第10話

「島田さんも忙しそうですね。ラーメンの方」

「そうなんすよ。選定したい店は、一度は食べておきたいと思うと、休日がラーメン屋さんめぐりになっちゃって」

「鹿留に行くのは、あきらめますかね」

 すかさず太田が割ってはいる。

「俺だけ今シーズン行ってないんだから、行きたいじゃないの」

 いつもの階段の喫煙所で、僕と島田と太田で、3月に行く予定を考えていた釣りの予定の話だ。

「まあそうなんすよね。太田さんだけ、今シーズン行ってない」

「島田さん、都合つきます?」

「何とか行こうよ。楽しみにしてたのよ」

「なんとかしますか」


 朝5時に起きて、赤い電車と緑の電車で、中山駅に7時に着いた。そこで島田にピックアップされ、高速道路に乗って西に走る。御殿場までは1時間くらい。朝の渋滞も無く快調に走った。

 御殿場からは下道を数十分、富士山を見ながら走って、有料道路に入る。きれいに整備された道だ。

 有料道路のトンネルを抜けると快晴だった。中山湖で有料道路をおりて、また下道で1時間も走らないうちに、鹿留の管理釣り場に到着した。

 太田は、自分の車ですでに到着していた。

「遅いよ?」

「「気合い入ってますね」」

 僕と島田が笑う。

 3月半ば、周りに白い目で見られるのを覚悟して、3人で無理矢理休日をあわせてやってきたのだ、そりゃ気合いも入る。

 鹿留は、大きなポンド(池)が一つだけ。ポンドに放流されている、魚の大きさは、40センチを越えていることが約束されているので、大物釣りにはあこがれの場所だ。

 今年は暖かい冬だったのもあってか、雪は残っていない。快晴なので、日当たりのいい場所は、暖かいくらいの中で、釣り具の準備をしていた。

「そんなに寒くないっすね」

島田が言ったそばから、谷間の風が強く吹いた。

「あ」

「なんです?」

「今、クロアゲハが飛んでた気がしたんだけど... 」

「まだ早くないっすか?」

「本田君、仕事のしすぎだよ」

 島田と太田にそう言われて、「まあそうかもな」と思いつつ、釣り具の準備が終わった。「よし。今日は五匹は釣って帰ろう」

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