その後の大軍師初音さま その5



 あはははははははっ!!


 もうどうにでもなーれ!


 許容量おーばー。

 もういっぱいいっぱい通り越してぱんくしそうだよぅ……


 三行で。



 関東管領 扇谷上杉朝興さまが

 先代当主の朝良さまを

 ぶっころ



 なんだよう。

 ただでさえいっぱいいっぱいなのになんでみんなやばい方向にためらいがないんだよう……


 朝興さまも遠征失敗で足元グラついてるのはわかるし、

 朝良さまが嬉々として足元掬おうとしてくるだろうってのはわかるけどさあ。


 なんでやっちゃうかなあ……


 理由は、わかってる。

 曽我裕重。太田道灌すら殺した、扇谷上杉家の懐刀の一族。

 都合のいい汚れ役が手元にいるもんだから、安易に暗殺なんて手段に走っちゃうんだよ。


 朝良さまの実子、藤王丸ふじおうまるさまの消息は"不明"。

 そういやこの人も史実より早く生まれてるな。時期的に猪牙ノ助の爺さんの影響と見た。


 知らせは爺さんから。

 武蔵一円、誰が敵か味方かわかんない状態だから、難しい。


 というか相模、武蔵の支配体制ちゃぶ台返しだこれ。


 太田道灌の時の失敗で懲りてないのか。

 離反者ごそっと出るぞ。無力化したとはいえ、山内上杉家も古河公方家も健在なんだ。


 マジヤバイ。笑えてきた。


 早く来てくれ、荒次郎ーっ!

 間に合わなくなっても知らんぞーっ!!



「呼んだか?」



 !?


 ( ゜д゜)


 ( ゜д゜ )



「どうした、エルフさん」



 ( ゜д゜ )



 あらじろーっ!

 荒次郎荒次郎荒次郎荒次郎荒次郎荒次郎荒次郎っ!!

 無事だったか!? 元気か!? 動けるか!? ほんとに、ほんとにっもーっ! お前なーっ! ずっとずっと待ってたんだぞあらじろーっ!!



「泣いてるのか? エルフさん」



 ばっ、ばかーっ! ないでるわげ、ないでるわげないだろーっ!



「武田信虎には手こずったがな。風魔のおかげで助かった。ありがとう。エルフさんが寄越してくれたんだろう?」



 そっ、そうだよ! お前が助かったのは大軍師初音さまのおかげだっ!

 感謝しろははははははーーひゃっ!?


 なんで耳つかんだ!?

 今なんで耳つかんだ!?


「いや、エルフさんが可愛くてつい……」



 そういうのやめろって言ってるだろ!

 そういうのやめろって言ったよね!?



「さあ、エルフさん。帰ったばかりの俺に状況を説明してくれ」



 エルフって言うな。



「ありがとうございます」



 なぜ感謝する。



「まあ、日常会話で安心させてもらったところで、状況説明を頼む。三行で」



 無理っ! いろいろ起こりすぎて三行じゃ無理っ!!



「だろうな」



 ん?



「おおよそは風魔小太郎の息子に聞いた」



 おい、じゃあなんでそんな無茶振りした。



「エルフさんなりに整理した情報が欲しいのと、たぶん困って可愛い反応が見られると思った」



 よし○ね。

 丸ちゃんと冴さんは私がしっかり養ってやるから遠慮なく○ね。


 時と! 状況を! 考えろーっ!





 ◆



 鎌倉公方の一族は、三浦が全力で守っている。

 伊勢、太田は味方。真里谷のお兄ちゃんは今の所不干渉。ただし今後どう動くかわかんない。

 そして扇谷上杉家の地雷が炸裂。朝良さまが暗殺される。鎌倉公方体制、しっちゃかめっちゃか。



「……」



 荒次郎?

 おーい、荒次郎?



「エルフさん……」



 は、はい。



「鎌倉公方、義明さまは、俺の良き理解者だった。義明さまと築いた関東の新秩序は、相模の、関東のみなに平穏をもたらす、かけがえのないものになるはずだった……それを、あの男は、上杉朝興は、理解しようともせずに今また関東を混沌に陥れようとしている」



 荒次郎、お前、もしかして……怒って、いるのか?


 寒気がした。

 感情の濃度がむちゃくちゃ薄いこいつが、拳を震わせて怒ってる姿なんて、初めて見る。



「関東管領 上杉朝興……絶対に許さんっ!」



 怖い。こいつがこんなに怒るなんて。

 怖い。こいつが、こんなに平静を失ってるなんて。

 なにかとんでもない暴走をやらかしそうな、そんな予感がする。


 とにかく、いまのまま突っ走らせちゃいけない。どうすれば……



 そうだ。お風呂に入ろう!



「エルフさんは何を言っているんだ」



 入らないのか?



「入ります」



 欲望に素直すぎるっ!?





 ◆



 おい、荒次郎。

 凝視すんな。脱衣所のマナー守れ。



「滾ってきた」



 そんな報告はいらない。


 ふう……



「( ゜д゜ )」



 こっちみんな荒次郎。



「ありがとう、エルフさん( ゜д゜ )」



 なんだ? いきなり。



「すこし、頭に血が上っていたようだ。それを落ち着かせるために、風呂に誘ってくれたんだろう? ( ゜д゜ )」



 凝視をやめようか。



「だが、せっかくエルフさんが見せてくれてるのに……( ゜д゜ )」



 そんな意図はない。こっちみんな。



「エルフさん。おれはおちついた( ゜д゜ )」



 下半身は落ち着いてないけどな。



「正気に返ったと言っていい( ゜д゜ )」



 そういうやつに限ってまた裏切るんだよ。



「エルフさん。もう少し落ち着きたい。ちょっと抱きしめさせてくれ( ゜д゜ )」



 アウトだろそれ。

 裸じゃ無理だろ。

 なにバカなこと言ってるんだ。



「裸じゃなければいいのか?」



 まあ、それなら我慢してやってもいいけど。



「じゃあ抱かせてくれ。寝所で( ゜д゜ )」



 お前それ妥協する気一切ないよね!?

 メイクラブ的な意味で抱く気満々だよね!?



「当然じゃないか( ゜д゜ )」



 開き直るな! あとこっちみんな!



 まったく……荒次郎、背中向けろ。

 向いたな。よし。

 よっ、と。



「エルフさん?」



 お前ほんとに岩みたいな体してるなあ。



「背中に幸せな感触が……!」



 やめろ。解説すんな。

 自殺モンの行為をやらかしてる自覚はある。


 ……いい理解者だったんだろう? 鎌倉公方は。

 私にも経験ある。辛いもんだよな。でもこんな時期だ。無理するな、なんて言えない。


 だから、元気出せ、荒次郎。



「エルフさん、ありがとう」



 エルフ言うな。



「ありがとうございます。ありがとうございます」



 おいさっきより感謝の度合いが強いぞ。


 とにかく、荒次郎が戻ってきてくれたおかげで、三浦家が全力で動ける。

 荒次郎。後悔させてやろうぜ。鎌倉を舐めたやつらをな。


 と、いうわけで。


 逃げるか。



「エルフさん」



 おいやめろ。どれだけおねだりしてもこれ以上のサービスはやらんっ!


 っていうかこれ以上は完全にアウトの領域だろ!

 すでにアウトって気もするけどっ!


 というわけで逃げるっ!

 さらばだーっ!



 ・ ・ ・


 開かないんですけど……


 まつさん、まつさん、荒次郎がまつさんに背中を流してもらいたいって言ってるよ!



「本当ですかっ!? ただちにっ!!」



 開いた。びっくりだ。



「あっ! まつを騙しましたねお姫さま!?」



 いえいえ、ごゆっくり、一緒にお風呂してください。

 手を出されなくても怒らないでね!

 では、今度こそ、さらばだーっ!


 でも、ふっしぎだなー。

 あれだけひどい状況だったのに、今も大して変わらない状況なのに、荒次郎が居るだけで、なんとかできるって信じられる。動く気力が湧いてくる!


 やっぱりあいつはリーダーの器なんだな。ちょっぴり悔しいけど。

 まあ、リーダーの座は譲るさ。軍師の座は絶対に譲らないけどなっ!!


 さあ、三浦家は万全だ!

 矢でも鉄砲でもドンとこい!


 今から、三浦家の反撃開始だ!


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