第69話「決戦Ⅱ」
「この空間がここまで明るくなるのは初めてだな」
久遠の言葉通り、本来光が届かないはずの異空間が、そこに雷斗が存在している為に明るく照らされていた。
空間自体が生み出す凄まじい重力が雷斗を襲う。
「これは――」
「戰戻――
霊魂回帰した惟月が、自身の戰戻を変化させて生み出した氷の壁で異空間の内部を覆い尽くした。
これにより重力による攻撃が収まる。
「久遠さんの戰戻はその中にいる敵を重力で圧殺します。私の戰戻で威力を相殺している間になんとか兄を倒してください」
惟月の口振りからすると時間はあまりない。
「断劾――電迅争覇」
雷斗は全力を以って断劾を放つ。
久遠には恐怖も恐怖を奪うことも通じそうにない。その為、今放った電迅争覇は紫電ではなく純粋に威力を追求した普通の雷光だった。
「刹那四式・
対する久遠が放った断劾は、桃色に妖しく輝く霊気の球だった。
この技には空間を抉り取る効果がある。だから戰戻の中以外では使いづらい。
空間そのものを破壊する攻撃を前に電迅争覇の雷光は呆気なく消し飛ばされてしまった。
さらに相殺されることのない霊気の球が雷斗に迫る。
光の力を得ている雷斗は神速の流身で躱すが、足元付近の氷の壁は砕かれた。
そこに踏み込めば再び戰戻の重力に襲われるだろう。
「刹那二式・
久遠が次に放ったのは、この空間内では逃げ場がないほどに巨大な霊気の刃。
だがこれは――。
(明らかに脆い――)
雷斗はこの巨大な刃を素手で受けた。
(おそらく本命の二撃目が――)
そして、二撃目を剣で受けようと構えていたのだが。
――来ない。一撃目は単なる目くらましで、背後にでも本当に強力な刃が転送されてくるものと思ったが。
「うッ――」
雷斗の背後で惟月が片膝を突く。
(狙いは惟月だったか……)
惟月が傷ついたことで、氷の壁全体が軋み始めた。
「すまない。こんな戦い方はしたくないのだが、今の私は負ける訳にいかない」
霊神騎士団の団員は雷斗や沙菜との戦いでほぼ全滅している。
その上団長である久遠が敗れれば、騎士団は完全に崩壊する。
久遠が背負っているものは、雷斗も理解しているつもりだった。だからこそ何も言わない。
どんな戦い方をしようとも、最後に立っていた者が勝者だ。
「刹那三式・
針のような霊気が雷斗の心臓と肺を狙って繰り出される。
羅刹の霊体にも臓器があり、それらの中には特定の能力を司るものもあった。
肺を潰されれば魄気を使うことができなくなる。肉体に依存する普通の人間と違い呼吸ができなくなることにより死ぬことはないが、それでも魄気を失うのは霊力戦闘において致命的だ。
久遠の繰り出す技は時空を司る力によって限りなく速いものとなっているが、雷斗はそれを躱す。
雷斗は最速の力を以って、時空を司る力に対抗していた。
だが、反撃の機会はなかなか訪れない。
「刹那一式・
今度は風のような霊気が、刀の一振りと共に襲いかかってくる。
白鳳天翔破は、時空を支配するほどの久遠の力を純粋に攻撃力にあてた技だ。
特殊な効果がない代わり、威力が高く、また攻撃範囲も広い。
雷斗は剣で受けるが。
「刹那八式・
先ほど放たれた白鳳天翔破が消えない。それどころか攻撃範囲を拡大していく。
白い風のごとき霊気が空間内を嵐のように駆け巡り続ける。
無窮天劫は、先に放った技の効果を延長・拡大させる能力だ。
このままでは自分も惟月も傷が深くなっていくだけ。急いで勝負をつけなければ。
雷斗は光の力によって強化された流身によって一気に久遠に詰め寄る。
久遠もそれを予想していたらしく、風のような霊気を刀身にも纏わせていた。
久遠は雷斗の心臓を貫こうとするが、雷斗の胸に鎧のほんの一部が出現してその刃を受け止める。
それは雷斗のかつての戰戻・紫電装雷公花を思わせるものだった。
瞬時に最適な防御を固めて死を免れた雷斗は、久遠に刃を振るう。
「断劾――電迅争覇・閃」
直接刃を叩き込むと同時に、一筋に圧縮された雷光をも撃ち込まれたことで久遠の身体は両断されかかった。
「くっ……」
流身で距離を取る久遠。
荒れ狂っていた風のような霊気も収まった。
あと一撃で久遠は絶命する。そう確信した上で雷斗はもう一度刃を振るうが――。
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