朱色の桜

ゆきこのは

朱色の桜~この物語の前史1~




―――桜の花びらが薄桃色になったのは、哀しい理由がありました。


 



 一つ、昔の話をしよう。

 今から約四百五十年前、この国がまだ戦国の世であったころの話だ。

 各地で争いが続いていた中、人々はたくましく一日一日を生きていた。

 

 どこであっただろうか。

 昔から、犬の神が住んでいると人々に崇められた山があった。

 とても高い山で、山頂付近はいつも霧に包まれていた。

 その名を、犬神山といった。

 

 この山の中でつつましく、おだやかに暮らす一族がいた。

 山のふもとの村人たちと交流し、互いに助けあって生活をしていた。

 この一族は、医術と占いが得意であった。

 たいていの病は治すことができ、占いにおいては、誰もかなわなかったという。

 また、姿も違っていた。

 髪と瞳の色が、黒や茶色ではなく、白銀であったと。

 そんなことから、ふもとの村の人々は、犬の神が住まう聖なる域に暮らすこの一族のことを、犬神様の化身と敬ったそうな。

 このことは、遠い国の人々の元へも伝わった。それから、病を治したり、戦で負った傷を癒すために、遠くからもたくさんの人が来るようになった。


 

 


 

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