おまけ4 その後の大軍師初音さま その1(ツイッターより転載)


 私の名は真里谷初音まりやつはつね

 かの名高き武田信長の玄孫だ。ひと呼んで今孔明。三浦家を支える大黒柱みたいなもんだ。

 ま、自分で言うのもなんだけど、軍配をとった戦はかならず勝利する、古今無双の大軍師(願望)だ。


 三浦荒次郎。

 私の相棒。クールなマルティスト。

 身の丈七尺五寸(2m30cm)の、キングオブ坂東武者だ。 そのうえ、義理堅く、頼りになる旦那。


 三浦猪牙ノ助。

 三浦道寸の元影武者。かの悪名高き道路族の汚職議員の末路。

 交渉事の達人。なんでも調略しちまう三枚舌の使い手だ。道路が絡むと怖ーい男。


 出口冴。

 あるときは三浦一門。またあるときは荒次郎の側室……この私もわからないうちにどうやって口説いた荒次郎。

 時々つっかかってくるけど、憎めないんだなぁ。私は巨乳さんには弱いからなぁ。


 真里谷まつ。

 ご存じ、私の親類。 真里谷家の敏腕(?)侍女。

 私に荒次郎の子を産ませるのを生き甲斐とする、私のもっとも苦手なちびっこだ。





 ◆



 三浦家なう



 と、おもむろにつぶやいてみる。


 相模半国を抑え、北条家と同盟した今、三浦家はどう動くべきか……とりあえず備中鍬を普及させたいんだけど、どうだろうか。

 いろいろやりたいことがあるんだけど、猪牙ノ助の爺さんが道路に予算を全ブッパするせいでイマイチ余裕無いんだ。

 そのうえ三浦家の上司、扇谷の大将が各方面に喧嘩腰なんで、かなりきな臭いことになってきてるんだよな……


 でも、サツマイモの苗くらい取り寄せてもいいよね。

 今日こそは爺さんに勝つ!



 ・ ・ ・



 荒次郎には勝てなかったよ……


 おかしい。最近荒次郎、爺さんの意見聞き過ぎだ。

 そしてこの大軍師初音さまの意見は半分くらい通らないという理不尽……


 私は戦国時代にくわしいんだ。

 だからもっと私の意見を大事にすべきそうすべき。


 あと餅だ。

 もっと餅を作っておくんだ。

 餅は天上の食べものナノデス。

 もっと改良されるべきナノデス。伊達はぶっころナノデス。



 ・ ・ ・



 荒ぶってたら、侍女のまつに叱られた……

 寝る前に丸ちゃん(丸太郎)の顔見て癒されてこよう……冴さんの胸に顔をうずめて癒されたいなあ


 寝るか。

 と、ナチュラルに荒次郎の寝所へ向かってる自分が最近怖い……


 いっしょにお風呂に入るのも違和感ない。いっしょの布団で寝るのも違和感ない。胸とか割と触られまくってる。


 譲れない一線ってなんだっけ?

 最近境界があやふやになってきてる気がする。


 ではおやすみー。

 私の貞操の無事を祈っておいて欲しい。わりと本気で。





 ◆



 おはようございます! いい朝だ。

 でも寝起き一発で目にするのは荒次郎の寝顔なんかじゃなく、美女か美少女の寝顔でありたい。精神衛生上。


 私寝相あんまよくないから、起きたら小袖が盛大にはだけてたりして、マジ心臓に悪いんだよ……


 荒次郎は丸太を枕にしてまだ寝てるよ。

 さあ、今日も一日頑張るぞー。おー。



 ・ ・ ・



 てっててー てててーてててーてー。


 戦国無双か。

 もし荒次郎が無双に登場したら……あいつ現状すでに戦国無双なんだけど。


 私は、あれだな!

 ビームとか出すキャラだ!

 軍師だし! 今孔明だし!



 ・ ・ ・



 爺さんに「出過ぎておるぞ。自重せい!」って言われた……





 ◆



 政務なう


 とぉーかりゅーすい!


 とーかぁーりゅーすい!


 とーかりゅぅーすい!


 とーかーー!?



 ・ ・ ・



 部屋に来た荒次郎が静かに去って行ったよ。


 とっても残念な人を見る目だったよ……見て見ぬ振りをする優しさが、荒次郎にもあった、的な……





 ◆



 たまに、すっごく現代の料理が食べたくなるんだよなー。特にハンバーグ。


 みたいな話をしてたら、荒次郎が鹿を狩って来てくれたよ!

 ちょっとクセがあるし、デミグラスソースもないけど美味しかったよ!


 関東の武家に生まれてよかった!

 これが畿内の、特に公家なんかだったら、肉なんかろくに食べられなかったとこだ。


 たまに思うんだけど、沢庵和尚より先にタクアンを広めたり、隠元禅師より先にインゲン豆を輸入して来たら、名前とか変わっちゃうのかな。


 大軍師漬けとか大軍師豆とか。



「せいぜい三浦漬けとか三浦豆じゃろ。それとも我輩が今馬謖漬けとしてその名を広めてやろうか? カカッ!」



 くそう。爺さんめ……





 ◆



 さあ、食休みだ。


 zzz……ムニャムニャ。


 だから栃木は東北じゃねえっつってんだろいい加減にしろ!


 ……ムニャムニャ。


 起きた。よし、仕事だ。



 ・ ・ ・



 なんか天から原稿を書くことを勧められた。

 知っているのか……実は私が実体験をモチーフにした歴史戦記を書いていることを……


 希代の大軍師である私が、幼馴染で親友の荒次郎を助けながら、天下取りに邁進する話だ。


 猪牙ノ助の爺さんは、荒次郎の傅役もりやくの重臣だ。

 低い身分から抜擢された私を気に入らなくてすぐ嫌味を言うけど、結局私に頼らざるを得なくて、最後には私を希代の大軍師だと認めて頭を下げるんだ。


 侍女のまつにはかわいそうな人を見る目を向けられたけど、めげずに頑張るよ!



 ちゃっちゃちゃーちゃららーらららーらー。



 そういえば、荒次郎が一門の集まりの時にちらっと「マグロ好き」って言ってから、玉縄城にマグロが届けられるようになったよ!

 産地直送の船便だよ! 丸のまま届くから、猪牙ノ助の爺さんが料理人とか漁民に注文つけて、生でも美味しく食べられるようになったよ!


 でも周りの人とか領民の人たちからは変な目で見られてるよ……


 たとえ下魚扱いでもマグロは至高。これは譲れない!


 まぐろーまぐろーしびしびー。赤身に中トロ大トロー。かぶと煮ーにカルパッチョー。ネギまに山かけ、漬け丼!



 ・ ・ ・



 歌ってるところを胃の腑Jr.に見られたよ……

 とても悲しそうな顔をしていたよ……


 でも私は知っている。

 城のみんなもマグロが食卓に並ぶのを楽しみにしてることを。


 江戸前寿司は私が育てる!

 もう半分以上、猪牙ノ助の爺さんが育ててる気がするけど!


 だからこれは使命なんですよ、まつさん。

 はしたないとか意地汚いとか真里谷家の面子が保てないとか、そういうのには目をつぶっていただけるとうれしいんです。





 ◆


 風呂ー。


 湯船なう。荒次郎なう。


 これは間違いなく侍女のまつの仕業だ。

 先日、荒次郎が風呂入ってるとこに放り込んだのことに対する報復と思われる。


 何もされなかったのは私のせいじゃないのに……

 まあ、荒次郎がまつに手を出したら、間違いなく激怒してただろうけど。


 おーけーおーけー。落ち着け私。

 荒次郎は紳士だ。こっちがオッケー出さない限り、襲ってくることはない。


 でも、想像してみて欲しい。

 身長二メートル越えのガチムチマッチョがアレをいきりたたせて手の届く距離にいる。


 恐怖である。

 そしてヤツは見る。ジロジロ見る。それを隠そうともしない。

 むっちゃ怖い。


 でも、よく考たら風呂に入ること自体には嫌悪感はない。

 慣れて来たからか。


 ん?

 もしや慣らされてる?

 ジワジワと外堀埋められて来てる?


 ありうる。荒次郎は私ほどじゃないけど、相当な策士だからな。


 だが、この大軍師初音さまにはいいかんがえがある!


 冴さんを呼ぶ。

 いっしょに風呂に入る。

 私目の保養。荒次郎、自然な流れで寝所へ。

 私の貞操無事。荒次郎満足。冴さん満足。


 ……なんかムカついた。このリア充め。

 ここは、あれか。冴さんのかわりに、荒次郎がまだ手が出せないまつを投入すべきか……


 ふふふ、ひとつの策にこだわらない私、さすが大軍師。


 ……でも、待てよ?


 まつといっしょにお風呂。

 私目の保養。荒次郎不満足。

 欲求のやり場のない荒次郎、その矛先をーーあ、これダメなやつだ。


 つまり、あれだ。

 今日は打つ手なし。明日からがんばって対策する。これだな……



 ・ ・ ・



 荒次郎ー。

 背中洗ってやるから上ってー。


 いや、私はいい。

 私はいいんだってば! お前あからさまに揉むし!


 ふう……ちょっときわどいとこを揉んだり摩られた程度で済んだか……

 かろうじて軽傷で済ませた大軍師初音さまの機転は素晴らしいな……


 さーて。

 部屋に戻って、ためちゃってる書類を片すか。


 では、お疲れさま。





 ◆



 ふう……


 まさか、息抜きに書き始めた小説が、こんなにはかどるとは……


 小説の中の私はかっこいいなあ……

 まさか、あんなところに配していた伏兵すら、ただの布石だったとは。さすが大軍師。これは敵の将軍も大軍師さまを称えざるを得ない。


 ふふふ……ふふふ……ふ――


 いま唐突に黒歴史がフラッシュバックした。


 あれはちょっと前の話。

 政務のため、重臣一同が集まった席で、私は練ってきたプランをみんなに了解してもらうため、書類に目を通してもらったんだ……


 議事進行の胃の腑Jr.は胃の上を抑えてたよ。越前守たちも妙な顔しててさ。

 妙な沈黙があった後、爺さんがカカッと笑いながら口を開いたんだ。



 ヒュンヒュンヒュン

「ぎゃー」「ぐわー」「やられたー」

 悲鳴があがる。伏兵だ。

「いまだ」と振るった軍配の合図とともに、火の手が上がった。

 ゴー。グオオオオ。火は燎原の火のごとく燃え広がる。

「あちぃよーっ」

「こ、これは、罠かっ!?」



 爺さんが読み上げたのは、間違って持って来ちゃってた私の小説だったよ。

 間違いに気づいても、爺さんに容赦はなかったよ……


 うん。眠気が襲って来ないうちに書類の仕分けしとこう。

 二度と間違いは犯さない。二度と絶対にだ。

 そして爺さんは許さない。絶対にだ。


 そのためには爺さんより弁の立つ人を仲間に引き入れなきゃ。

 今孔明も弁舌では、あの元国会議員に勝てない。


 まっさきに思い浮かんだのは私のお兄ちゃんである真里谷信保まりやつのぶやすだ。

 お兄ちゃんならきっと助けてくれる!


 でもダメだ。あの人毒物すぎるもん。

 きっと私のお願いを聞いてくれた挙句、ついでに三浦家から取れるだけかっぱいでいく。たぶん横須賀あたり狙われる。お兄ちゃんはそういう人だ。


 なんだよあの化け物。

 なんで一人川越夜戦みたいなことやってんだよ。

 近い分、長尾為景ながおためかげなんかよりよっぽど物騒な問題人物じゃないか。


 あとは、鎌倉公方の足利義明あしかがよしあきさま……無理だ。

 引っ掻き回すだけ引っ掻き回される。小田原の伊勢氏綱いせうじつなさんも、あれ、隙見せたら足を引っ掛けてくるタイプっぽいし。


 あー! 三浦家の周りは厄介者ばっかりかー!


 はい、当然だよね。

 戦国時代は伊達じゃない。伊達ぶっころナノデス……


 なぜか無性に餅が食べたくなって来たなあ。


 まつー! まつさーん!

 手あぶりとお餅ちょーだい!





 ◆



 今日の夜食はからみ餅。

 ふふふ、すでに醤油は開発済みなのだ!


 やっぱりマグロは偉大だったな。

 三人組の誰一人として醤油開発に異議を挟まなかったよ。


 いい感じに焼けた!

 おろし投入! 醤油おーん!


 餅! 食わずにはいられないっ!


 おお、このやや硬めの焼きたて餅の淡白な香ばしさ!

 おろしたての大根の辛さ、みずみずしさ!

 二つの要素を、醤油の風味が見事に調和させているっ!!


 それだけではないっ!

 熟成した醤油の奥深い味が、餅の味に深みを与え、さらには大根おろしからも、その奥底に潜んでいた、宝箱のような至福の甘みをひきだしているっ!!

 おおっ! この感動を表す言葉を、私はたったひとつしかっ! 知らないっ!


 美味い……


 ありがとう……ありがとう……



 ・ ・ ・



 いま冴さんが遊びに来てくれたんだけど、一瞬で「用を思い出しましたわ失礼おほほ」って帰られたよ……


 もう今日はたぶん丸ちゃんと合わせてくれないよ。

 完全にガルガルモードの母親の顔してたもん……


 昔よくあの顔を見たよ。

 私はただの子供好きなのに……


 もう今日は寝ようか……

 荒次郎! あらじろー!


 うぃず荒次郎なう。

 布団で正座して待ってるの、いい加減にやめようか。


 では寝ます。おやすみー。

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