第九章-最強の羅刹-
第55話「強さを求めて」
霊京五番街。蓮乗院家の庭園にて。
優月の修行が終わり、彼女を羅仙界へ案内する役目を負った沙菜と入れ違いで、雷斗と惟月は自分たちの世界に戻ってきていた。
「思った通り、優月さんは羅刹化の修行をやり遂げてくれましたね」
二人で優雅なティータイムを過ごしながら話す。
惟月が雷斗に力を譲ってからというもの、このようにして過ごす時間が多くなっていた。
「惟月。お前は本当に良かったのか? あのような女に霊刀・雪華を与えて」
雷斗は未だ優月を完全に認めてはいない。
一方、惟月は優月を母の形見である霊刀・雪華の使い手として認めているようだった。
「私は素敵な方だと思いますよ。気が弱いところはありますが、心は弱くありませんでした。いずれは母を超える羅刹に成長してくれるでしょう」
惟月の母――蓮乗院風花。霊刀・雪華の元の使い手だった彼女は優月たちを守る為、喰人種完全変異体と戦い命を落とした。命と引き換えだったとはいえ、完全変異体を倒したのだ。
雷斗には優月がそれほどまでに強くなるとは考えられなかった。
「相変わらずお前の心は読めんな」
ともあれ、これからはまた羅仙界での征伐士稼業が始まる。
S級喰人種をも倒せるようになった雷斗にとってみれば、平凡ともいえる日常が始まるかに思えたが――。
数日後、霊京から東方に位置する黒狼森林と呼ばれる地域。
雷斗と惟月は今日も喰人種討伐の為に出向いていた。
目標は今回も危険度S級の喰人種。対人属性を用意されているとすれば、雷斗といえども苦戦する可能性のある相手だ。
「近いですね……」
「分かっている」
魄気による探知能力は、力を譲ってなお惟月に分があったが、今は雷斗も喰人種の気配を感じ取っていた。
そして、気配に気付いているのはこちらだけではないだろう。
――いつ仕掛けてくるか。敵の出方をうかがっていると。
「……!」
惟月が驚いたように目を見開く。
「喰人種の気配が……」
消えた。逃げたとか霊気を抑えたという感じではない。突然の消滅。それは、気配の持ち主が即死したようであった。
(何者かが、S級の喰人種を一瞬で倒したということか……)
喰人種とは別の存在に対し身構えていると、木々の間から一人の青年が現れた。
腰まで届く長い銀髪を高い位置で括り、白銀を思わせる色の着物を身につけている。羽織には交差する三日月の紋章。
この紋章には見覚えがあった。これは――如月家の家紋だ。
「蓮乗院惟月。そして、月詠雷斗だな」
切れ長の目でこちらを見つめながら問いかけてくる。
「霊極第三柱・如月白夜……」
雷斗は、『最強』と称されるその羅刹の名を口にした。
雷斗自身も霊極と呼ばれる域に到達していたが、三大霊極はさらに別格だ。
「何の用だ……?」
「そなたたちを斬りにきた」
雷斗の問いに白夜は端的に答えた。
白夜は既に最強の存在となっていながら、さらなる高みを目指して戦いを続けているという。
征伐士として名を馳せた結果、白夜から目を付けられることになるとは。
「下がっていろ、惟月」
霊剣・雷公花を抜いて白夜の前に立つ。
惟月は雷斗の言葉に素直に従った。
「月詠雷斗――。混血として生まれたそなたが、よくぞここまで強くなったものだ」
白夜は雷斗の成長に喜んでいるようだ。
白夜ほどの実力になると、喰人種でもそれ以外でも対等の戦いができる相手は滅多にいない。
劣血と揶揄されていたところから、霊極にまで上り詰めた雷斗は彼にとって貴重な強敵なのだろう。
元々敵対関係だった訳ではない。しかし、白夜は雷斗のような者と戦うことで自らの力を高められると判断したようだった。
腰に差していた魂装霊俱、霊刀・
『力』を司る白夜と、『恐怖』を司る雷斗。霊極同士の戦いが始まろうとしていた。
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