第6話 森の破壊王

 フレンは信じられないという顔で森の破壊王ダークグリズリーを見ていたけど、まったく動かない様子に納得したのか、隠れている木から出ようとした。私は慌てて腕を掴む。

「ちょっと! これ以上近づくのは危ないよ。死んじゃうかもしれないんだよ」

 もう、どうして警戒もせずに近づこうとするの。びっくりしたよ。

「死んでいるのは魔物の方だろう? それよりも早く手がかりを探そう」

 え、まだ気づいていないの。

「手がかりは森の破壊王だよ。あと、あれは死んでるけど……」

 やばい、気付かれてる。森の破壊王の首がゆっくりと動いて、私たちの方へ向く。光のない眼は確実に私たちの方を見ていた。

「死んでるけど?」

「逃げよう!」

 フレン鈍い。腕を引っ張って、これまで歩いてきた道を走る。

 後ろから二種類の足音が聞こえる。もちろんフレンと森の破壊王だ。あと何かが破裂するような音も聞こえる。何が破裂しているのか想像もしたくない。

「木を破壊しながら追いかけてきている! あれは死んでたんじゃ」

「呪いでゾンビ化してるの!」

 ゾンビ化。呪い系統の魔法でも起こすことができる現象。呪われた魔力を感じるなんて初めから嫌な予感がしていたけど、ここまで不味いことになるとは思わなかった。

「駄目だ! 追いつかれる!」

 フレンはそんなことを言っているけど、あんなのに勝てるわけがない。逃げるしかない。

「先に行くんだ!」

「あっ」

 強い力を手に感じた時には、フレンの腕と私の手は離れてしまっていた。振り返るとフレンが森の破壊の胸を切り裂いていた。でも致命傷には程遠い。ゾンビ化している森の破壊王にとっては無傷と言っていいダメージだ。攻撃したフレンの方はというと剣が折れて半分になってしまっている。

「グゥルルルルルル……」

 森の破壊王が唸り声のようなものを出している。まだ声を出せる体なのか。ゾンビ化してから時が経っていれば、体が腐って動きが悪くなっていただろうに。死んだばかりだと生きていた頃と動きが変わらない。

 フレンの方を向いているうちに少し逃げて隠れた。先に行くように言われたけど、これ以上逃げるつもりはない。私は旅を楽しむと決めたんだ。ここでフレンを見捨てたりしたら、絶対に旅を楽しめなくなる。


🌙


 フレンは攻撃を避け続けていた。ゾンビ化した森の破壊王の攻撃が単純なおかげだろう。でも、疲れを知らないのか、一向に攻撃が止まることがない。このままではいずれ当たってしまう。

 今のうちに何か弱点を見つけないと。先生のメモ帳に何か書いていないかな。私に敵の弱点を見つける力なんてないから、このメモ帳だけが頼りだ。

「がは!」

「フレン!」

 反射的にフレンの方を見ると、攻撃をまともに受けてしまったのか吹っ飛んでいた。一撃で来ていた鎧が砕け散り、半分になっていた剣は手から離れて落ちる。でも、鎧が攻撃を吸収してくれたのか、フレンはよろよろと立ち上がった。

 時間が無い。何でもいい。何か情報を……何か……

「うぅ……」

 見つからない。最後まで簡単に読んだけど、それっぽい情報は一つもなかった。もう一度しっかり読む時間なんてない。

 森の破壊王の方を見る。大きな傷跡があるとか弱点はないの? 頑張ってフレンが避け続けてくれてるのに……

「あれ? それって……」

 ちょっとおかしくないかな。フレンはさっき受けた攻撃のせいで動きが格段に鈍ってしまっている。でも、まだ攻撃を避け続けることができている。最初よりも余裕がないなんてことはない。

 何か引っかかる。


🌙


 弱点が分かったかもしれない。でも、分かったからってどうしようもない。こんな化け物を倒す方法なんて……

 いや、倒す必要はない。今はそんな状況じゃない。フレンを助けて、ここから逃げる方法を考えるんだ。弱点をついてもつかなくてもいい。見つけないと。逃げる方法を。

 ……あれだ!

「がっ!」

 使えそうなものに近寄ろうとしたらフレンが吹っ飛ばされた。今あれに近づいたら気づかれるかもしれない。

 やるしかない。このままだとフレンが殺されちゃう。なら、私はここで命を懸ける!

 震える足を叩いて走る。森の破壊王が「ガルル」と唸りながら私を見るのが見える。でも止まっちゃ駄目だ。

 間に合った! フレンの着ていた鎧。バラバラになったけど、粉々にはなっていない。金属だから予想通り重い! これを誰もいない方向へ投げる。

「あ」

 いつの間にか森の破壊王の手が目の前まで迫っていた。ちょっと間に合わなかったか。

 フレン。動いたら駄……

……


🌙


 体が痛い。どこが痛いんだろ。全身? そんな痛みのせいで目が覚めてしまった。

「どこ?」

 お布団で寝ている。どうして? 何をしていたんだっけ。旅を始めた気がする。フレンっていう優しいお兄さんが隣にいて、カマキリと戦って、町を目指していた?

 合ってるけど違う。森に入ったんだ。それで化け物に遭って……

「フレンはどこ?」

 駄目だな。情けない声が出ちゃった。体が痛いせいで弱気になっちゃったかな。私は弱いけど、気持ちは強くないと。一番じゃなくてもいいから頑張れってお父さんがお願いしてくれたんだから。お父さんの最期のお願いなんだから。

 痛みを我慢して上半身を起こす。体に何か巻いてある。包帯ってやつかな。

 フレンは……いた。隣でぐっすり眠ってる。ちゃんと息をしてくれてる。

「良かった……」

 ここがどこなのかは分からない。でも、隣にフレンがいる。だったらどうにかなる。

 安心したからか眠たくなってきた。

「おやすみ。フレン」

 横になる。よく眠れそう。

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