鳩と風船のものがたり

アほリ

1羽目 ドバトのボブと赤い風船

 くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!




 市民公園に、いっぱいのドバト達が初老があげているポップコーンに群がって嘴いっぱいに頬張っていた。


 「あのぉ・・・僕にもポップコーンを分けてくれませんか?」


 気弱なドバトのボブは、他のドバト達と押し合い圧し合いになりながらも一目散に食らい付く他のハトの合間を縫ってモゾモゾと動き廻った。


 ドガッ!!


 ボカッ!!


 「どけ!!このうすら野郎!!」

 

 このドバトの群れで1番喧嘩早い、ポップがしつこくポップコーン乞いをするボブに体当たりしてきた。


 バシッバシッバシッバシッバシッ!!


 「ほーら!ほーら!のろま!!そこどきな!!」


 今度は、目付きがきついドバトのポズが声をあらげて羽根をバシバシとボブをひっぱたいて退かしてきた。




 ・・・ち・・・ちくしょーーー・・・!!



 ドガッ!!ドタドタドタッ!!




 思わず尻もちをついて、全身が忽ちアザだらけになったボブは、部下ドバトに差し出されたポップコーンを口一杯満足げにニヤニヤしながら頬張るこのドバトの牝リーダーのポポ『姐さん』を睨み付けた。




 ・・・このリーダー、僕を嘲笑ってるの・・・?!




 ボブがポポ『姐さん』に顰めっ面をして凝視していた。


 「ポポおばさーん!ポップコーンを・・・」


 「『おばさん』じゃねえ!!」




 ばしゃん!!




 「す、すいません!!可愛いポポねーちゃん!!ポップコーンですーっ!!」


 「はぁーい!!ありがとっ!!」




 ・・・けっ!!何さ何さ何さ・・・!!




 その時、思いのよらない事が突然起こった。




 タッタッタタッタッタタッタッタタッタッタ・・・!!




 ・・・に、人間の子供だ・・・!!




 「きゃははははははははは!!」


 「えーーいこのやろーーーーー!!」




 家族連れでやって来た人間の子供達は、群れるハトの集団を見や否や、キャッキャッとはしゃいで駆け足で突っ込んできてハト達を次々も蹴り飛ばした。



 バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ!!!!!!




 パニックになったドバトの群れは右往左往に散らばり、そそくさと飛び立った。



 「回避!!回避!!回避!!回避!!ぽっぽーーーー!!」


 リーダーのポポ姐は慌てふためく部下たちを宥めようと必死に叫んだ。


 


 ・・・くっそう・・・!!


 ・・・あの人間の子供め・・・!!




 リーダーのポポ姐さんは、ふと人間の子供の手にしっかりと紐を握られた赤い風船が揺れているこのに気付いた。




 ・・・そうだーーー!!


 ・・・あの子供の風船を割っちゃえ・・・!!




 ポポ姐さんは、子供の後ろからバッ!!と飛びかかると、鋭い爪をたててフワフワと浮かんでいるキラキラと太陽の光に輝く赤い風船目掛けて突っ込んでいった。




 ぶうん!!




 別の子供の腕が、ポポ姐さんの行くてを阻んできた。


「あぶないっ!!」


ボブは、とっさに子供の腕とポポ姐さんの間に入り込んだその時・・・




 するり。





 ふうわり・・・





 ふわふわ・・・





 「風船!!」

 腕を振り上げた子供の手から、赤い風船がスルリと抜けて、空の上へ空の上へと飛んでいってしまった。


 「えーーーーん!!えーーーーん!!風船飛んでっちゃったーーーーーっーー!!!」


 子供は大泣きをし始めた。


 それをなだめてきた親は、我が子に『いたずらした』ドバトをきつい目で睨み付けた。


 「な、なんだよ!この人間の親は!!この子供が僕ら鳩を虐げてきたんだろー?!

 『自業自得』というものを!!」



 「えーーーーん!!えーーーーーん!!」


 

 更に泣きわめく子供を尻目に、ドバトのボブはどんどんどんどん大空へ飛んでいき、視界から遠ざかっていく風船を見上げた。




 ふと、ボブはある衝動に駆られた。




 ・・・あの風船、何処へ飛んでいくんだろ・・・



 ボブは、深く息を吸い込んだ。

 


 「ポポ姐さーーーん!!ちょっと行ってくるーーーー!!」



 ばさっ!!



 ばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさ・・・




 ドバトのボブは何を想ったのか、翼を大きく拡げて飛び上がった。




 「あっ!ボブーーー!!何処行くのーーーー!!」

 



 ばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさ!!




 ポポ姐さんの制止を振り切って、ボブは大空高く飛び立った。




 「おーーーーーい!!風船やーーーい!!待ってくれーーーーーー!!」


 

 ばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさ!!




 ドバトのボブは翼を強く羽ばたかせて、何処かへ飛んでいる筈の赤い風船を探し回った。




 ばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさ!!




 「あったーー!!」


 ボブは、ふわふわと揺れて風に煽られ天高く昇っていく赤い風船を発見した。



 ふわふわ・・・




 ふわふわ・・・




 「おーーーーーい!風船やーーい!待ってくれーーーーー!!」





 ばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさ!!





 もう、どのくらい高く飛んでいるのか、ドバトのボブは解らなかった。


 ボブの目の前には雲の真只中が拡がり、それらを縫って飛んでいく赤い風船だけを鳥目で追っていた。




 ばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさ!!





 ・・・翼が疲れた・・・


 ・・・休みたい・・・



 ・・・でも休む場所はこの空には無い・・・




 ・・・それにしても、あの風船は何処まで飛んでいくんだ・・・?




 ・・・待ってくれよ・・・




 ・・・もう翼はヘトヘトだよお・・・




 ドバトのボブの翼は、風圧で羽根が抜け、ボロボロになっていた。




 目の前の赤い風船も、見た目若干『洋逆梨状』に付根まで膨らんでパンパンに見えた。

 気圧で中のヘリウムガスが膨張し、ゴムが伸びて張りつめたのだ。




 もう、雲間も突破した。




 ・・・ここは、何処だろう・・・




 ・・・息が苦しい・・・




 ・・・ポポ姐さんが言ってたな・・・




 ・・・雲の上は、『成層圏』だと・・・




 ・・・その上は『宇宙』だと・・・





 ・・・飛んでもない場所に来ちゃった・・・!!




「ん?!」




 ドバトのボブの目の前に、大きく膨らんだ赤い風船が映った。


 「ひゃっ!!」


 そうなのだ。追い付いたのだ。飛んでいく風船に間に合ったのだ。



 「風船ー!!風船ー!!風船に追い付いたー!!」


 ドバトのボブは感激の余り、鉤爪を開いてそのはち切れんばかりの赤い風船の紐を掴もうとしたとたん・・・




 ばぁーーーーーーーん!!!!!!





 「ぽっぽぉーーーーーーー!!!!!」





 ・・・・・・





 ・・・・・・





 ・・・?・・・




 「あ、ボブが!!」


 「ボブが生きてたぁーー!!」


 「ボブぅーーー!!今まで何してたんだよーーー!!」


 「ボブぅーーー!!お前、人間の『フワフワ』の上で気絶してたってなあ、本当に無事で何よりだよ。」



 ドバトのボブが目覚めると、周りにドバト仲間達が皆集まってきていた。


 「あれ?皆・・・」



 

 「ボブぅーーー!!無事だったのねーーーー!!」




 ハトリーダーのポポ姐さんが飛びかかってきて、ボブを翼で抱き締めた。


 「ポポ姐さん!!心配かけてすいません!!」


 「ボブぅーーー!!今まで何処行ったの?!」


 嬉し涙のポポ姐さんは首を曲げて、何度も会釈をしているボブを問い詰めた。


 「俺・・・あの赤い風船を追いかけて、遥か上空の『成層圏』まで飛んできた。」




 「ええーーーっ!?」


 「嘘つけーー!!」




 ドバト仲間達は、ボブのその報告に皆疑心暗鬼になっていた。


 「本当だよお!!本当だってば!!俺は『成層圏』まで飛んできたんだーーー!!」


 「で、その証拠は?!」


 「えーと、えーと、えーと、えーと・・・」


 ボブは、何も把握出来てなかった。


 「あるじゃん!!ほら・・・」


 ポポ姐さんは、ボブの尾羽を見て言った。


 「ボブちゃんの尾羽に、割れて散りぢりになった!!赤い風船の破片付いてるよーーー!!」



 「うわー!!本当だーーー!!」




 くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!


 それからと言うものドバトのボブは空を見詰めては、今でも何処かで、何処かの空で飛んでいく風船へ想いを馳せるようになった。




 「風船って、不思議だなあ。あ、風船持ってる女の子!!」




 ダダダダダダァ!!




 「やっぱりあの人間の女の子!!俺らを追いかけてきた!!」


 「ひえーーーっ!!」




 くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!



 「俺に任せろ!えーーい!!」



 ボブは、女の子の持っている緑色の風船に向かって飛び出した。




 ぽーーーーん!!




 女の子はビックリして、思わず持っていた風船を放した。




 ぽーーーーん、


 ぽーーーーん、


 ぽーーーーん、 


 ぽーーーーん、



 緑色の風船は地面に転げた。




 ぽーーーーん、


 ぽーーーーん、




 ぱぁーーーーーーん!!




 「くるっーーーーくーーーー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!」




 割れた風船にビックリしたドバト達は、一斉に飛び立った。




 「プップちゃん!!何であの風船飛ばなかったの?!」


 「ボブさん、知らなかったの?あの風船はただの『空気』が入ってるからよ!!『ヘリウムガス』入りじゃないの!!解る?」




 「へーーーーそうなんだぁーーーー!!風船って不思議だなーーーー!!」



 くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!




 別の日。


 


 「わーーーっ!!また人間の子供がやって来たぁーーー!!」

 

 「退散!!退散!!」



 

 「僕に任せろーーー!」


 ドバトのボブは、大はしゃぎしながらドバトの群れに突進して蹴り飛ばしてきた男の子に向かった。


 「またこいつも風船持ってるぜ!!よーーし!!割っちゃえ!!」



 ばさばさばさばさばさばさばさばさ!!




 「えいっ!!」


 ボブが鉤爪を立てて、男の子の持ってる青色の風船に襲いかかった。


 


 すこっ・・・



 「あれっ!?」




 ぷしゅーーーーーー!!ぶおおおおーー!ーーーーしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!




 「うわーーー!!」


 「風船が襲ってくるーーー!!」


 「ボブーーー!!何とかしろーーーー!!」




 ばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさばさ!!




 突然の風船の襲撃に周囲のドバト達は、右往左往に飛び回って大騒ぎした。




 ぽとっ。



 すっかり空気が抜けて萎みきった風船は、あの喧嘩っぱやいポップの体の上に覆い被さるように、ぱさっと落っこちた。




 ・・・やばっ・・・!!



 ボブは青ざめた。



 ・・・またキレられる・・・!!



 てくてくてくてくてくてく・・・




 「よお、『宇宙行き』のボブぅ・・・!」




 ・・・きた・・・!!




 「この風船、膨らませられるか?」



 ・・・はあ・・・?



 ボブは拍子抜けした。


 「どうやるの?知ってるの?」


 「おうよ、こうやってな、この『袋』の『穴』に嘴を突っ込んでな、」


 ポップはそう言うと、萎んだ風船の吹き口に顔を突っ込んで、息を思いっきり吸い込み

、七色に光る首元の喉袋を孕ませて、顔を真っ赤にして、




 ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ!!!!!




 と、思いっきり息を吹き込んだ。





 ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ!!!!!




 ぜえ・・・ぜえ・・・




 どたっ!




 ポップは遂に、身体中の空気を使い込んで精尽き果てて、その場でへたりこんだ。


 「ポップさん、僕がやってみる!!ここに息を吹き込めばいいんでしょ?」


 「膨らめられるの?お前?」


 「分かんないけど、やってみる!!」


 ドバトのボブはそう言うと、顔を風船の吹き口を突っ込ませて、



 ぶふーーーっ!!


 ぶふーーーっ!!


 ぶふーーーっ!!


 ぶふーーーっ!!




 どてっ!!




 「ぜえ・・・ぜえ・・・僕もダメ・・・」


 「じゃあ、あたいが膨らませたる!!」


 「ポポ姐さん!!出来るの?!」


 ドバトのポポ姐さんは、ゴム風船の吹き口に顔を突っ込ませて、翼で空気が漏れないように押さえつけて・・・




 ぷぅーーーーーーーー!!!!!




 ぷくぅ!!





 「わーーーーい!!ポポ姐さん!!凄い!!風船がパンパンに膨らんだ!!」


 「でしょ?!あたい、気嚢の肺活量なら他のハトには負けないの!!ぽっぽーーーー!!」




 「今度は俺に膨らまさせて!!」「僕も!!」「俺も!!」「僕も!!」「いや、俺だ!!」「いや、僕が!!」




 くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!くるっくー!!



 独りぼっちだった、ドバトのボブ。

 風船に出逢ってから、『友達』がいっぱい出来た。

 それが、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。




 

 ~ドバトのボブと赤い風船・END~


 





 

















 




 

 

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