第25話 里長

 エルフたちの視線にも慣れてきて、少し気分も落ち着いてきたせいか、急にお腹が空いてきた。素振りで体力を使っていたせいか、町で買いこんでいた食料は、今掌にのせている干した果物一つだけになってしまっている。

 ……最後の食料も食べてしまった。エルフの里で何も食べられなかったらどうしよう。人間にも食べ物を売ってくれるのかな。そもそも人間のお金が使えるのかが微妙なところだ。

 村に暮らしていた頃はいつも空腹だったのにな。ハンバーグとかメンチカツとか食べたせいで、空腹が我慢できなくなってきたみたい。カレーライスっていうのも食べてみたかったなー。気になるなー。

「ニッチ。エルフの里のご飯って美味しいの?」

 虫とか食べてたら嫌だな。せめて野菜とか果物とかであってほしい。あと、魔物も食べたくない。

「人間と大差ないぞ。森に生えている茸とか、森のイノシシとか、里で育てた野菜だな」

「イノシシかー」

 お肉があるってことは村よりかはマシだ。ていうか、私の住んでた村が酷すぎるだけなんじゃ? 毎日ジャガイモばっかり食べてたんだけど。

「このあたりのイノシシは栄養満点な茸を喰ってるから美味いんだ」

「そうなんだ」

 イノシシ食べてみたいな。そこらへんに歩いていないかな。

 ……あれ? ちっちゃいのが倒れてる。

「ニッチ。こっちきて」

「なんだ?」

 ちっちゃいのに近づいてみた。建物の間に隠れていて、たまたま誰にも見つかっていなかったみたい。可愛い。

「なんだろう。子犬じゃないよね」

「そりゃウリ坊だな。イノシシの赤ちゃんだ。怪我をしているみたいだぞ」

 本当だ。建物の影で分かりづらいけど、前足を怪我しているみたい。

「鳥にでも捕まって、里の上空で逃げて落っこちたんだろ。ほら、貸してみ」

 ウリ坊を掴んでニッチに渡す。ぐったりしてるね。逃げようとする様子はない。

 ニッチは治癒魔法でウリ坊の怪我を治した。森でニッチの胸を魔剣でぐりぐりた時の傷治ってるなって思ってたけど、治癒魔法で治していたんだね。

「怪我は治せても体力は回復できない。あとはルナに任せた」

 ウリ坊を渡される。私も体力の回復なんてできないんだけど。

「見つけた者の責任ってやつだな」

「そんな言葉初めて聞いたよ」

 まあ、仕方ないか。捨てるわけにもいかないし、食べごろになるまで育ててあげよう。


🌙


 ウリ坊を抱っこしたまま、里長さんのところを目指す。私が汗臭いせいか、ウリ坊は抱っこを嫌がっているように見える。ウリ坊も汚れてるからお互い様だね。早く洗ってあげたいけど、もう少し我慢してね。

 えっと、まだ里長さんのところへはつかないのかな。

「ルナ。じっとしてろよ」

「え?」

 どういうことかを聞く前に、強い風が一度だけ私たちに吹いた。すると、私の体が宙に浮かびだす。

「ニッチの魔法でやってるの?」

「ああ、そうだ」

 少しびっくりしたけど、風魔法が得意なエルフなら、この程度のことは朝飯前なのかな。私の体はどんどん上がっていく。

 あ、なるほど。木の上に建物があったのか。こうして高いところまで上がって初めて気が付いた。ゆっくりと木の上の建物の前に着地する。

 なんでこんなところに建てたのか気になる。エルフの皆さんにとってはかっこいいってことなのかな。

「あーめんどくせー。魔法使わなきゃ入れないとか、意味分からん建物だよな」

「……そうだね」

 少なくても一人はかっこいいと思わないエルフがいるみたいだね。さてと、気を取り直して行こう。

「この建物に里長さんはいるの?」

「ああ、俺の兄貴が待ってるはずだ」

 ニッチのお兄さんか。なんか弱そう。


🌙


 女性のエルフについていくと、無駄に大きな椅子に座っている男のエルフの前に着いた。里長だから他のエルフより大きかったりするのかと思っていたけど、どうやら体格は他のエルフとたいして変わらないみたい。

森の破壊王ダークグリズリーを倒したと聞いたが、ただのガキではないか」

 いきなり失礼なことを言われた。

「弟を助けたことには感謝してやろう。明日まで里に滞在することも許す。だが、我らも暇ではなくな。面倒事を起こさぬよう監視はさせてもらうぞ」

「構わないよ。で、杖を持った人間の女性はどうなったの?」

 すぐにでも追い出されそうだから、さっさと聞きたいことを聞いておいた。このエルフ嫌いだから、聞くことだけ聞いてさっさと戻ろう。

「我の力で追い返してやったわ。そう易々と渡したりはせん」

 渡す? 何を?

「ニッチ。人間どもの監視はお前に任せる。言っておくが、恨まれるようなことはするでないぞ」

「分かってるさ」

 もう手遅れですよっと。ニッチは森の破壊王連れてきて、里長さんはムカつく。今のところお医者さんにしか好感をもっていない。

 情報収集をしないと駄目みたいだけど、まずはウリ坊のことだね。綺麗にしてあげて、どうにかして体力をつけさせてあげないと。その後に私もご飯を食べよう。早く二人のところに戻りたいけど、少し時間がかかりそうだね。

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