第二十六章-聖羅学院文化祭-

第166話「文化祭の催し」

 霊京五番街にて蓮乗院家に次ぐ敷地面積を誇る聖羅学院。

 この名門校に編入した優月たちは、授業を通して順調に力を伸ばしていた。

 そんなある日のホームルーム。

「文化祭の開催について、正式に学院の許可が下りた。この時間で、このクラスの出し物を決めるように」

 担任の中鏡が生徒たちに指示を出す。

「羅仙界では、今が文化祭の時期なの?」

「そもそも文化祭って許可がいるもんなのか? 普通、最初からあるもんじゃないのか?」

 人間界から来たため、こちらの風習には詳しくない龍次と涼太。

 当然ながら優月も詳しくないため同じ疑問を持った。

 羅仙界は年中通して適度に温暖な気候であるため、季節感があまりない。

「定期の文化祭の時期は学校によるけど、うちでは、生徒側で、やりたいって声が上がった時に文化祭やるんだよ」

 中鏡は面倒くさがると察した千尋が優月たち人間に説明する。

「だから一年に何回もやる場合も少なくなくてね」

「そうなのか。羅仙界だと、その辺もっと堅苦しいのかと思ってたが」

 涼太の考えは的外れでもない。

「私から、生徒の自主性を尊重するようにと学院長に進言したんです。羅仙界全体で見ると、聖羅学院の方が特殊ですね」

 惟月は進言などと表現したが、霊極の発言権は強大だ。

 学院長といえども、惟月の申し出を無視するようなことは許されない。

「私は惟月様が変えてくださった今の自由な聖羅学院が好きです。一緒に楽しみましょうね」

 怜唯は優月たちに微笑みかける。

「怜唯様が楽しみにされているということでしたら、俺もこの文化祭に全力で参加いたします」

 真哉もやる気を出しているようだ。

「みんなとお祭り、楽しみ~」

「この規模の学院でやる文化祭って、すごく盛り上がりそう!」

 穂高と千秋も笑顔。千秋は顔がほとんどないが、口元を見れば分かる。

 優月の文化祭の思い出はというと、なにも役割を与えてもらえず、教室の隅で小さくなっていたことぐらい。

 しかし、今年は龍次と涼太が同じクラスにいるので、そんなみじめな思いをしなくて済む。

(出し物、なにになるかな?)

 中鏡は『自分の役目は終わった』とばかりに座って腕組みをしながら目を閉じているので、学級委員の男子が教壇に立つ。

「じゃあ、やりたいものがある人は挙手してください」

 まず一人の女子が手を上げた。

「占いの館やってみたいです」

「占いっと」

 学級委員は黒板に書き留める。

「そういう非科学的なものは、自らの力でなにもできない軟弱者がやることですよ」

 生徒でもない沙菜が、横から口出ししてきた。

「いいでしょ。遊びなんだから」

 女子生徒の方も反論する。

「最終的には多数決で決めるんで、次々出してください」

 今度は穂高が手を上げた。

「わたし、金魚すくいやりたい~」

 金魚すくいは穂高の数少ない特技だ。

「私はおばけ屋敷で」

「お好み焼き屋」

「バザー」

「射的」

「演劇」

「いや、演劇は演劇部に任せろよ……」

 いくつか候補が挙がっていく中、一人の男子が妙なことを言い出した。

「人間界にはメイド喫茶なるものがあると聞きました。それがいいです」

 別にそれをやってくれてもいいが、優月としては自分がメイド服を着ることだけは絶対に避けたい。

 千尋辺りは賛成するかと思いきや。

「反対だ! 怜唯ちゃんの属性は幼馴染と妹だけ! 異論は認めない!」

「誰も怜唯様にメイドやらせるとは言ってないでしょ……」

 語気を荒くする千尋に、女友達がつっこむ。

「あくまで候補なので。今、反対意見は聞きません」

「人間界には執事喫茶なるものがあると聞きました。私はそれがいいです」

 先ほどの男子の口調を真似る女子。

 反対意見は聞かないということなので、それも書き留められる。

(龍次さんに涼太に惟月さんに真哉さんに千尋さん――。これはいいかも)

 男性陣のレベルが高いだけに、それを売りにするのはアリだろう。

 自分がメイドをやりたくないことは棚に上げてそんなことを考えている。

「怜唯ちゃんってなにかやりたいのある?」

 他の生徒が意見を出している間に、千尋が怜唯に声をかける。

「私はみなさんが決めたものでしたらなんでも」

「千秋ちゃんは?」

「わたしは……自分がやる方なら射的が得意だけど」

「あ、そうか。こっちが店やるのか」

 優月は涼太に話しかける。

「執事喫茶に一票入れたいんだけど、いいかな……?」

 こうして弟に許可を求めるのは、幼い頃からの習慣だ。

「好きにすりゃいいだろ。今さらお前の趣味にどうこう言わねーよ」

 オタク趣味にも理解がある弟でありがたい。

「時に私が名前をあげた金魚は元気ですか?」

 沙菜は穂高に尋ねる。

「むーちゃん元気だよ」

「穂高ちゃん、猫以外にも飼ってたんだ」

 龍次も催し物に関する意見は特にないらしく、この会話に加わっている。

「うん。バハムートのむーちゃん」

「本名、バハムートなんだ……」

 『むーちゃん』だと沙菜らしくないと思ったら、これは穂高がつけたあだ名だったか。龍次もあきれたような微妙な表情だ。

「ずいぶんな名前負けだな」

 涼太もつっこみ役として加わる。

「魚なのは合ってるけど、ゲーマーだとドラゴンだと思ってる奴いるぞ」

「え? ドラゴンじゃないの?」

「ほらな」

 有名RPGでドラゴンとして出てくるので、巨大魚とする伝説は知らなかった。

 そんなこんなやっている内に、候補が出揃い、多数決を採ることになった。

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