おっさんのゾンビサバイバー!

リュート

第1話 おっさんの手記~1~

 20XX年、世界は核の炎に包まれた。


 なんてドラマティックで派手な事件なんかは全く無く――世界の破滅は静かに、しかし爆発的に進行した。

 第一報はお隣の国のどこかの都市だったと思う。

 反体制派による大規模なデモが起こって、一部が暴徒化。商店などを襲い、多数の負傷者が出た……と、そんなニュースだった。

 その時におや? と思ったのを覚えている。俺の偏見かもしれないが、お隣の国はそういった政府にとって都合の悪いニュースを大っぴらにせず、統制するようなイメージがあったからだ。

 よくよくニュースを見てみるとそれも当然で、暴徒側だけでなく、治安維持を行う側にも多くの犠牲者が出ていたようだった。犠牲者、そう犠牲者だ。負傷者じゃなくて死者が多く出ていたのだ。

 おお、こりゃヤバそうだなぁというのが次に持った感想だ。

 負傷者や拘束される人が出るのはこういった暴動のニュースではよくあることだろうが、死者が多数出るというのは尋常な出来事じゃない。人が死ねば事が大きくなるだろう。ネットでは『終わりの始まり』とかそんな話が盛んにされたが、それが本当にその言葉のままになるとは誰も思わなかっただろう。

 暴動のニュースは連日伝えられ、その範囲は瞬く間に広まった。欧米や中東にも暴動は広まり、当然の如く日本にもその波は押し寄せた。何かがおかしいぞ、と思った時には全てが手遅れだった。人が人を貪り喰らうようになるという奇病が暴動の中に紛れ込んでいたのだ。

 人が多い場所でこそ、その奇病は猛威を奮った。真っ先に各地方の大都市の機能が麻痺し、各国政府は有効な手立てを打てぬまま被害を拡大させていった。日本は特に酷かった。

 他の国に比べて治安が良く、国民が自身を守る手立てが少ない。そもそも、そういった心構え自体が乏しい。警察は無闇に市民に発砲を行う事ができず、自衛隊もまた国民に銃を向けることができない。そもそも、彼らに超法規的な措置を取らせるためのブレインが真っ先に麻痺してしまっていた。

 彼らも間抜けではないので、上が『死んで』しまっているのを確認してからは連携を取れる範囲で連携を取って行動を始めた、らしい。そんな話が聞こえてきた頃に外部から情報を得る手段を失ってしまったからよくわからない。付近の電気が止まったしまったせいか、スマホが圏外になってしまったからだ。

 充電はなんとかできても、基地局に供給される電気が止まったら通信なんぞできんのである。

 なので、なんとか外部の情報を入手するのが目下の目的だ。それ以上にまず生き残らなければならないわけだが。

 そうだ、自分の名前を書くのを忘れていた。俺がもし死んでも、誰かがこの日記を見つけて伝えてくれればとりあえず俺の名前は残るかもしれない。そんな一縷の期待を込めてこの日記を書くことにしたんだ。日記というか手記か? まぁどっちでもいい。

 俺の名前は狭山遼太郎。さやま りょうたろうだ。誰かがこの手記を見つけたなら、できれば後世に伝えて欲しい。もし俺がゾンビになったり死んだりしてるなら、見つけた君に出版権を譲るよ。遠慮なく受け取ってくれ。

 ああ、もし俺がゾンビになってるなら荷物も持って行っていいぞ。そこそこ役に立つものが揃ってるはずだ。もし俺を殺して物資を漁ろうとしてるなら、あんたに呪いあれ! ケツでも囓られて死んじまえ!

 とにかく、明日から行動を開始する。

 人間一人が持っていける物資の量なんて高が知れてるからな。荷物は厳選していかないと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る