第十話

 大陸暦100年7月19日未明


 場所はラヴィーヌ国の中央に位置する時計台。その頂上に人影が二つあった。一人は全身を真っ黒な服に身を包み、真っ黒な覆面をしていた。もう一人は、優太が召喚された際にいた、騎士達のうちの一人であった。

 ただ、人が滅多に入らない上、誰も起きていない時間なので、目撃されることはなかった。


 覆面の男が言葉を発した。


「報告を」


 騎士が口を耳元に近づけて何かを囁く。


「そうか、王と王女を洗脳して、異世界人を召喚させたか。うん?まだあるのか?」


 騎士がまた何かを囁く。


「む?今王城に居ないだと?では何処に…ん?」


 騎士が囁く。


「そうか、居所を突き止めたか。流石だな。して、何処に?」


 騎士は国の東端の、ある屋敷をさした。


「そうか、あそこか。ふむ。レベルは50、と。もうよいぞ。」


 そう、覆面の男が言うと、次の瞬間には騎士の姿が忽然と消えていた。


「フッ、我々の目的の為に、是非使わせてもらおうか。勇者殿よ。」



〜〜〜〜〜〜〜朝〜〜〜〜〜〜〜


「さて、ユウタよ。属性は昨日全て獲得したな。本来なら魔法の創作に入るべきなのだが……既にやっているらしいしな。という事で、魔力強化について教えようと思う。」

「おう。わかった。」


 魔力強化かー、大変そうだな。魔力操作とか。


「わかっているとは思うが、とても大変だ。強化自体は簡単だが、効率を良くするのは一日やそこらじゃ出来るもんじゃない。」

「わかった。」


 さて、のんびりやりますか〜。


「魔力強化というのは、自身の魔力を強化したい部位に魔力を纏わせることにより、その部位の機能を飛躍的に向上させることができる。例えばそうだな。この指を見てみろ。」


 そう言って、メアは一本の木に近づいて、右手の人差し指を見せてきた。


「いま、この指は何もしていない、ただの指だ。」


 ふむ。


「この指に魔力を纏わせると……」


 メアの人差し指の周りが揺らめいた。

 最初の魔力操作みたいなものかな?


「ここで重要なのが、ただ垂れ流しにするだけじゃあダメなところだな。出した魔力を『纏わせる』んだ。そうする事により、実戦で使えるほどの効率を発揮する。ちなみに、どのくらい強いかというと……」


 そう言い、メアは木に近づいて無造作に人差し指を木に『差し入れた』。


「力を込めなくても、この木くらいなら穴を開けることができる。」


 すげえ………


「魔力の垂れ流しでも出来なくはないんだが、すぐに魔力が切れてしまうから、おすすめは出来ないな。」

「ひたすら練習しろと。」

「端的に言えばそうなる。」


 はあ……そういうのあんまり好きじゃないんだよなー…ま、ぼちぼちやりますか。


 その日の午前は結局、何もできずに終わってしまった。


「よし、今日はここまでだ。昼にしようか。」

「つ、つかれたー…」


 さて、家に戻って昼に………ん?


 カサッ


 なんだ?何かが動いた気が………

 冷や汗が何故か止まらない。嫌な予感がする……


「ん?ああ、ここには野生動物が住みついててな、それだと思うぞ。」

「あ、ああ、そうか。」


 そう話を聞いても、冷や汗は止まらなかった。



〜〜〜〜〜〜〜昼〜〜〜〜〜〜〜


「さて、ユウタ。楽しい楽しい戦いの時間だ!」

「ハハハハハ…」


 いつも通りの場所、庭で、いつものように午後は戦闘訓練。ただ、一つだけ違うところがあった。

 それは、俺と相対しているのが幼女リリィでは無く、妙齢の女性メアであるという事だ。


「よし、本気でヤルか。」


 しまった!?声に出してた!?


「お兄ちゃん…私は幼女なんかじゃないよ!」

「「いや、それは無い」」


 メアとの心が一つになった。


「ハッ!」

「お兄ちゃん?後でオシオキネ。」


 ひぃぃ!なんか急に怖くなってる!?


「ジャア、ハジメテ。」

「とりあえずは………ユウタの力を見せてもらおうか!」


 最早悪役じゃないか!?右ストレートか。見えなくはないから避けるか!


「クッ!」

「?」


 オイそこ、どうしてビックリしてるんだ?


「(何故だ?私はとりあえず遊びということで70レベルくらいの力で動いたというのに、それを、見切った、だと?いや、運が良かっただけだ、もう一度……)」


 なにやらメアが何かを呟いたあと、同じ速度で今度は回し蹴りを、ってこれ、リリィの倍の速度はあるじゃねえか!?ヤル気まんまんかよ!?と、とりあえずは避ける!


 ビュッ


 耳元でそんな音が聞こえた。怖い。


「おいメア!?リリィの倍はスピードあるじゃねえか!?試すならもっと下の力で「ユウタ」やれ、ってなんだ?」

「一応言っておく。私は、今までは本気ではなかった。が、どうやら、それじゃあいけないようだ。これからは本気で行くからな。死なないように気をしっかり持てよ!」


 え、本気で?


 そう考えた矢先に、首元に軽い衝撃がきた。あ…


 そして俺はメアに敗北した。



〜メア視点〜


 これでよしと。

 私はユウタの首筋に手刀をいれ、気絶させた。これで勝利。しかし、問題はそこではない。


 何故だ?何故50レベルで70レベルの動きについて来れる?しかも発言からして、きちんと見切っていた……。

………………そうか、そういう事か!


 ただ、コレはユウタにはまだ告げないほうが良いな。慢心を持ってほしくないから…………


 疑問が解決したので、私はユウタを起こすことにした。

 水をかけて。


〜ユウタ視点〜


「ぶわっ!な、なんだ!?ってメア!起こすにしても水かけるはないだろ!?」

「ああ、面白そうだったんでつい…」


 おもしろそうて……


「はあ………これじゃあもう戦えないじゃねえか…」


 服がビチョビチョだ…男の服透けとか、需要ないだろ…


「あ………スマン。」


 気づいてなかったのかよ!?


「いやいいよ、とりあえず、洗濯して干しておくか。」


 そう言って俺は防具と服を着替え始めた。

 リリィはあっちを向いてくれた。が、メアが物凄く見てくる。なんか息遣いも荒い………俺の貞操、心配になって来た。

 そうこうありつつ、着替え終えた俺は疲れたので


「部屋に戻ってる。」


 と、だけ伝えて部屋に戻った。


―スパーク


 パシッ


 聞き覚えのある魔法名と共に、俺は気を失った。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「んん………」


 ここは………どこかの洞窟のようだ。

 いや、洞窟を少し改良したところだな。目の前には扉があるし、椅子に座らされている俺の後ろに柱がある。

 俺はその柱を後ろに抱くようにして、手錠をかけられている感じかな。

 転移するか……

「【転移】」


 …………………


 あれ?転移しない?と、とりあえずこの手錠から手をぬかないと……どうすれば…


 バキィッ。


「…これ、壊れやすいな…。」


 そのとき、扉が開いて、一人の男が入ってきた。何故か覆面をしている。

 とりあえず、手は縛られているフリをする。


「やあ、目覚めたようだね。ユウタ君。いや、ここは『異世界の勇者様』とでも言っておこうかな。ああ、魔法とか、魔力強化とか、そういうのは使えないからね。その手錠が放出された魔力を全て吸ってしまうんでね。」


 勇者を攫おうとしてるって、こいつは魔族か?魔王の命令で自分に危害を加えそうな奴はあらかじめ消しておくつもりか。

 なんかいろいろ言ってくるが、誤解は解かないといけない。

 俺はそいつに話しかけることにした。


「なあ、一ついいか?」

「なんだい?命乞いかい?安心したまえ。目的が達成されるまでは生かしておいてあげるから。」

「いや、それ達成したら死ぬじゃん。じゃなくて、俺、勇者じゃないんだが。」


 そいつの目が点になった。ような気がした。


「いや、嘘はいけないよ。君はちゃんと召喚されてきたじゃないか。」


 なんで知ってるんだ?城にコイツを見た覚えなんて……そもそも覆面してるから誰だかわかんないや。


「いや、召喚されてきたのは事実だけど、勇者の称号がないというか、うーん、どうせ言っても信じないでしょ?」

「ああ、信じられん。」

「まいいや、信じる信じないはあなた次第ってことで、俺は帰るぞ。」


 また、そいつの目が点になった。ような(以下略)


「ハッハッハッ!さっきも言っただろう。その手錠がある限り魔法は使えんのだよ。第一、ここに私がいる状態でどう帰るというのだ。」

「いや、これ、手錠って言えるのか?直ぐ壊れたぞ。あ、修理代は払わないからな。」

「え?そ、その手錠、うちの部下の60レベルの筋力でも壊れなかった……」

「あと、方法か。それは転移だな。」


 そう言った途端、ソイツはガタガタ震えだした。

 

「ま、待て!ここを見たんだ、タダで返すとは思っ「じゃあな。【転移】」あぁぁぁ!?」


 これで家の前まで飛ぶ。


 ビシュン


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


転移

消費魔力:50

自身と、自身に触れている人を任意で転移する。ただし、行ったことのあるところと見える範囲のところにしか行けない。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 そして、その部屋にいるのは、覆面の男だけとなった。


「クソッ。次の計画を立てなければ………!味方に殺される!」


 そう言い、彼はその場で再度計画を立て始めた。



〜同時刻、メア視点〜


「リリィ、夕食ができたとユウタに伝えてくれ。」

「は〜い。」


 彼がこの家にやってきてから、かれこれもう4日ほど経つ。すっかりユウタも馴染んでしまった。彼がいない生活など考えられないな。最も、恋愛とか、そういうのではないが。いや、昨日のは少し魔が差しただけだ。

 そんなことを考えながら、私は三人分の料理を皿にのせ、机に置いた。その時、


「師匠〜!」


 と、リリィが叫びながら駆け寄ってきた。ただならぬ様子だ。ユウタが何か悪戯したのか?彼も年頃の男の子だからな。今夜はきっちりオシオキを…………等と、考えている私の思考は、リリィの言葉と、紙によって吹き飛ばされてしまった。


「お兄ちゃんの部屋に、こんな紙が!」

「ふむ……。っ!?」


 やらかした…彼が異世界人だと知っているのが私達だけだと、なぜ思い込んでいたんだ!

 渡された紙には


『異世界人はこちらで保護させてもらった。』


 とだけ書かれていた。


「…!ユウタ!」

「!?師匠!待ってくだ……」


 気がつくと私は、外への扉に向かって駆け出していた。と、その時。


 ガチャ


「ただいまー」


 この声は…ユウタ!?


「ユウタ!!」


 私はユウタに駆け寄り、彼の肩をつかんだ。


「ユウタ!大丈夫か!怪我とかないか!」

「ああ、お陰様で。」


 ホントにコイツは……


「ユウタ!心配かけさせんな!バカ!」


 そう言うと、ユウタは


「ああ、すまなかった。」


 と、謝ってきた。


「いいか、ユウタは私の家族なんだ。心配させないように努力しろ!」

「あ、ああ」


 そして私がユウタを抱きしめた時、後ろからリリィがやってきた。私は咄嗟に彼を離した。


「あ、お兄ちゃんおかえりー。いやー、師匠があんなに動転するとは思わなかったよ。まあ、お兄ちゃんはいろんな意味で規格外だし、ビックリはしても心配はしなかったけどね!」


 …………何故か、ユウタのことを私より理解しているようで、幼女リリィ相手に、妙な敗北感が残った。


 そこで、ユウタが、なにかの意思を強くした顔で急に話を切り出した。


「俺、決めた。一週間後にこの家を出て、旅に出るわ。」


 その瞬間、私の目の前が真っ暗になった。


 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


名前:ユウタ ジンノ

種族:人間族、異世界人

ステータス


レベル50


体力…470/470

魔力…360/360

筋力…183(+8)

敏捷…190

耐久…194(+3)

器用…165

精神…198

意志…190

幸運…7


装備

アイアンソード絶

革の鎧



スキル

鑑定Lv1

生物の名前及びレベルがわかる。

パーティーメンバーのステータスがわかる。

物の名前と詳細の一部がわかる。

自分の鑑定レベルより高いレベルの隠蔽がかかってるものは読み取れない。


魔法

光魔法Lv1

 ヒール

 ハイヒール

 聖域サンクチュアリー

 フェアリーソング

 フラッシュ

 ホーリーソード

炎魔法Lv2

 フレイムアロー

 フレイムランス

 フレイムウォール

 ファイヤーストーム

水魔法Lv2

 記憶操作

風魔法Lv2

 エアーカッター

 

木魔法Lv1

 ツリーカーニバル

 ドレインシード

雷魔法Lv2

 ライトニング

 サンダーボルト

 トールハンマー

 スパーク

時空魔法Lv4

 転移門

 転移

 アイテムボックス

闇魔法Lv2

 ダークボール

 ダークエクリプス

 ブラックドレイン

 


複合魔術

 風+光:閃光弾

 

 

 

称号

異世界人

武術の心得:武術の経験があるものに送られる。対人型攻撃力の上昇効果が付く。


残金:558540


ギルドランク:D

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る