外伝〜優太幼少期③〜

〜優太視点〜


 お水を飲んでからまた2時間ほど歩くと、街に出ました。前に家族で伊豆に旅行に来たところです。


「ここに泊まったんだよなぁ〜。」


 そして僕は今、その家族旅行の時に泊まった旅館の前にいました。とても懐かしいです。


「そして、少し歩くとお寺があるんだよね〜。」


 前に来た時と同じ景色が広がっていました。これを感動というのでしょうか? 僕にはよくわからないです。


「と、そうだ。帰らなきゃ!」


 僕は目的を忘れていました。時計を見ると、もう11:48です。急いで地図を確認して、また赤い線に沿って歩いていきました。

 途中、話しかけてくる人がいました。前の家族旅行の時に何回か出会った人みたいです。


「あら、優太ちゃんじゃないの! ご家族の人たちは?」

「今僕一人です。」

「あら? 迷子?」

「いいえ。これから帰るところです。」

「そう。がんばってね〜。」


 と、短いやり取りだけしてその人とは別れました。さて。早く帰らないと。



〜side out〜



〜神野秀太郎視点〜


「……あら? 優太ちゃんのお父様じゃかいの。どうしたんです? 息子さんはあちらですよ?」

「あ、いや、少し……。」

「あ、一人にして不安なのね? 大丈夫よ。しっかりしてるじゃないの。」


 そう言って前にオレが助けたオバサンは去っていった。


「……さっきの反省を活かして、気配を完全に断ったつもりだったんだが……。」


 オバサン、侮れんな。

 しかし、3歳の頃のことをオレの息子は覚えていたみたいだ。


「やはり……。」


 オレは少し確信に近い予測を立てたあと、歩き出した優太をまた追いかけた。



〜side out〜



〜優太視点〜


 僕は今、山の中の道路をカ○リーメイトをかじりながら歩いています。

 人通りが少なくて、少し怖いです。が、赤い線がここを通っているので、仕方なく歩いています。


「早く帰らないと……!」


 時間は15:49。何故か疲れないので、ただひたすら歩きます。歩いて歩いて歩き続けます。途中、後ろから来た車の運転している人が『乗せていってやろうか?』と聞いてきてくれますが、そんなことをしたら師匠に怒られるので断りました。

 僕は途中で水を飲み、カ○リーメイトをかじり、地図を確認しながら進んでいきます。



 そして、気がつけばもう夜になっていました。時間は18:36。そろそろ夜ご飯を食べる時間ですが、カ○リーメイトしかないので、何も考えずに歩き続けました。

 車の通りはもうほとんどありません。

 何故か後ろからは一切車が来なくなりました。


「今夜は野宿かな……。」


 もういま手に持っている箱の中に、カ○リーメイトはありません。新しい箱を取り出すためにリュックの中を漁ります。



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水2L未開封

水2L開封済み

カ○リーメイト×8

テント


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「……あれ?」


 何故かテントが入っていました。さっきカ○リーメイトを出した時は無かったはずなのに……。


「なんでだろう……。」


 しばらく考えます。考えて考えて……。


「いいや。めんどくさいもん。」


 考えるのを諦めました。だって、わからないんですもん。


 僕は考えるのを諦めて山の道から少し離れた、森の中でテントを広げました。


 テントを出した瞬間、瞬時に組み上がりました。


「……。」


 僕の頭の中に「考えたら負け。」という言葉が浮かんできました。その通りだと思います。


 何も考えずにテントの中に入りました。そこには寝袋がおいてありました。


「…………。」


 何も考えずに……。


「なんで……なんで寝袋があるの……?」


 無理でした。

 ですが、やっぱり考えても無駄なのでそのまま寝袋に潜って寝ることにしました。


 やっぱり疲れていたのでしょう。寝袋にはいると、すぐにまぶたが落ちてきました。



〜side out〜



〜神野秀太郎視点〜


「もう暗くなってきたな……。」


 目の前で、オレの息子があるクルマの運転手に話しかけられていた。まあ断ることは確信していたので、周りの状況を確認する。


「そろそろ誘拐とかを考えるバカが現れそうだな……。」


 オレは道路にある細工をした。途中でUターンしたくなる暗示にかかる魔法をかけたのだ。……そんな目をしないでくれないか。イタイ台詞だってのは自覚している。


「よし、これで完璧。」


 息子は道から外れたところでテントを広げていた。テントが入っていたこと、勝手に組み立てられたこと、寝袋が入っていたこと。その異常さに気づいて、なお考えることを諦めたようだ。あの顔はそうに違いない。


「む、そろそろ寝るみたいだな。」


 息子がテントの中に入っていくのを視認した。


「さて……ここからが大変だな。」


 そう呟いて、オレはその場から消え失せるように移動を始めた。

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