第14話
本田は、赤いキャンドルにゆれる火を見ていた。エアコンの風が強くないバーでは、火は小さくゆらめくだけだ。明日への楽しみと、不安が入り混じっていて、生ビールの味も少し薄く感じる。
「元気ないね?」
紫垣がたずねる。
「うーん、明日からのことで不安なのかも。こんなことなら、神社にでもお参りしておくんだったなぁ」
「ケンさん双子座だったよね?今日の占いを見てみれば?」
もう日付も変わって、午前0時半だ。いつもスマホで見ている占いも更新されているはず。スマホの占いアプリを起動して、今日の占いを見てみた。
「控えめに過ごした方がいい、って書いてある。」
「じゃあ、イベント会場で目立たないようにしたら、良いことあるんじゃない?」
「それじゃ仕事にならないよ」
「占いなんて、当たりませんよ」
マスターが割ってはいる。
「このバーだって、お客さんが入るかどうかは、店をあけてみないと分からないんです。ケンさんのイベントだって、同じですよ。できるのは、お客さんをたくさん呼ぶことじゃなくて、お客さんをプロフェッショナルにおもてなしすることです。私のようにね!」
マスターが決め顔を、僕らに見せてきた。
「なぁに?マスターのその顔?」
紫垣が笑う。
「まあ確かに、そうですね。イベントを成功させたかどうかは、お客さんの数だけじゃない」
僕はビアグラスに残っていた、ビールを飲み干した。
「お勘定お願いします」
「そうですね、今夜は早く帰って寝た方がいいですよ」
マスターが柔らかく言う。
会計をすませて、鞄を持ち、ドアを開こうとしたところでマスターが
「私は木曜に行くと思いますよ」
「あ、私と千佳は、水曜に行くと思う。休みを合わせたんだ」
「ありがとう、お待ちしてます」
そういって、霧島のドアを閉めた。
かすかに街路樹に残る桜の花を見ながら、明日に近づいていった。
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