お湯ラーメン
桜雪
第1話 お湯ラーメン
前日まで風邪で会社を休んでいた土曜日の朝、少し体調も良くなったようだ。
会社を2日病欠したのだ、この週末で体調を戻したい。
ベッドの中でウトウトしていると、携帯が鳴った。
手を伸ばして、時間を見ると13:20。
電話の相手は、20年来の友人『
「ヒマなら飯食いにいかないか?」
少しは食欲も戻っていた私は、彼に誘われるまま、おすすめのラーメン屋に向かった。
ラーメン屋は、いかにも『
店の売りは、ニンニク無料。
絶対、自分では選ばない店だ。
座敷に通され、メニューを覗くと、がっつり濃いめのラーメンが並ぶ、
『
私は昔から、彼のおすすめを避けるようにしている。
私は、一番あっさりしてそうな、塩ラーメンを注文することにした。
『
塩ラーメンと味噌チャーシューメンが運ばれてきた。
彼は、おもむろにテーブルに置いてある、すりおろしニンニクに手を伸ばし、
ドカッ!ドカッ!と4~5杯ラーメンに乗せて食べ始めた。
私は異様に澄んだスープをレンゲで、ひとすすり…。
ん…味がしない…。
もうひとすすり…やはり味がしない。
『
「味がしない」と告げると、
彼は、ひょいっと私のスープをレンゲですくい、ズズッと、すすって
「上品な塩味だよ、薄いというか麺の太さに合わせて
「昨日まで風邪で寝込んでたからな、舌がおかしいのかもしれない」
「ああ、じゃあ、なおさらだな、この店はニンニクで味を
私は、レンゲに少し味噌スープを飲んでみた。
濃い!!そしてニンニク半端ない。
まあ、それでも麺と野菜炒めだけ食べて、
猫舌の『
おばさんが、お冷を入れてくれた。
「この店、薄味なんですね」
悪気は無かった。つい口が滑ったのだ。
おばさんは申し訳なさそうに、頭を下げ、
「すいません、お口にあわなかったら、御代結構ですので…」
「あ、すいません! そういうつもりじゃないんです。」
私は、慌てて頭を下げた。
余計な事を言ったと、恥ずかしくなった。
『
「そういうこと言うなよ!!」
そのとおりだ…反省。
『通』は、味噌ラーメンに水を入れてスープを飲んでいる。
濃いのか?もしくは熱いのか?
ラーメンに水を継ぎ足して食べる人間を、私は他に知らない。
『通』は味噌チャーシューメン・ニンニクバカ盛り、
タバコを一服。
ほどなくして、先ほどの、おばさんが空いた器を下げに来た。
おばさんは、ふたたび申し訳なさそうに
「あの、ホントに、御代結構ですので…」
「いえ、気にしないでください風邪気味で…僕の舌がおかしいんですよ」
ハハハと愛想笑いをした。
気まずい感じ満載…くつろぐ『通』を
「料金一緒で…」と私が言いかけたとき、
奥から、野太い声で、
「塩ラーメンのお客様!!」
体格のいい店主が厨房から、こちらへ歩いてくる。
(あぁ…やらかした…怒鳴られる)
「はい…僕です…」
「すいません!!」
頭を下げられた…?。
ん?…この野郎!!じゃなくて?
私は、頭を下げかけていたので、アレ?
「塩の基《もと》を入れ忘れておりました…本当にすいません」
私よりも先に事態を理解した友人は、
「誰に何を食わせてるんだ!」と怒鳴り始めた。
ああ、そういうことか、どうりで…うん納得。
それにしても、コイツは……。
(お前は味噌チャーシューメン・ニンニクバカ盛り・
と思っていた。
「食べたんだから御代は払いますよ」
と、なぜか低姿勢に頭下げる小心者の私。
「じょうだんじゃねぇ!!二度と来るか!!こんな店!!」
と捨て台詞を吐いて、店を後にしようとする友人。
(お前は払えよ!!)
と思ったが、口にはしなかった。
「コレ良かったら」
とおばさんがサービス券を束で差し出すと、
申し訳ない気持ちでいっぱいの私の横から『通』は、
ヌッと手を伸ばしサービス券をひったくった。
(お前、二度と来ないって…)
私は
とりあえず頭を下げて店を後にした。
結局、二人とも代金は払わずに……。
帰りの車内、ニンニク臭い息を振りまき、得した!!を連呼して上機嫌の『
私は、無言で窓を開けた。
臭くて耐えられなかった。
『お湯ラーメン』
助手席で風を浴びながら、なぜかそんな言葉が頭を過った。
そんな、味のないお湯ラーメンを食って、上品だ、なんだと味を語るコイツが嫌いだ。
塩が入っていない上品な塩味について、彼に追求したい気持ちもあった。
昔から、私は彼を味覚音痴だと思っている。
彼の、おすすめの店は私の口には合わない。
私の中の鉄板のルールだ。
そんな彼との食事エピソードは数多い。
もし、読みたいという人がいれば、
次回は、オムライスとチャーハンは別の食べ物です。
でお会いしましょう。
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