第2話 グリスラ子2


 村の周辺をぼちぼち歩いているとまたスライム(緑)にエンカウントする。


 エンカウントといっても画面にピキピキ――画面じゃなくて視界だが――ひびが入ってとか、画面中心から――画面じゃなくて視界だが――黒い渦状のものが広がって戦闘シーンに切り替わるとかそんなんじゃない。


 ただたんにぼーっと佇んでいるグリーンスライム(幼女、に見えるけど年齢は18以上)を見つけて近づいていくと向こうも『はっ!』とこちらに気付き、視線を合わせてなんとなく戦闘の合意がとれるというような実世界向けの遭遇だ。


 お互いに相手を認識したグリーンスライムとはまだ距離がある。


「グリスラ子、じゃあお前も攻撃してくれよ」


「わかったぷる! お兄ちゃん! あたし頑張るぷるよ!!」


 どうせ体当たりしかできないのだし、レベルが上がっても最高で10まで。進化もしないグリーンスライムのグリスラ子(見た目は幼女、中身は大人)だが、張り切ってくれているので頼りにしてる風を装う。


 村に帰れば牧場があるから、グリスラ子にはいずれそこで放牧(という名の無期限の待機)に出されるという運命が待っているのだが、しばらくは村の周辺でモンスター狩りをするんだから、パーティメンバー枠(最大で自分を含めて4人まで)にも空きがあるし、2~3日ぐらいは連れまわしてやるのもいいだろう。

 仮に死んでしまっても代わりはすぐに見つかる。

 そのうちもう少し強いモンスターを仲間にしたらパーティメンバーから外れるのは仕方ない。メンバーを待機させられる馬車を手に入れるのはもっと先だからな。


 敵のグリーンスライムが近寄ってきてその姿が明確になる。

 そこではたと気づく。というか違和感というか、想定外の事実というか。

 浮かんだ疑問をグリスラ子にぶつける。


「なあ、ひょっとしてお前らって。個性があるのか?」


「個性ぷる~? なにそれぷる?」


 話が通じない。

 仲間にして隣に居るグリーンスライムのグリスラ子と敵として向って来ているグリーンスライム(名前はまだない?)の見た目が明らかに違うのだ。

 あらたなグリーンスライムも幼女っぽい見た目(年齢は18歳以上)なのだが。


 俺は、両方のグリーンスライムを見比べた。

 緑の髪のショートカットという点は共通。裸に粘液というスタイルも、どこからどう見ても文句のつけようのない幼児体型(だけど年齢は18歳以上)なのも共通だ。

 身長も大体140センチくらいで同じ。

 なのに、顔が違うのだ。

 どれくらい違うかというと、ちょっと似てない姉妹くらいの差だ。わりと違う。


「あいつとは知り合いか?」


「知らないことはないぷる~。この辺のグリーンスライムはみんな顔見知りぷるから」


「血が繋がってるとか?」


「血? スライムに血なんてないぷるよ」


「いや、家族とかそういう意味で……」


「家族じゃないぷる。同一種族ぷる」


 グリスラ子の話を聞く限り、特に繋がりはないようではある。種族ごとになんとなく共通の顔があるのか。

 だけど……、ゲームではグリーンスライムは全部同じグラフィックだった。つまりは判で押したように同じ顔。同じ体型。キャラも同じ。

 なのに、この世界ではモンスターそれぞれに顔が違うというわけなのか。


「先制攻撃ぷる~!!」


 俺が戸惑っていると、グリスラ子がグリーンスライムに向って体当たりをぶちかました。


「ぷるぷる~」「ぷるぷる~」


 攻撃の掛け声と、悲鳴。字面にすれば同じだが、声もそれぞれで違う。


「ぷるぷる~」「ぷるぷる~」


 今度は攻守が入れ替わり、グリーンスライムがグリスラ子に突撃する。

 字面にすれば同じだが、攻撃の掛け声とダメージを食らった悲鳴の発声者が入れ替わっている。


 このまま見ていればスライム同士で死闘を繰り広げ、いずれはどちらかが敗れるのだろう。グリスラ子はまだレベルが上がっていないから、野生のグリーンスライムと強さ的にはなんら変わりがない。そういえば装備を持たすのを忘れていた。というか余っている武器も防具もそもそもない。というか、モンスターでも雑魚なのは装備とかできないはずだった。


 俺が戦闘に加わらないせいで、二匹(二人?)のグリーンスライムは相手に一撃ずつ攻撃をして動きを止めてしまったようだ。


『何もしない』ことを選択――様子を見るというコマンドがある――してターンを進めてもいいのだが、折角仲間にしたグリスラ子が負けてしまっては忍びない。

 なので俺は、グリーンスライムに向って剣を振るう。


 一撃でグリーンスライムの姿に変化が現れる。といってもゲームでいうところの二枚目の画像グラフィックの姿。きちんと大事なところは隠れているが結構きわどいという状態だ。


 俺が攻撃に参加したことで、ターンが進む。

 躊躇してても仕方がないので、俺はグリーンスライムに向って剣を振るった。


「ぷるぷる~」


 ダメージを食らい、悲鳴を上げつつも、反撃態勢を取ってくる。狙いは俺ではなくグリスラ子のようだ。

 まだグリスラ子もHPには余力があるが、さっきも攻撃を食らわせてしまったし続けて攻撃されるのも忍びないので、俺はグリスラ子を護るべく、グリーンスライムとの間に割って入る。

 ゲーム内では、パーティに並び順というか隊列があって、戦闘中は変更できなかったりするのだが、今のグリスラ子も俺も前衛なので位置の変更ぐらいは自由にできるようだ。


「ぷるぷる~」


 と、今度は攻撃の掛け声をかけながらグリーンスライムが突撃してくる。

 軽く剣を構えて受け止めると、わずかなダメージを食らったものの、全然大した衝撃ではなかった。やはり雑魚は雑魚である。


「お兄ちゃん! 護ってくれてありがとうぷる。こんどはこっちの番ぷる!

 ぷるぷる~!!」


 グリスラ子がグリーンスライムに体当たり。

 それでグリーンスライムは体を横たえた。体を覆っている粘液は全て剥がれ落ちた状態で。


▽グリーンスライムは仲間になりたそうにこっちを見ている


 うん。グリーンスライムはもうグリスラ子が居るからこれ以上仲間を増やす必要はまったくないんだが……。


 グリスラ子とは違う個性を持ったグリーンスライム。

 グリスラ子の合成の餌にしてグリスラ子をレベルアップさせてやってもいいのだが……。


 瞳をうるうるさせながら不安そうにこっちを見てくるグリーンスライムを見ていると経験値玉に変えることや、合成の餌にすることや、素材化して換金することがあわれに思えてくる。


 仕方なく、倒したグリーンスライムも仲間に加えることにした。

 パーティの枠はまだまだ余っている。


「あ、あの……、あ、ありがとうございますぷる……、お、お兄様……。

 それにせ、先輩も。

 い、一生懸命頑張りますぷるので……、ど、どうかよ、よろしくお願いしますぷる……」


 新たに仲間になったグリスラ子2(面倒なので名前はデフォルトのものを使用したら重複していたので勝手に『2』がついた。プルツーみたいでそれはそれでありだ。最終的にはグリスラ子を量産して量産型キャベレイにでも載せて強化人間クローン部隊を作れそうである。あっちもあっちで幼女っぽいキャラだし。パーティには俺を除くと3人しか入れないからプル12なんて戦闘には参加できない牧場の肥やしになるのだけれど)。


 面倒なことに顔だけでなく性格もグリスラ子とグリスラ子2で異なるようだ。

 いずれは二人とも牧場行き。いや、牧場に預けられるモンスターも限りがあるからどっちかは合成素材として消費しなければならないのだろう。


 どちらを残すかはおいおい決めるとして。

 とにかく、まだレベルも上がっていないことだし、次の敵を探すとしよう。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る