第十四・五話〜陽菜召喚前〜

「優太ぁ………」


 私、小暮陽菜は、布団の中で静かに泣いていた。


「私のせいで……優太は……!」


 私の密かな想い人、神野優太は、私をかばってこの世界から消失してしまったのだ。

 両親に相談したら、お母さんは


「優太くんなら大丈夫よ〜」


 と、呑気そうに。お父さんは、


「そうか……」


 と、何でもなさげに言った。そんな反応を見て、私は混乱してしまった。


「どうして……?なんで?こんなことなら私、もっと彼に優しくしておけばよかった、もっと早くデートに誘えばよかった……!」


 デートにやっと誘うことができた直後のことだった分、ショックも大きい。


 そんなことを考えながら泣いているうちに、私は眠ってしまっていた……



 夢を見た。

 学校で、いつものように優太を起こしたら、優太が急に「かわいい」などと言ったのだ。それだけでなく、好きだ、やら結婚してくれ、やらいろいろ言われた。最後にもう一度優太に好きと言われ、それで目が覚めた。とても恥ずかしく、とても嬉しかった。

 そんな夢だった……


〜同時刻、陽菜の父親視点〜


「陽菜は眠ったか?」

「ええ、あなた。」

「遂にこの時が来たか……」

「そうね………」

「アイツがうまくやってくれてればいいんだが…」

「大丈夫よ。前は良いライバルで、良い相棒だったんでしょう?」


 アイツ、時々適当だからな…………「すまん。」とか言いそうなんだよな……


「大丈夫よ、優太もついているのだし、死ぬことはないわよ。勇者様。」

「その名で呼ぶな!」

「今夜は寝ましょう。明日の朝は少し豪華にしましょうか」

「………ああ」


 そして、空を見て呟いた。


「頼むから、この件は投げ出すなよ。」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜陽菜視点〜


 朝起きると、妙に両親がそわそわしていた。いや、お父さんだけかな。

 朝食も妙に豪華で、少し怖かった。でも、不思議と嫌な感じはしなかった。

 学校の授業も全然頭に入って来ず、そのまま気がつけば帰りの時間だった。


 終始、学校は『普通』だった。

 みんな、優太がいないことが『普通』であるかのように、いつも通りだった。


(優太………なんで……どこに行っちゃったの…!)


 そんなことをずっと考えながら歩き、あの角に差し掛かった。

 その時、またあの光に私は包まれた。

 視界が歪んでいく。


「……っ!ゆう…」


 そしてそのまま、意識が無くなった。



〜同時刻、優太の父親視点〜


 …ムッ


「どうした?まさか、もうか?」


 私は親友ととあるバーに来ていた。


「ああ、そのようだ。」

「大丈夫なんだよな?陽菜は。」

「ああ、こんなの私にかかれば造作のないことよ。」

「ならいいんだが……」


 ホントにコイツは………


「お前、弱くなったな。あの頃の強さが全くないぞ?それでは直に道場も潰れるな。勇者様よ。」

「うぐっ…その名で呼ぶなと言ってるだろ?魔王様?」

「貴様!」


 ハァ……


「安心しろ、私達よりも上手くやってくれるさ。」


 そう言うとコイツは


「ああ、そうだな。お前の息子に娘を任せるとするか。」


 と、爽やかに笑った。


「頼んだぞ、愛しい息子よ。」

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