幕間
幕間
三人を殺害してその両腕を切断し、手に入れたのは六本の腕。
二人を殺害してその頭部を切断してさらに不要な眼球を刳り貫き、手に入れたのは二つの頭部。
「とりあえず、腕は揃いましたね」
女性は言った。
肌は浅黒く、髪は長くて色は焦げ茶色。その髪には少しウェーブもかかっていた。
明らかに日本人ではなかった。肌の色、そして彫りの深い顔のつくりをしているところを見るにインドなどの日照量の多い地域に住んでいたコーカソイドという人種だと思われる。
つまり、彼女はインド人。名をラビ=ミトラ・アーディティヤという。【此岸征旅】のリーダーだ。
彼女――ラビ=ミトラ・アーディティヤがいるこの場所は奈良県某所のビルのワンフロア。内装は一言で言えば質素なものであった。テーブルと椅子と棚がある程度。
「あと五人の殺害が必要か」
アーディティヤはそう呟く。彼女は椅子に座り紅茶を啜っていた。
彼女の目の前には棚がある。その棚にはすらりと筒状の容器が並べられており、その中には腕や頭部が保管されている。容器を満たす液体はエタノールだ。
「進捗はどうですか?」と、アーディティヤは横に立っている部下の男に尋ねる。
「少し遅れがありますがこの遅れは想定の範囲内です」
「そう。やっぱり死んでも誰も悲しまない人間を見つけるのは難しいか」
【此岸征旅】は下界への攻撃という目的のために一〇人の人間の各部位を必要としている。部位を取得するために殺害をしている。
彼らは別に見境もなく殺害を犯しているのではなくちゃんと殺す人間を見極めている。死んでもいい人間、たとえその人が死んでも誰も悲しまない人間。そういう人たちに限って殺害をしている。
今の時代、ホームレスなんて珍しくてなかなかいない。だから自然と殺す人間は家族のいない人間や家族から疎まれている人間になってくるのだ。
アーディティヤはまた紅茶を口に含んだ。そして含み笑いを浮かべた。
じわりじわり着実に。遅れがあるとはいえ想定内。【此岸征旅】の計画は進んで行く。
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