第158話「連携」

「次が七階か。だんだん連携が取れるようになってきたな」

 優月たちが戦っている頃、真哉たちの班も迷宮の攻略を進めていた。

「やっぱ真哉くんは強いなー。草薙専心流は霊剣術の流派で最強って聞いてたけど、その通りだな」

 千尋は真哉の剣技に感心している。

「それは嫌味か? 霊力はお前の方が高いだろう」

「いやいや、ちょっとの差じゃん。それに草薙専心流がそれだけすごいってことでもあるだろ?」

「まあ、俺も自分の流派には誇りを持っているがな」

 千尋は、沙菜同様の準霊極じゅんれいきょく。真哉は、その一歩手前だった。

 真哉は、今、準霊極の域に到達することを目指している。

伝位でんい皆伝かいでんだっけ? 直接戦ったらオレが負けるって」

「おそらく互角だな。ちょうど俺が師から受け継いでいる技で霊力の差を埋められるぐらいだ」

 特別謙遜するでも慢心するでもなく、真哉は、冷静に彼我の力量を見極めていた。

「千尋君も草薙君も強すぎて、わたし全然ついていけてないよ……」

 千秋は怜唯と一緒に、真哉と千尋の後ろを歩いている。

 千秋は断劾も戰戻も習得していないぐらいだ。霊力もこの四人の中で極端に見劣りしていた。

 逆に最も霊力が高いのは怜唯だ。

 怜唯は、百済くだら継一けいいちと同じ霊極れいきょく――霊力を極めし者――であり、癒しを司る力を持っている。

 百済というのは、かつて優月が倒した霊神騎士団第二霊隊隊長。彼は、風を司る羅刹であり、沙菜の不意打ちで弱っていなければ優月に負けるはずのない実力者だった。

「千秋ちゃんは、これからだって。早くから成功する人間だけが天才じゃないんだし。子供の頃、天才って言われてたのに、大人になったらなにも言われなくなった奴とかいるじゃん?」

 千秋は、元々未来を見る能力を持っていた。凡人でないのは確かだ。

「戦う力では、私もお二人に敵いません。自分なりの役割を果たしていけるようがんばりましょう」

 怜唯は、優しくさとすように言う。

 事象を司る力を持つ霊極であっても得手不得手はある。怜唯に強大な破壊力を持った技はない。

「片桐。お前も射撃の精度は高い。俺たちが戦っている間に敵の隙を見つけて撃ち込めば致命傷を与えることもできる。その一発を最適な霊子構成で放てるよう修練を積んでいけ」

「草薙君……」

 真哉は厳しい性格だと見られていたのか、千秋は驚いたような反応をした。

 真哉と千尋は互いの力を認め合っているし、真哉は怜唯に忠誠を誓っているし、千秋のことも、皆、気にかけている。

 千尋と怜唯以外は会って間もないが、既に良好な人間関係が築かれていた。

 七階に到着し、立て札を確認する真哉。

「遠距離攻撃禁止……か」

「となると真哉くんの独擅場どくせんじょうだな。怜唯ちゃんと千秋ちゃんには何やってもらおう?」

 怜唯の魂装霊倶は霊弓・白百合しらゆり。元より攻撃能力は高くないが、攻撃するとしたら遠距離からになってしまう。

「怜唯様はそもそも訓練を受けなければならないような域にはない。片桐は戦いを観察して、もし援護するならどのタイミングかを考えておけばいい」

 目の見えない千秋が観察というのもおかしいが、それはもう誰も気にしていない。

 霊力戦闘において剣を振るより大事なのが、考えるということだ。攻撃にせよ防御にせよ、霊子構成の最適解を導き出すことができた者が勝利する。

 それは戦いが始まる前も戦っている最中も同様だ。

 魔獣の姿が現れた。

「霊剣・叢雲むらくも

「霊刀・獅子王ししおう!」

 真哉が腰の剣を抜き、千尋が首から下げていた牙のような形をしたペンダントの変化を解く。

 変化を解いた千尋の魂装霊倶は、巨大な太刀だ。『真哉の独擅場』などと言っていたが、千尋も十分戦える。

 敵と味方、双方が動き始める。

「はッ!」

 真哉は素早い身のこなしで、床の上を駆け回る魔獣を斬り捨てていく。

「はぁっ!」

 千尋はリーチの長さを活かして、宙を舞っている魔獣を斬り裂く。

 霊気を放つ技を使わずとも、二人の力ならそうそう苦戦はしない。

 真哉が受け持っている床上の敵が千尋に迫ることはないし、千尋が受け持っている空中の敵の攻撃が真哉に届くこともない。

 言葉を交わさずとも、互いに相手のフォローができていた。

 今日会ったばかりだというのに親友のようだ。

 真哉は怜唯に心酔しており、千尋は怜唯に好意を持っているというのが大きいのかもしれない。

 普通は反目し合いそうな関係だが、むしろ価値観が近いと感じて共鳴しているようだった。

 真哉は、自分が怜唯の恋人になるなどということは考えていない。怜唯と親しい男性に嫉妬することはないのだ。

 そのため、千尋に反感を持つことはないが、同情している面はあった。

 怜唯の従者となるにふさわしい力を得ようと修行していた頃から、怜唯に関する話は聞き逃していなかった。おそらく怜唯は、惟月に好意を寄せている。

 叶わぬ恋をしていないだけ、自分の方が恵まれていると思っているのだ。

「なにッ!?」

 大半の魔獣が片付いたところで、一匹だけ動きが急激に速まった。

 ちょうど真哉からも千尋からも離れている。

 その魔獣は怜唯の方に向かっていく。

 この動きは中鏡が意図的に設定したものだろう。

「怜唯様! わたしの後ろに!」

 千秋は、霊子を固めて作った矢で魔獣の目玉を突き刺す。

 怯んだ魔獣を千尋が斬った。

「千秋ちゃん、ナイス!」

 千尋が千秋をほめる一方、真哉は自身の油断を恥じている。

「もしもこれが実戦で、千尋も片桐もいなかったら……」

 真哉の剣は怜唯を守るために磨いてきたものだ。

 まだまだ修行を積まなければならない。そう気付けただけでも、聖羅学院に編入してきた意味はあった。

「千秋さん、ありがとうございます。真哉さんも千尋さんも」

「いえ、わたしは最後しか役に立ちませんでしたし……」

「俺も未熟でした。精進します」

「ケガしないとはいえ、怜唯ちゃんが攻撃食らわなくて良かったよ」

 結束を強くした真哉たち四人は、八階へと進んでいく。

 その後は怜唯を危険にさらすようなことはなかったが、気付かされたことはあった。

「普段、獣型の喰人種を倒すのに苦労することはないから、こうした訓練はためになるな」

 魔獣相手だと、人型の敵と戦うのとは違った動きを要求される。

 強大な存在ほど人型に近い姿をしているという法則はあるが、喰人種完全変異体ともなると、様々な形態が考えられる。

 既に達人の域に至っている真哉の腕が、さらに上がっていくことになった。

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