仕方ないので旅に出ます

くまくま

1章 呪いの杖

第1話 旅は始まらない

「今から500年前のお話。どんな強力な魔法も無力化する魔法使いと、どんな頑丈なものでも一撃で破壊する魔法使いがいました。二人は競い合うライバルとなり、いつしか愛し合うようになり、二人の間には子供ができました。この二人の子孫が賢者様と言われています」

 歴史の授業。いつも思うけど、こんなことを学んで何の役に立つのだろう。畑仕事をするよりかは、こうして座布団に座って先生の話を聞いている方が楽でいいけれど、どうせなら意味のある事を学びたい。

 そうだな……例えば魔法の使い方とか。魔法が使えたら魔物に襲われた時に助かる可能性が増えるかもしれない。まあ、先生も魔法使えないだろうから仕方ないか。先生どころか村には一人も魔法を使える人がいない。使えたらどっかにある魔法学校へ行ってるか。

「ルナさん。先生の話を聞いていますか?」

「……あ、私か」

 名前を呼ばれたような気がしたから周りを見ると、みんなが私の方を見ている。うるさくしてるわけでもないんだからほっといてれたらいいのに。今日の授業内容も予習しているから、予習しまくっているから退屈なの。教科書に書いていること以上のことを話してくれるのなら話を聞いてもいいけど、教科書の内容をそのまま話しているだけなら、家で教科書を読むだけで充分だ。

 さて、適当に言い訳しようかな。いつも通りに。

「さっきの話で気になったことがあってね。愛し合った二人は男女だったのかな? 男同士だったのかな? とか」

「男女に決まってます!」

 怒鳴られてしまった。先生は顔を真っ赤にして震えている。そんなに怒らせるとは思わなかった。

「ルナさん!廊下に立ってなさい!」

「えー」

「早く!」

 むー、酷い。ちょっと言い訳しただけなのに。でも、先生の命令なら仕方がないか。だらだらと教室から出ていく。

 これで三日連続で廊下に立つことになってしまった。先生には嫌われたもんだな。たぶん、先生の話をちゃんと聞いていないのに、いつもテストの成績が一番だから嫌われたかな?

 別に嫌われてもいいけどね。嫌われてしまったのなら仕方ない。気にしない。


🌙


 しばらく待っていたら教室に入れてくれると思っていたけど、忘れられてしまったのか、それとも私を教室に入れるつもりがないのか、歴史の授業が終わって次の授業が始まっているのに入れてくれる気配はない。

 今やってる授業は何だっけ。どの授業も退屈で興味もないから覚えてないや。教室にも入れそうにないし、じっとしているのも疲れたから外に出ようかな。気分転換に散歩でもしよう。

 外に出ると村のみんなが一生懸命働いている。どんなに一生懸命働いても、顔も知らない領主のところにほとんど持って行かれて、村には食べ物もお金も少ししか残らない。でも、みんな家族がいるから仕事をサボることができない。

 みんなが一生懸命痩せた体で働いているのを見ると、何にもやる気が出ないというか、この村に生まれたことを後悔してしまう。生まれる場所なんて選べないから、仕方ないことではあるんだけど。

 こんなことを思ったらお母さんが可哀そうかな。思うだけなら別にいいか。

「あら、ルナちゃんじゃない。学校はどうしたの?」

「あ、こんにちは。リーゼおばさん」

 ズボンが汚れてる。畑仕事の帰りかな。あ、よく見るとジャガイモを両手に一個ずつ持ってるね。夕飯にでも使うのかな。

「学校は退屈だから散歩中」

「駄目よ。学校がある村なんて滅多にないのだから」

「この貧乏な村で唯一の取柄だよね。短所でもあるけど」

 子どもが学校へ行くということは。その分労働者が減るということでもある。正直なところ、この村に学校があってもそれほどメリットはない気がする。

「そうね。でも、友達と一緒に学んだ時間は無駄にはならないはずよ」

「えっと、コミュニケーション能力ってやつ?」

「まあ……色々よ」

 リーゼおばさんの言っていることも分からないでもない。学校へ通うことで信頼できる友達が一人でもできたら、それは素晴らしいことだと思う。でも、お母さんやリーゼおばさん……村の大人たちが苦労しているのを見るのも辛い。

 でも、子どもは学校へ行かないといけないというルールがこの村にはある。苦労しているのを見るのは辛いけど仕方ない。


🌙


 リーゼおばさんと別れて、学校へは戻らずに散歩を続ける。たまにはこうして村を歩き回るのも悪くない。

 もうお昼を食べ終わってから随分と時間が経っている。さっきまでは畑で仕事している人もいたけど、もう仕事を終わらせた人が増えてきた。鍛冶屋さんとか商人さんとかはまだ頑張ってるね。

 ……ん? 見かけない人が歩いてるね。剣を持ってる人と杖を持ってる人がいるから冒険者か何かかな。

 暇つぶしについていってみようかな。雰囲気からして悪い人には見えないし。

「この村に宿はありますか?」

「ないねぇ、客なんてほとんど来ないからねぇ」

 どうやら泊まる場所を探しているみたいだ。今から村の外に出たら、一番近い村に着く前に暗くなってしまう。この村で一晩過ごすのは正解だね。でも、残念ながらこの村に宿はないし、民家に泊めてもらおうにも、泊められるほど裕福な人はいない。私の家も貧乏だから、この人たちに声をかけたりはしない。たくさんお金をくれるのなら話は別だけど。

「一晩だけ泊めてくれませんか?」

「すまないねぇ。もてなせるほど余裕がないんじゃよ」

 まあ、断られるよね。冷たい村だと思われるかもしれないけど、悪気があって断ってるんじゃないんだよ。

 冒険者の人たちは諦めて歩き出す。怒って暴れ出さなくて良かった。

 そういえば剣持ってる人が男で、杖持ってる人が女だね。恋人同士だったりするのかな? さっきの授業で魔法に強い魔法使いと魔法が強力な魔法使いの間に賢者ができたって学んだ(まあ、予習で知ってた)けど、この二人に子供ができたとしたら魔法剣士とかになるのかな? それとも盗賊とか全く別のにもなれる? そういうことを知りたいよね。


🌙


 冒険者についていくの飽きたから学校に戻るとみんな帰っていた。私も荷物とって帰ろう。

「ルナさん」

 一人で残っていた先生に話しかけられる。どうやら今は怒っていないようだ。

「なんですか? 先生」

 先生とは仲良くお喋りするほど仲良くないと思う。喧嘩するほど仲が良いという言葉があるけど、その通りなのだとしたら仲良しなのかもしれない。

「廊下に立たされて怒ったのかもしれませんが、勝手にいなくなられると困ります。廊下に立つように言われたのなら、おとなしく廊下に立っていてください」

「すみませんでしたー」

 一応謝っておく。まったく反省はしてないけど、私にプライドとかそんなものはないから、謝罪の言葉なんていくらでも出てくる。

 さて、謝ったことだし帰ろうか。

「ルナさん。外は暗くなってきたので気をつけて帰ってくださいね」

「はい」

 先生にこういうこと言われると、心配してくれているのか、子ども扱いして馬鹿にしているのか分かりにくい。まあ、私はまだまだ子供だから、心配してくれているのかな。同年代のみんなよりかは大人びているつもりだけど。


🌙


 家が見えてきた。でも、いつもはない物が家の前に転がっている。

 ……いや、物じゃなくて者か。どうやらさっき見た冒険者の男の方が倒れているみたいだ。女の方は見当たらないな。私の家の前で寝ないでほしいんだけど。

 家のドアノブを掴む。何故か胸騒ぎのようなものを感じるけど、気にせずにドアを引いた。

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