第56話「絶対強度」
「月詠雷斗。いつでも斬り込んでくるがいい」
白銀に輝く霊刀・残月を構え、白夜は雷斗の攻撃を誘う。
しかし、白夜の能力『絶対強度』が聞いていた通りのものだとしたら下手な攻撃は全く通じないと思っていい。
『絶対強度』は、その能力の持ち主が攻撃力・防御力どちらにおいてもあらゆる生物の中で最強であることを保証する。
つまり、どんな敵でも斬れる技でなければ白夜を斬ることはできない。
さらに、一度でも白夜の攻撃を受ければ致命傷を免れない。
慎重にならざるをえないが、かといって待っているだけでは機を逃す。
雷斗は流身で白夜の側面に回り込み、剣から紫電を放った。
「霊戦技――迅雷」
白夜はそれを素手で受け、握りつぶしてしまう。
――やはり、ただの霊戦技では話にならないか。
ならば、と。
「
雷斗の断劾による紫電の奔流が白夜を襲うが――。
「こんなものか……」
白夜が刀を一振りすると全てかき消されてしまった。
今度は白夜が斬りかかってくる。
紙一重でその斬撃を躱すが、代わりに後ろにあった地面が大きく引き裂かれた。
直撃を受ければひとたまりもない。おそらく剣で受けても防ぎ切れないだろう。
こんなところで死ぬ訳にはいかない。寿命は削られるとしても使うしかなかった。
「
霊剣・雷公花の魂と雷斗の魂が融合する。
溢れ出す霊光が鎧の形となり、雷斗の防具となった。
「ほう。それがそなたの戰戻か」
雷斗の戰戻は、恐怖を司る紫電をその身に纏うことができる。
並の羅刹が相手であれば近づくことすらできないところだが、白夜相手にはそうもいかない。
戰戻で力を増した雷斗は、流身を駆使して白夜の周囲を飛び回る。
止まっていて白夜の攻撃を受ければそれまでだ。
間合いをはかりつつ、何度も紫電を撃ち込む。
「……？」
初めのうちは戰戻状態となった雷斗の攻撃はほとんど躱していた白夜だが、徐々に当たることが多くなってくる。そのことに気付いて眉をひそめる白夜。
雷斗の放つ斬撃が、わずかにではあるが白夜の肌を裂いた。
「そうか。これもそなたの力か」
「……気付いたようだな」
雷斗の紫電は恐怖を司るもの。必ずしも恐怖を与えるだけの能力ではない。
今まで雷斗が白夜に対して放っていた紫電は、敵から恐怖心を奪うものだ。
敵の攻撃に対して恐怖がなければ、それを躱しにくくなるのは必然。
「恐ろしいか？ 恐怖を感じないということは」
「ああ。恐ろしいな。さらなる力が必要だと実感させてくれる。そなたを斬ることで、新たな力を得るとしよう」
それまであまり攻撃を仕掛けてこなかった白夜が、流身を使って連続で刀を振るってきた。
当たる訳にはいかない。だが、逃げる訳にもいかない。
幸い紫電が持つ能力は白夜にも通じている。
（隙を突いて一気に片をつける）
白夜の刃をあえてギリギリで回避した雷斗は至近距離から技を放つ。
「断劾――電迅争覇・閃」
普通に放てば辺り一帯を焼き尽くすほどの紫電。それを一筋だけに圧縮して放ち、白夜の身体に直接叩き込んだ。
白夜の胴から鮮血が吹き出す。
勝負はついたかに思えたが――。
「悪くない。――いや、素晴らしい力だ」
雷斗に対して賛辞を贈ると共に白夜は霊法を発動した。
「霊法八十九式・
銀の鎖が絡みつき、雷斗の動きを止める。
霊刀・残月の刃が雷斗に襲いかかる。
雷斗は剣で受けるが、剣ごと斬り裂かれてしまった。
「くっ……」
その場で倒れ込む雷斗。
傷自体はまだそれほど深くない。だが、霊力戦闘において傷の深さはさして重要ではない。
斬撃と共に注ぎ込まれた敵性霊子。白夜のそれは圧倒的に強いものだった。
最強の力をその身に受けた雷斗には、最早立ち上がる力は残っていない。
「礼を言う。そなたのおかげで私はさらなる高みに至ることができる」
とどめを刺そうと刀を振り上げる白夜だったが――。
「霊魂回帰――！」
惟月の声が、暗き森の中に響く。
雷斗の身体から光が放たれたかと思うと、白夜の刃は氷の壁に阻まれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます