしてしまう方法。これは手間もかからず一般的な方法だ。


 だがより多くの経験値を獲得する方法はもうひとつあるのだ。


 それは一旦モンスターを仲間にして同一種族と合成を繰り返し、レベルを上げてから経験値玉にする方法。

 これだと同一種族同士で合成した際に合成ボーナスが得られるために、俺が得られる経験値は約1.2倍になり効率が良いのだ。デメリットはパーティの一枠をその合成用モンスターで使用してしまうという点と、レベルアップ直後でなければ逆に効率が悪くなることもあるという点だ。


 しかし、今はそんなことは関係ない。所詮ぬるいゲームバランスのゲームである。課金要素もなく、あえて1.2倍とかそんなちまちました効率厨みたいなことをせずとも楽にクリアできるはずなのだ。


 俺は念じた。ブルセラ子とブルセラ子2に向って。

 経験値玉に変化するようにと。


「まさかのじゃセラー!」

「あ、兄者のじゃセラー!!」


 断末魔のような悲鳴を上げながら、コンマ何秒ぐらいの時間をかけてブルセラ子とブルセラ子2は経験値玉になってころりと転がった。


「わりとあっさりと決断したコボね?」


「お兄ちゃん……、そこまでわたしのことを考えてくれてるプルか?」


「いや、あいつらわりとうぜえから。

 まあコボル子もうざいんだがそれ以上だったから。

 回復役はいずれ必要だとはいえ、この先にも別の種族で出てくるはずだからな。

 とくにグリスラ子を庇うとかそういうことじゃねーから」


「でも、レアリティ2コボよ?」


「ああ、たしかにレアリティ2は貴重だけど、だからといって終盤まで使えるかというとそうでもないんだよ。

 レベルを40まで上げたところで初歩の回復魔法しか覚えないというクソ仕様だからな。

 いざという時に役にたたんのだ。ブルースライムってやつは。

 で、レアリティ2というのはそれ以外になんの特別な作用も引き起こさないんだよ。ブルースライムに限って言えば。

 というわけで、ややこしい奴は切る方向で。

 これからもブルースライムと何度も遭遇するだろうけど、何匹かの性格を確かめて全部あいつと似たようなのだったら、レアリティに関わらず全部経験値玉にするわ。

 放牧用には何時でも入手できるしな」


「ありがとうプル……」

「兄貴、男前コボ……」


 二匹の幼女(にみえる18歳以上)に何故だか感謝なり尊敬のまなざしを向けられながら俺はふと思い出した。

 俺がこの世界に来てすぐに思い立った目的を。


 ゲームのキャラでありながら、俺の初恋の相手でもあるあのようじょ(に見える18歳以上)。

 俺が本気で愛し、毎晩夢にまで出てきたあの幼女


 そう、ゲームでも仲間にするのにひどく苦労したあのようじょをこの世界でも仲間にする。

 ある意味ではクリア、つまりは世界を救うことよりも俺にとっては重要事項であり優先事項である。


 そのためにはこんなところでぐずぐずしていられない。

 のじゃのじゃセラセラうるさいロリババア幼女の相手で時間を取られている場合ではないのだ。


 あの幼女(っぽいが18歳以上)と出会い、仲間にするのだ。ゲームではサービスグラフィックを見ることしかできなかったが、ゲームではフルボイス、差分アニメーションのサービスムービーという名の紙芝居を見ることしかできなかったが。


 この世界にあのようじょは生身のモンスターとして生活しているはずなのである。


 立ち止まってはいられないのだ。


「行くぞ、グリスラ子、コボル子。

 俺達の冒険は始まったばかりだ!」






   ゲーム世界にトリップしたからモンスターハーレム作ります! 第一部・完

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