Gate-絶望からの再起-

@clome

出会い

突如それは起きた。

そして、それは新たな世界の始まりを生んだ。



2025年、オリンピック開催国日本はかつてないほど盛り上がっていた。オリンピック前日、首都東京はこれまで以上に人、人、人、で埋め尽くされこれから始まる祭りを前に誰もが浮き足立っていた。


 ◇◆◇



 俺は赤信号で止まり周りを見渡した。当たり前だがうじゃうじゃ人が居て、誰も彼もが明るい表情だ。信号待ちのリーマン。制服姿のjk。白い杖を持った少女。子供連れの夫婦。路上にも関わらずイチャイチャするカップル。

「はあ、リア充爆ぜろ。」

 突然、物凄い寒気が襲った。誰かに見られてる!ただそう感じた。

「どこだっ!!」

 人混みの中だけに俺は人の目を集めた。だが気にしている余裕は無い。青信号になった。ひとが流れていく。だが視線はつづいていて、今も絶えず嫌な汗が溢れだしてくる。ほんと、なんなんだ!必死に周りを見渡すが尚も視線は感じる。気のせい?なのか、、落ち着こう。周りの視線が痛い。取り敢えず深呼吸しよ、ぅ....居た。

交差点の中心に彼女はいた。ただこちらを見つめてくる。

「綺麗だ」

頭で理解するより早く口にでていた。彼女の視線に吸い込まれるように魅入っていた。綺麗な蒼の瞳に風になびく黒髪、そして透明感のある白い肌。しかし、残念なことに顔が怒っている様に見える。何故だろうか、俺はあんな美少女知らないし、先ず会ったことも無いはずだ。呆けていると彼女は口を開いた。

「*****」

「いやいや聞こえないし..」

残念ながら距離が有りすぎて全く聞き取れない。

だが、何を思ったのか彼女は優しく微笑んだ。


 そして、突如それは起きた。

 ドンッ!

 遠くから鈍くて重い音が聞こえた。そう、遠くだ。そちらへ首を動かすと信じられない光景があった。遥か彼方の景色が波打っているのだ。

「なんだ、あれ」

自分の目が信じられない。いや、意味が分からない。地面が波打っているのだ。そして物凄い速さで近付いてくる。

『キャーッ!』

『逃げろ!』

『うそだろ!』

 悲鳴が聞こえる。これは現実なのだろうか、感じるものは極めてリアルだ。自分の頭が処理しきれないでいるのだ。

「逃げないと..」

 頭では理解しているが呆然としてしまう。逃げる?あの速さに?どうやって?車でもあの速さには無意味だ。人だっている。ならどうするべきだろうか、何も思い浮かばない。。

そうして無駄な時間を過ごした代償に、巨大な波はあと一キロもない距離まで迫っていた。

悲鳴が聞こえる。どうしようもないじゃないか。周りを見渡す。逃げる人、人、人。しゃがんで耳を塞いでいる子がいる。とても怯えているのだろう。彼女は白い杖を握りしめていた。あれって..俺はその白い杖の意味を知っていた。助けないと!人が邪魔だ!あぁくそ!あともう少し..。

「だ、大丈夫?んぐっはぁはぁ」

「・・・・」

 返事はない

 「大丈夫?」

「え?」

彼女は顔をあげたが、目を閉じていた。

「大丈夫ですか?」

「わ、わたしですか?」

「はい」

「怖いです。」

「逃げましょう。」

「で、でも、わたし..きゃあ!」

「ごめん!我慢して!」

俺は彼女をお姫様抱っこした。話している余裕はない。もうすぐあの恐ろしい波が到達する。想像はしたくないが頭が嫌な未来を想像してしまう。足が震える。気を抜けば俺だけでなく、腕に抱いた女の子を傷つけてしまう。それはいけない。走る走る走る。

「くっはぁはぁ。あ、あった。」

彼女にたどり着くまでに放置されたトラックを見つけたとき、これしかないと思ったのだ。

「ぐっはぁはぁ。ちょっと下ろすよ。」

「は、はい。すみません。」

荷台は作業中だったのか開いたままだ。荷台に女の子をそっと下ろす。

あとは自分が乗るだけだ、震える足を持ち上げ、急いで乗り込みドアを閉める。

『ガチャン』

「はぁはぁ」

「大丈夫ですか?」

「俺は、んぐっ、大丈夫、だから。」

「その、ほんとに、ありがとうございます。」

「まだ、どうなるか..分からない。」

 言った側から地面が揺れだした。

「あの、もう一度私を抱き締めて下さい..」

 そう言った彼女の言葉は震えていた。

「お、俺でよかったら。」

思わず声が裏返ってしまう

「お願いします。」

 どう抱きしめればいいのか、こんなの初めてで緊張してしまう。俺みたいな奴がいいのだろうか。せめて俺以外の奴に助けられたほうが良かっただろうに、とても申し訳なくなる。だが地面から伝わる振動は強くなる一方だ。こうなったら、当たって砕けろ!だ。いや、相手からの申し出だからそれとはちがう。ええい、覚悟を決めろ!

驚かさないようにそっと、後ろから抱きしめる。女の子は震えていた。怖いのだろう。今も外からは悲鳴が聞こえてくる。俺も怖い。彼女の体温は温かく、少しだけ落ち着く。

「ありがとうございます。温かいです。」

「い、いえ。」

 そして、何かが迫る音が大きくなり、気がつけば俺らは吹き飛んでいた。

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