元勇者は魔物とくつろぐ

樫雨助

プロローグ

 始まりはとてもありきたりな理由だったと思う。男の子だったら、場合によっては女の子でも普通に考えるような、そんな理由だった。


 僕の生まれ故郷は辺境の小さな農村だ。

 王都や大きな都市みたいに立派な外壁があるわけもなく、歴戦の騎士や腕利きの冒険者がいるわけもない。粗末な木の柵が村を囲い、十数人の衛兵や冒険者がいるくらいだった。

 かつてはその程度でも十分安全に暮らせていたが、僕が子供の頃からは状況が変わってくる。

 魔物の増殖と魔王の復活。

 これが噂され始め、だんだんと信憑性をもっていったのだ。

 たいした防備のない村だ。その噂に不安になる者も多かった。

 その中には当然、僕の家族もいた。

 畑仕事をしながら家庭を支える厳しくも優しい父に、美味しいご飯をいつも作ってくれるおっとりとした母。いつも僕の後ろについてきていた怖がりな妹。


――自分が強くなって家族を守りたい


 そう考えるのは、全くおかしなことじゃないだろう?

 だって、とても大切なものなんだから。


 そう考えるようになってからは、強くなるためにできることをとにかくやっていった。衛兵の訓練に混ぜてもらったり、冒険者に指導を仰いだりした。

 体力をつけるのに役立つと思って、父の畑仕事をそれまで以上に熱心に取り組んだりもしたな。

 あることがあってからは、もっと多くの人を守りたい、助けたい、なんてそんなことを思うようになっていった。そのために役立ちそうなことはなんでも学んでいったし、自分に出来そうなこと可能な限り身につけていった。


 色々なことがあった。

 数々の戦いを経験して、様々な場所へ行き、色々なものを見た。

 様々な人と出会った。とても好感の持てる人や尊敬できる人がいれば、絶対に認めることのできない人もいた。

 救えた命も、救えなかった命も、たくさんあった。


 思えばずいぶんと遠くまで来てしまったような気がする。

 だけど、これでようやく終わりになる。僕が魔王を倒すことができれば、きっと多くの人が幸せになれるはずだ。


 馬鹿な僕は、そんな風に考えていたんだ。








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