第122話「銃使い」
「やっぱり強いね。昇太君」
「若菜先輩も早く追いついてくださいね」
昇太が騎士団の新人だった頃は、彼が自分より強いなどとは知らずに自信満々で戦い方の指南などをしていたが、今となっては滑稽な話だ。
「さて、せっかく捕らえた彼ですが――」
昇太は、自分が倒したレベル・エイトの超能力者・瀬能を調べることで超能力の発生源を突き止めようと考えたらしい。
ツタによって拘束された瀬能の肩に霊刀・紫苑を突き立てる。
先ほどの花粉で痛覚も麻痺しているため痛みはないはずだ。
「なるほど……。霊力と全く無関係な能力という訳でもなさそうですね」
刀を通して瀬能の身体が帯びていた力が昇太に伝わっている。
能力の解析などについて若菜は門外漢なので、見ていることしかできない。
昇太が超能力発現の原因を調べている間、ぼんやりと待っていたのだが、不意に拍手が聞こえてくる。
「ヒュー。やるねえ」
「――!? 誰!?」
若菜が声のした方に振り向くと、瀬能と比べるといくらか年上に見える男性が立っていた。
超能力者としての気配を持っている。
「
先ほどの瀬能と違い、大人の余裕が感じられる男性だ。
「それで? 何のご用でしょうか?」
調査を中断した昇太が克郎に問いかける。
「あんたら羅刹だろ? 最近妙な力に目覚めたもんで、柄にもなく人助けのために羅刹と戦ってんだよ」
瀬能と違って彼は善意で動いているらしい。これも情報通りではある。羅刹と喰人種の区別がついておらず、羅刹全体を人類の敵と見なしている者がいるということだ。
「一応説明しとくけど、あたしたちは人間の魂を食べる喰人種じゃないよ? っていうかあたしたちもその喰人種と戦ってんだし」
人間界で活動していた蓮乗院家や如月家の使用人たちが何度もしたであろう説明を改めてしてみる若菜。無駄ではあろうが、善意の人間といきなり戦うことははばかられた。
「そう言われて見逃したら、よそで人を喰らってた奴がいたんだよ。羅刹と喰人種の関係がどうなのかは知らねえが、お前らの言葉を無条件に信用することはできねえな」
どうやら喰人種の中にも、自分が普通の羅刹だと偽る者がいたようだ。それでは自分たちが疑われるのも無理はない。
「では、僕たちがあなたを倒して、それでもなお、あなたの魂を喰らわないでいたら信用してもらえますか?」
昇太は、出発前に沙菜が提案していた作戦を開示した。
「そりゃあ、まあな。もしあんたらが喰人種とやらなら俺は喰われて、そうじゃないって話が本当なら喰われないって訳だ。分かりやすくていいじゃねえか」
意外と相手の方も戦って決着をつけることに乗り気だ。
「先輩。さっきは見事に
毒舌を織り交ぜつつ、若菜を頼る意思を見せる昇太。
「オッケー」
先ほどは『守る』などと言っておきながら何もできなかった。今度こそ挽回するチャンスだ。
若菜が腰から
ちなみに魂装霊俱を持つ羅刹でも、弓矢を使う者などは矢を霊子で作っている場合がほとんどだ。
「…………」
克郎は無言のまま発砲してきた。かなりの速度の連射で、途中リロードしている素振りがない。弾も超能力でマガジンに直接装填しているものと思われる。
若菜は、流身を駆使して回避し、かわせなかった弾も剣で打ち払っていく。
克郎が放つ弾丸は、やはり霊的な力を帯びているようだが、若菜の霊力に打ち勝つほどではない。
「銃弾を避けたり斬ったり、あんた大したもんだな」
克郎が若菜の動きを見て口を開く。人間界の常識ではどちらも現実的な動作ではないので当然だろう。若菜が普通の人間でないことは分かっているだろうが、その分克郎の銃も超能力で生み出したもの。条件を考えれば若菜の実力は称賛に値するものだ。
「名乗ってなかったけど、あたしはこれでも騎士団の上位階級なんだからね!」
若菜の剣が、その一振りと共に成人の身長ほどの直径を持つ光の球を撃ち出す。
「――!」
攻撃の予兆を感じ取っていた克郎は、全力で銃弾を連射しなんとかそれを相殺した。
見た限り、霊戦技を用いずに放った若菜の霊気が、克郎の銃弾十発分の威力といったところだろうか。
「確かに強いな。騎士団での階級ってのを詳しく聞いてもいいかい?」
克郎は、若菜の力に感服して、その身分にも興味を持ったらしい。
「あたしは羅仙界を守護する霊神騎士団の第一霊隊第四位。所属する隊は騎士団の一番メインで、あたしがその中で四番目に強いって感じかな?」
実際には部下である昇太が実力を隠して第五位にいたため、第四位がそのまま四番目の実力ともいえないが、今は副隊長だった重光戒が第三霊隊に移っているので、他に隠れた猛者がいない限りは四番目で合っているだろう。
「道理で強い訳だ。――手を抜かないでおいて良かったぜ」
克郎が意味深な言葉を発する。
すると、意図をつかみかねていた若菜を囲むように光の膜が張り巡らされた。
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