外伝〜優太幼少期⑤〜

〜優太視点〜


 交差点で止まれなかったけど、運良く車が止まってて助かりました。良かったです……。


「このペースなら明日にはつけるかもしれない……!」


 畑や家が後ろに流れていきます。風が気持ちいいです。このままずっと走っていたい。そんな気持ちになりました。

 ですが、終わりというものは訪れるものです。次第に僕のスピードは落ち、立ち止まってしまいます。理由は簡単です。疲れてしまったのです。


「ハアッハアッ……!」


 止まれば直ぐに疲れがなくなって走れるようになりますが、もう走る気力もありません。僕はそのまま歩き始めました。

 時間は11:52。走ったのでいつもよりもお腹が空いてます。僕は立ち止まり、お昼ごはんのカ○リーメイトを食べるためにリュックから……。


「なんで……?」


 僕の背中の重さは、この走ってる間全く変わりませんでした。


「なんでなの……?」


 それに、僕と並んで走っていた人もいません。


「なんでよ……!」


 それなのに、何故。


「なんでホカホカのお弁当が入ってるんだよ!」


 なんで僕のリュックの中には出来立てほやほやのお弁当が入っているんだろうか。


「あれ? 箸が……あ。」


 リュックの中に箸が現れました。僕の目の前で。


「……もういやだ……。」


 諦めて、僕は目の前で現れた橋を使ってお弁当を食べました。まあ、美味しかったです。



〜side out〜



〜陽菜視点〜


「ふんふんふ〜ん。」


 わたしは今、お父さんに頼まれておべんとうを作っています。優太くんに作ってあげてほしいと言われたので、少し手間をかけて作っています。


「確か卵焼き好きだったよなー。」


 ジュ〜……


「あとはこうしてっと。」


 そして最後の具材をお弁当箱にいれて……。


「かんせ〜い!」

「お、出来たか。」

「あ、お父さん! うん。今出来たよ!」

「お〜美味そうだな。これは優太も喜ぶぞ。よし! 陽菜、このカバンに入れてくれ。」


 そう言ってお父さんはリュックを取り出しました。


「ここに?」

「そうだ。」


 言われたとおりにお弁当箱を入れました。


「よし。これでおっけーと。」

「ねえねえ、いつ渡しに行くの?」

「ん? もう渡したじゃないか。」

「え?」

「ほら……。」


 そう言ってお父さんはリュックの中を見せてきました。中には……。


「あれ? 何も無い……。」


 さっき入れたはずのお弁当箱が無くなってる……。なんで?


「大人になったらわかるよ。」


 大人になってもわからないような気がしました。



〜side out〜



〜優太視点〜


 何故かリュックに入っていたお弁当。それをゆっくりじっくり食べました。が、直ぐになくなってしまいました。


「ごちそーさまでした。」


 美味しいご飯のありがたみがわかった時でした。

 そして、僕は空になったお弁当箱をリュックにしまい、時計と地図を確認します。

 時間は13:00。そろそろ出発しないと明日までに着かないと判断したので、僕はまた歩き始めました。

 気がつけば、もう山から降りていて麓の街に出ていました。もう半分は越しています。

 空が赤く染まってきました。街の中で寝るわけには行きません……。


「仕方ない。走ろう。」


 なんとか暗くなる前に山に辿り着いておきたいので、僕はまた走りました。



〜side out〜



〜神野秀太郎視点〜


「さすがの腕時計も、走る体力には追いつかなかったか。」


 息子が立ち止まるのを見て、オレはそう呟く。肩で息をしているように見えるので、オレの判断は間違っていないのだろう。息子が昼を食べる為にだろう、リュックを漁りだした、とはいってもカ○リーメイトしかな……。


「アイツ、どこまですれば気が済むんだ……っ!」


 俺の息子がリュックから取り出したのは、ひとつのお弁当箱。しかも、見た限り出来たての。

 とても、美味しそうだ。


「腹減ってきたな……。」


 昨日から何も食べてないので、そろそろ食べないと動きに支障が……。


『棚の一番上の左端に入れといた。』


 頭の中にそんな声が響いてくる。チッ、あいつも考えてんな。

 転移門ゲートを言われたところに繋げて取り出す。取り出したものは……。


「コンビニパンかよ……。」


 アイツは子供に甘いが大人、特にオレには厳しい。ロリコ『違う。』ンなのかな。


 息子は弁当を食べ終えたようだ。オレも最後の一欠片のパンを口に入れて飲み込む。


「──っ! ゴホッゲホッ!」


 ……喉につまらせた。水を飲んで流し込みながら、息子の後を追いかける。



 途中で、スリップした車が息子にぶつかりそうになったので体勢をなおしてやったり、崖崩れを水で固めて防いだりしたが、ほぼ何事もなく進んでいく。


 そして、街に出る。時間はほとんど夕方だ。段々と空が赤くなるにつれて、息子が慌てだした。そして……。


「また走り出したか。街で寝泊まりする場所はないからな。」


 その判断に心の中で賞賛を送りながら、息子との距離を変えないようにオレも走り出した。



〜side out〜

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