(3-2)

2.

「おや、こんなところに」

 地上の施設内を散歩していたクリスは広葉樹の根元に寝そべる猫を見かけ

た。この施設は外界から隔絶されている。鉄条網の外はだだっ広いモハーヴェ

砂漠で、最寄りの街までは八〇kmはある。となれば野良猫ではなく誰かの飼

い猫だろうか。首輪もないので区別はつかなかった。

 触れようと近づくと、間合いに入るなり逃げられた。ムキになって本気で追

いかけるもすぐに姿は見えなくなった。猫の身体能力にはいつもながら感心さ

せられる。

 気がつけばスポーツ施設の密集するエリアに足を踏み入れていた。向こうか

らテニスの音が聞こえる。プレイヤーは崎島とオドンネルだった。

「サキジマ。なかなかやるじゃないか」

「は、はあ。そうですね」

 崎島は圧勝していた。日本的な接待ならここで「いえいえ所長も」などと答

えるところだが、お世辞にもそんな台詞が喉から出てくるような腕前とはいえ

なかった。この一方的な展開も、初心者でありながら本気を出すことを条件に

勝負を挑んできたオドンネルが悪いのだが。しかし、下手なくせに体力だけは

ある。疲労が蓄積するにつれ、崎島もじょじょに追い詰められている気がし

た。

「お、クリス。いいところに。所長の相手をしてやってくれ。正直僕は疲れた

よ」

 クリスもまた遠慮なくオドンネルを叩きのめしたが、あいかわらず彼は底な

しの体力を見せた。クリスの腕前は崎島を凌駕するものだったが、クリスもま

た次第に疲労。オドンネルがコツを掴んできたのも相乗してか、試合を重ねる

ことに点差は縮まっていった。そしてついに、オドンネルは最後の一回でぎり

ぎりの勝利を収めた。その執念深さに崎島もクリスも倒れ込んでしまった。

「最後に立っていたものが勝者だよ」

 オドンネルはなぜか勝ち誇っていた。

 崎島を含め、ここには日本人科学者が何人かいることもあり療養施設として

銭湯まで用意されている。汗を洗い流すため、オドンネルは物珍しさに二人を

引き連れて最近になって開業した銭湯へ向かった。日本人の崎島からすると、

珍妙な日本語や中国の銅鑼など怪しいインテリアが目についた。一抹の不安を

覚えながらも浴場へ。米国に銭湯の習慣はないと聞いていたので日本人ばかり

かと思ったが、意外にも多様な人種が真っ裸で湯船に浸かっていた。カルキ臭

いのはやむを得まい。崎島らもまたそのなかに加わった。

「いやあ、テニスもなかなか面白いな。なぜ今まで手を出していなかったのか

我ながら理解に苦しむ。そうだ、今度は研究チーム対抗でバスケットボールで

もどうかね。崎島はまだ参加したことはなかったかな。私のチームはかなり強

いぞ」

 白髪混じりにしては、つくづく元気な人だと思う。

「バスケについてはあまり経験がありませんね。どうぞお手柔らかに」

「ふむ。それではしばらく練習期間も設けて本格的な大会でも企画してみる

か。優勝賞品つきでな。ドアを使ったスポーツなんてのも面白そうだ。なにか

いいアイデアはないかね」

「バスケと組み合わせるなら、壁際にドアを設置しそこに投げ込むと反対側に

パスできる……なんてのもトリッキーで面白いかも知れませんね」

「いやいや、君はもっと面白いスポーツを知っているはずだ」

「? なんのことです」崎島は本気でわからなかった。

「君の偉大な業績については聞いている。ドアを使って女湯を覗くというプラ

ンは見事だ。どうだ、女性デーを標的に今一度私と共に実行してみる気はない

か」オドンネルはあくまで真顔で、いやらしいところを突いてきた。

「米国が近年その諜報能力を失っているという話は聞いていましたが、本当だ

ったんですね」崎島はなんとか平静を保ちつつ切り返した。

「どうかな。では、長らく密偵を続けていた優秀なる米国諜報員に直接尋ねて

みよう。クリス、彼の計画は成功したのか?」

「大成功です。事故を装うことで自らの良心を保護することにまで成功してい

ます」

「とのことだが?」

「週一の混浴で十分じゃないですか……」

 崎島は沈んだ。文字通りに。さすがにいじめすぎたと思った二人は、話題を

変えて具体的な作戦会議に移った。その結果、法に触れることが判明。あえな

く計画は破棄されることとなった。


 ドア条約を話し合う場として安全保障理事会はロシアと中国の拒否権のため

に機能せず、新たな国連機関IDA(国際ドア機関)が発足することとなっ

た。このIDAに、ロシアは思ったよりもすんなりと加盟した。中国はしばら

く渋っていたが、IDAに加盟せざるを得ない「なにか」に見舞われたために

加盟を表明した。オリジナルドアの存在を信じるに足る「なにか」が起こった

のだ。こうして、のちの条約会議はIDAに移ることになる。ちなみに略称の

被っていた国連専門機関IDA(国際開発協会)は改名を迫られ、のちにUN

DA(国連開発協会)と変更された。

 IDAでも、あいかわらずオリジナルドア疑惑が議論された。ドア論文が発

表され、崎島博士の経歴とその周辺を調べた各国は当時みな同じ結論に達し

た。すなわち、オリジナルドアの存在と、崎島博士がその保有者であるという

こと。その博士が今は米国に亡命している。ならば当然、現在は米国がオリジ

ナルを保有しているものと推察できる。

 しかし、このシナリオは論理的に筋は通っているが証拠がない。米国はしら

を切り続け、結果としてロシアも中国も折れることになる。いくらかの譲歩は

必要としたものの、結果として米国の望む形となって条約は成立した。

 条約の内容は、まず米国・中国・ロシア・イギリス・フランスの五カ国以外

の戦略ドア保有を禁止することを前提とする。「戦略ドア」とはこの条約のた

めの便宜的な呼称であり、特に射程が二kmを超えるドアを指す。言い換える

と、五カ国以外は民間用に二kmの射程制限を設けたドアの保有が認められた

ということになる。

 五カ国の戦略ドアは、保有数・射程・サイズの制限に加え、非同盟国との国

境付近での実験施設の建造禁止、特にロシアと中国についてが強調された。む

ろん、すでに国境付近に建造している研究施設は破棄されることになる(米国

でもアラスカ州での建造が禁止されたが、その程度の影響でしかない)。米国

が一人勝ちとなるこの条件について中国は当然のこと抗議したが、奇妙なこと

にロシアは静かだった。最終的には両国とも無用な衝突は避けたいと考えたの

か、この条件は飲まれた。

 最も重要な項目である射程については、一律して二〇〇〇km以内に定めら

れた。これにより米国はメキシコに、中国は日本と東南アジアに対し絶対的な

優位を手にし、ロシアは対外的には利するところはなかったが国土管理は楽に

なった。

 条約締結後、米国はその提案者でありながら、いかに条約審査を誤魔化し射

程を伸ばすかに腐心していた。アリゾナ州の加速器に偽装した秘密研究所は依

然として極秘扱いのままだ(米国の予想に反し、この研究所のことが名指しで

言及されることはなかった)。

 また、中国も情報公開には不透明な点が多く、数値にいくつかの誤り(ない

し欺瞞)が発見された。これらは直ちに訂正された。当然のように中国にも秘

密研究所疑惑があったが、これに対しては「IDAを悪用して諜報に利用する

ことは許されない」と査察を拒否。ある意味で予想どおりの展開だった。

 一方、ロシアはまるで怪しいそぶりを見せなかった。国際会議の場にてあれ

ほど米国に噛みついていたロシアだが、条約締結後の動きは大人しかった。主

な動きとしては、「制限のない口径で勝負をする」と大口径を売りにした新型

ドアの建造を発表。その設計仕様についての説明も丁寧で誤魔化しがなかっ

た。この静かさはかえって米国の不安を煽り、疑心暗鬼に陥れることになる。

「ロシアはなにを考えているのかわからん。我が国も早急にドアによる実戦を

想定して準備を進めるべきだ」

 海軍大将ハーバート・G・リッジウェイ提督もまた、その一人だった。

「実戦を想定した訓練ならすでに何度か行われているはずだが……」提督の強

い語気に対して、それは力のない反論だった。

「海兵隊の行った演習のことか? あれが実戦だと。笑わせる。まるで子供の

遊びじゃないか。敵もドアを持っているんだぞ。あんな都合のいい設定の非対

称戦の訓練ばかりしていてどうする。ドア戦争の主戦場は海中だ。少し想像力

を働かせれば誰でもわかる。条約によって射程が制限された今、ドアそのもの

を輸送するという発想が自然に出てくる。射程内まで敵国に近づけばいいのだ

から戦術的有利は段違いだ。そして、ドアによる戦争はその性質上、互いに位

置さえわかれば勝敗が決するものになる。ならばこそ、ドアの運用は現在位置

の秘匿がなによりも重要な課題となる。すなわち、究極のステルス兵器である

原子力潜水艦と組み合わせることでドアは最高のパフォーマンスを発揮するの

だ。なぜこんな簡単な理屈がわからん?」

 リッジウェイ提督はかねてよりドアの原潜運用を主張してきた。ドアの攻撃

力と原潜の隠密性はこれ以上にないほど相性がいい。だが、そのためには今の

ドアでは大きすぎる。原潜に収納できるサイズまでドアの小型化を進めるべき

だ。それが彼の主張の要旨だった。

「リッジウェイ提督。君の主張は大変理に適っている。だが、表向きの目的―

―宇宙開発との兼ね合いでドアは大型高性能化が主流だ。原潜に積めるサイズ

に小型化するプランは体面上通すことはむずかしいのだよ」

 ドア技術開発の管理は新設された大統領直属機関DDA(ドア開発局)に一

任されている。現在リッジウェイ提督が直訴している相手はその責任者の一人

だ。彼は常々提督の強硬な態度の前に怯えていた。海軍での大きすぎる業績の

ため、提督の尊大な態度を窘めることは誰にもできなかった。

「体面だと? よくもそんな呑気なことがいってられるな。お前たちはドアの

危険性と可能性をなにも理解していない。ドアは使いようによっては無限の攻

撃力を有する兵器となり得るんだぞ」

「それに君、小型化とはいうが……原潜に積めるレベルの小型化など今の技術

水準では到底無理だ」

「無理だと? オリジナルはほんの一〇kgだそうじゃないか。できんはずは

ない!」

「だが、今は冷戦時代ではない。大国同士で戦争など起こらんだろう」

「頭でも打ったのか? それとも今から打ってやろうか? まるで猿並みの知

能だな。起こるか起こらないかではない。想定しうるリスクにはあらかじめ対

策を練っておくのが我々の仕事だ。今一度教科書でも読み直したらどうだ。

ん?」

「しかし、今のところロシアは条約を忠実に守っている。下手にドア開発の方

針を変更して彼らを刺激したくない」

「呆れたな。ロシアを信用しているのか? まさか、本当にロシアが条約を守

っていると? なにか小細工を弄しているに決まっている!」

 だが、証拠はない。オリジナルドアの存在と保有疑惑に対し「証拠がない」

と突っぱねてきた米国にとって、これは思わぬカウンターだった。


「今回紹介する技術の前に、ドアの性質について簡単におさらいしましょう」

 崎島は数人の軍人の前でデモンストレーションをはじめた。彼らは空軍基地

に繋いだドアを通ってここに訪れている。操作するのは実験用のドアであり、

重量は八t程度だが射程は短く口径も小さい。ドアの性質について調べたり、

今回のようにその紹介に用いられるものだ。

「まず、ドアは入口側の装置から操作します。目標の座標を設定し、起動」

 ここまでは周知である。同じ室内に直径一mほどのリングが現れた。

「さて、この出口ですが、起動後にも入口側からの操作で移動させることがで

きます。危ないですから下がっていてください」

 次の操作で出口のドアが緩やかに動く。一見するとなんの動力もなく、その

うえ浮いているためにポルターガイストに見紛うような動きだった。

「この出口の移動には相応のエネルギーが必要です。移動できる範囲はもちろ

ん射程内まで。応用としては、たとえば……」

 崎島は出口をパイプ椅子に向けて動かした。リングの下端が脚にひっかか

り、椅子がその中に倒れる。すると当然、椅子は入口側から飛び出してくるこ

とになり、崎島はわざとらしく避ける動作をした。そのパフォーマンスには簡

単な笑いと拍手が起こった。

「このように、目標の人物を拉致する、というような使い方ができます。もっ

とも、拉致を目的とするなら足元に開くのが確実でしょうが」

 とはいえ、今回はそのデモは本題ではなく、椅子が壊れる可能性があるので

やめておいた。

「さて、本題に入りましょう。今回ご紹介したいのはトラックなどの移動して

いる対象にドアを繋げる技術です」

 崎島が指した先には台車が用意されている。助手が引いて運んできた。

「この台車の上に、ドアを使って飛び移りたい。そのときどうすればいいか。

台車の上に出口を開いてみましょう。ですが、この状態から台車が動き始める

と……」崎島の指示に従い、助手が台車を引く。台車は移動するが、固定され

ているわけではないので出口は静止したままだ。「出口は取り残される形にな

ります。このように、移動している標的にドアを開くのは通常では難しくなっ

ています」

 崎島は聴衆の反応を確認した上で続けた。

「ですが、先ほどお話ししたように出口は入口側からの操作で移動させること

ができます。つまり、台車の動きに合わせて出口を動かせばいいわけです。具

体的には、まず同じように出口を開く。そして台車にジャイロスコープを設置

します。その情報はドアを通してこちらの端末に送信され、自動的に出口の位

置を補正します」

 助手が台車を引くと、今度は出口もその動きについていき、台車に対し相対

的に静止している形になった。

「ネックとなるのは出口を開いた瞬間です。対象がすでにある速度で移動して

いる場合は、あらかじめ対象の動きを予測しておくか、慣性装置の素早い設置

が求められるでしょう」

大きな拍手が上がる。デモンストレーションは成功に終わった。


「IADA、か……」

 ドアの平和利用を促し、軍事転用を防ぐことを目的とした新国連専門機関の

設立がTV放送にて大統領より発表された。デモを終え、休憩所のベンチに腰

掛けながらそれを見ていた崎島は、大統領の発した耳慣れない単語をぼそりと

復唱した。

「どうした、アキラ。機嫌悪そうだな。コーヒーでも飲むか?」声をかけてき

たのは同研究所で引き続きインターフェイス開発を担当しているクリスだっ

た。

「くそ。米国まで亡命してきたのにまたこういう展開になるのか」

 崎島はクリスの方を向かずに、独り言のようにつぶやいた。

「また? どういうことだ」

「まただよ、クリス。日本にいたときと同じだ。上からの命令で、上の都合

で、できるはずのことができなくなっちまう。射程、数、サイズ……これじゃ

雁字搦めじゃないか」

 クリスにとって、崎島のこの反応は少し意外なものだった。

「アキラ、それは違うぞ。日本では既得権益との衝突で研究開発を妨害された

が、今回は各国の軍事的パワーバランスを考慮した上での自粛だ。君はこのニ

ュースを喜ぶものと思ってたんだけどな。軍事利用をなによりおそれていたの

は君自身じゃないか」

「軍事利用を考えているからそんな必要が出てくるんだろう? こんなふうに

開発に制限がついては、本来の目的である宇宙開発すらままならない」

「そんなことはないだろう。条約内の射程でも宇宙開発には支障はない。すで

にドアによって多くの資材が周回軌道上に運ばれて新しい宇宙ステーションの

建造もはじまっているじゃないか。この計画も今回の条約では一切影響を受け

ない」

「でも月には届かない。三八万kmだぞ? それどころか静止軌道すらも遠

い」

 クリスは思いも寄らなかったという表情で口をつぐんだ。

「ドアが宇宙空間に繋がったときはたしかに昂奮したさ。だが、ドアのポテン

シャルはこんなものじゃない。SFでしかありえなかった、夢のような事業が

なんだって実現できるはずなんだ。僕の中では、少なくともその半分は失われ

てしまった」

「アキラ……」

「わかってる。仕方ないってことはわかってるし、こうなるだろうってことも

わかってた。だけど落胆は禁じ得ないよ。ま、宇宙ステーション内にドアを建

造すれば……いや、それでも月には届かないか」

「月自体にはすでに人類は到達してるんだ。方法は他にもある。そう気を落と

すこともないんじゃないか?」

「アポロ計画以降誰も月に行ってないのは技術はあっても予算がないからだ。

もちろん、宇宙空間で宇宙船を建造すれば事情はかなり変わってくる。希望は

いくつか失われたが、まだまだ満ち溢れている。そう考えることにしよう」

 そういい、ようやく崎島は顔を上げた。

「まったく、君のネガティブ思考には心底驚かされるよ。正直、俺にはその発

想はなかったな」

「ロマンに溢れているといってくれ。早くこの星から旅立ちたくてうずうずし

てるんだ」

 そしていくらか他愛のない談笑をしたあとで、崎島は思い出したように話題

を戻した。

「疑問だったんだが、この研究所はそもそも極秘なんだから律儀に条約に従う

こともないんじゃないか? というか、そのために極秘にしているんじゃない

のか?」

「どこで情報が漏れているかわからないからな。ここは建造途中の加速器実験

施設という表の顔もあるせいで目立ちやすい。極秘と思って調子に乗って条約

を無視して性能を底上げ、そのタイミングでここが摘発され条約違反を指摘さ

れては洒落にならん。しばらくは様子見だな」

「どこかで我々の知らない別の秘密研究所もあるかも知れないが、さすがにこ

こより巨大なものは造れないか……」

 機密保持に絶対はないということは、日本で身をもって体験したことだっ

た。そういわれては納得するしかない。

「そこのお前、オドンネルの所在を知らんか?」

 肩を落としていた崎島に声をかけたのは、荘厳な軍服に身を包んだリッジウ

ェイ提督だった。崎島は思わず立ち上がり、畏まって答えた。

「所長でしたら、現在は会議中かと」

「リッジウェイが来ていると伝えろ。いますぐ話がしたい」

「ですから、現在は重大な……」

「この私がわざわざ足を運んでいるんだ。いいから連れてこい」

 強引な物言いに逆らえず、崎島はおそるおそる会議室に足を踏み入れ、所長

にその旨を伝えた。オドンネルはやれやれといった表情でため息をつき、会議

を抜け出してリッジウェイに面会した。

 崎島とクリスは防音ガラス越しにその様子をチラチラとうかがった。会話の

内容まではわからなかったが、近寄りがたい威圧感を持つ提督に対し、オドン

ネル所長は物怖じすることなく真剣な面持ちで応対していたのが見えた。

 軍用を前提とした開発計画。軍人の顔色を伺わなければならない日々。その

一方で、崎島はオドンネル所長の言葉を思い返した。軍が我々を利用している

のではなく、我々が軍を利用しているのだ。そう考えれば、いくつか心は落ち

着いた。言葉遊びのようにも思えたが、現実に研究のすべての恩恵を軍が独占

するわけではない。鉄道がそうであったように、ドア交通輸送網も兵站のため

に軍は必要とするだろうが、のちに民間に転用されるだろう。

 崎島はただ、それだけを信じた。

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