第2章 2
「いやぁ、それにしても晴れたね!」
そう言ったのはわたしだ。彼はそれに答える。
「ほんとだよ。ここ一週間、天気予報じゃ雨マークだの曇りマークだの傘マークだのって感じだったもんね」
ここはツッコミを入れるべきだろうか。雨マークと傘マークは同じじゃないの?
結局わたしは、気にしないことにした。彼は自らの言葉を継ぐ。
「いや、あれだよ? 雨マークと傘マークは同じだろ、なんて思ったかもしれないけど、雨マークは傘が開いているマークのことで、傘マークっていうのは傘が閉じているマークのことだよ。うん」
どうやら、わたしが反応しなかったので、ひそかに自分のボケを解説したらしい。
私は微笑んで、冗談めかして言う。
「そういうの痛々しいから、やめたほうが良いよ。というか、一緒に歩いてて恥ずかしいから、やめてほしいかな」
「え、そう言われると、何かが胸にザクっと刺さった感じがする」
「ふふ冗談、……って言いたいところだけど、結構本音かも」
そんなくだらない会話で盛り上がりながら、わたしたち二人は手をつないで歩く。
「そういえば話戻るけど、デートの日に晴れるなんて、俺の雨男が治ったのかな」
ふと彼は口を開いた。たしかに、言われてみればそうだ。彼と遊ぶときは、おおむね天気が悪い。自分が雨男だっていう自覚があったのか。
彼はそのまま話し続ける。
「それにしても、いつも渋谷とか外で遊ぶ時には雨が降るくせに、今日なんかスカイツリーだから、ほとんど室内じゃん? そういう時に限って晴れるのかよ、とかちょっと思ったりするよ」
「ん? それってさ、まとめると『外で遊ぶときは雨で、室内で遊ぶときは晴れ』ってことでしょ? つまりそれって、雨男が治るどころか、究極に雨男なんじゃ……」
「あ! 言われてみれば、確かに……」
押上駅の構内は、エスカレーターに乗って上っていくと、そのままスカイツリーに入れる仕組みになっている。
六三四メートル、むさし。東京タワーが三三三メートルだということを考慮すれば、その二倍ほどもある。とはいえ、お店などをたくさん置くことができるスペースがあるのは、五階くらいまでなのだろうか、フロアマップを見てみると、雑貨やファッション、レストランにカフェなどがあるのは下層階に集まっていて、これらはソラマチと言われている。
わたしたちは午前中に、洋服やカバンなどのお店を色々と物色した。わたしは、普段学校で一緒にいる友だちなんかよりも、ファッションなんかに興味はないが、それでも、自分には手の届きそうのない、きらびやかで綺麗なものを眺めて巡るのは、嫌な時間ではない。それに、彼が隣にいてくれるのだから、幸せも一入だ。
だが、彼はそうでもないらしい。彼は、ファッションに疎いどころか、新品の衣服の匂いが苦手なんだそうだ。いつも、洋服などを売っているお店に行くと、しばらくしてから気持ち悪くなったなんて言い出す。本人いわく、車酔いに似ている感じらしい。
そして今も、みるみるうちに顔色が青くなっている。わたしは、彼が苦しんでいるのに連れ回すなんてことはしない。いや、できない。
「えっと、大丈夫? まあ、大丈夫ではなさそうだけど。うーん、そうだな、そろそろお昼にしようか?」
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