第9話 付け焼き刃
粉のスポーツドリンクを水に溶かし、少し濃いめに作る。更にコンビニで調達してきた濃縮還元リンゴジュースをそれに混ぜる。それを清潔な布に染み込ませ、少女の口に含ませる。少女の意識はかなり朦朧としているようだったが、ちゅうちゅうとそれを吸った。それを何度も繰り返して水分を補給してやる。
なんでぶっ倒れているのかはわからないが、ライフラインが止まってもう一週間だ。餓えか渇きかのどちらかだろうし、どっちかというと渇きの方が圧倒的にヤバいはずなのでとりあえず水分を補給してやる事にした。
経口補水液なんてものはないので、濃いめのスポーツドリンクにリンゴジュースをブレンドだ。何かの本で脱水症状にはリンゴジュースが効くって見たからブレンドしてみた。付け焼き刃の知識だから上手く働くかどうかはわからんが、何もしないよりは良いだろう。
そうして様子を見ていると、外が暗くなり始めてきた頃に少女は目を覚ました。
「おじさん、だれ?」
「おじさんは狭山遼太郎って名前だ。君は?」
「しらとりかな」
「かなちゃんね。何年生?」
「ろくねんせい」
「六年生って何歳だっけ。高一で十五だから、十二歳か?」
「そう。おじさん、のど乾いた」
「あいよ。ゆっくり飲め」
俺オリジナルブレンドドリンクを渡すと、かなちゃんは少し顔を顰めながらもゆっくりとペットボトルに入ったそれを飲み干した。
「濃くて喉がイガイガする」
「水も飲め。あんまりガブガブ飲むなよ、少しだけにしとけ。腹減ってるだろ、飯食うか?」
「食べる」
まだ警戒しているのか、言葉少なに対応するかなちゃんである。俺は予め湯煎しておいたレトルトのおかゆを器に移して彼女に出してやった。ゆっくり食え、と言い聞かせながらコンビニからかっぱらってきたコンビーフの缶詰を開けて半分ほどを分けて彼女の器に投入する。
俺も同じメニューを食べる。このコンビーフ粥が意外と美味いのだ。
物足りなさそうな顔をするのでソーセージやサバの味噌煮の缶詰も開けてやった。うんうん、ええんやで。どうせ100%オフのお買い得商品だからな。
飯を食って人心地がついたら急に感情が溢れ出してきたのか、かなちゃんが泣き始めたのには焦った。
「ぅぅー……!」
「泣いても良いが声は出すな。ゾンビが寄ってくる」
一応窓は塞いでカーテンも閉めておいたからそうそう外に声が漏れる事はないとは思うが、正直気が気じゃない。俺に抱きつき、胸に顔を押し付けて泣くかなちゃんの背中をポンポンと叩きながら耳を澄まして一夜を過ごす事になった。かなちゃんはいつの間にか俺に抱きついたまま眠っていた。
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