〜第一章:召喚、そして旅立ち〜
第一話
夢を見ていた。
見たことがないような化け物が目の前にいる。
禍々しい色をして、周りには毒々しい色の瘴気が渦巻いている。
明らかに強そうだ。
そして、対面する俺の隣には見たことの無い、けれど何故か信用できる仲間達、そして何故か陽菜がいる。
化け物が耳をつんざくような咆哮を上げる。
いよいよかと、持っていた剣を構えようとした時……
ドンッ
そんな音と共に全身に強い衝撃が走った。俺の周りには気がつけば誰も居らず、後ろを向くと俺以外の、陽菜を含む味方全員が血だらけになって倒れていた。
どうやら吹き飛ばされたようだ。
皆、辛うじて息はあるが、今にも死にそうだ。
そして、それを見た瞬間、自分の内側から得体の知れない熱いナニカがあがってきて…………
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
──やったぞ!
──成功だ!
俺はそんな喧騒の中で目覚めた。
どうやらここはどこかの大広間のようだ。
俺の周りには大勢の中世のヨーロッパにいるような甲冑の騎士、そして高級そうなドレスを身に着けた美少女がいた。
(もしや……いや、そんなことが起こるはずがない……いやでも……)
と、そんなふうに混乱している俺に、例の美少女が話しかけてきた。その人のセリフには、思わず自分の耳を疑ってしまった。
「ようこそ、ラヴィーヌ国へ。私はこの国の王女、ヴィーゼ=デゼルトでございます。勇者様、お待ちしておりました。国王様からのお話がありますので、こちらに来てくださいませ。」
「え? あ、ああ。」
(ん? てか今コイツ、俺見て勇者って言った!?)
そしてその場から立ち去る王女様。ついてこいと言われたので、俺に残された選択肢は『ついていく』の他にない。
俺は王女様に黙ってついていった。
そこから目的地までの間、見えてくるものは自分の目を疑うようなものばかりだった。
まずは屋内。執事さんにメイドさんは当たり前にいる。しかも、メイドさんは全員可愛いときたもんだ。
次に屋外。窓がたくさんあったので覗いてみたのだが、そこから見える景色は、日本には到底ないような森林地帯。
そして近くにある街の風景は中世ヨーロッパの様だ。
街を守る為なのだろうか。結構高い壁がその街を囲っていた。
(これはもう、確定したかな……)
辺りを再度見回す。そして、俺の中での疑惑が完全に晴れた。
(俺は今、異世界にいるという事が!)
そう自分の中で確信した俺は、年甲斐もなくウキウキしていた。魔法を使い、剣等の武器を使って勇敢に魔王等と戦う自分を想像すると、おもわずにやけてしまう。
なんだかんだ言っても、男の子であった。
(異世界の勇者ってことは、やっぱりチートな能力を持ってんだろうな……それでハーレムとか作っちゃったりして、英雄として崇められたりするのかな……それとも……)
当然そんなことを考えている彼の心の中に、故郷の日本に対する哀愁等は、欠片も感じられなかった………。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そんなことを延々と考えながら歩いていて、気が付いたら俺は王様のいる部屋、つまりは謁見の間に連れてこられていた。
仮にも俺は勇者、時々悪用のためとかあるからな。ならばナメられないように堂々としているか。
「おお、そちが我が国の勇者か!余はラヴィーヌ国王、ライヴェルグ=デゼルトじゃ。」
「俺は優太だ。」
我ながら凄まじい堂々っぷりだと思う。悪い意味で。
そう答えた瞬間、隣にいたハゲオヤジに
「貴様!こちらにおられるのは国王様だぞ!もっと礼儀に気を使わんか!」
と、怒鳴られた。やべ、まずったか?
そう思った時、ライヴェルグ王は、ソイツを手で制し、
「彼は先ほどこの世界に来たばかりじゃ。多少の無礼はしょうがあるまい。」
助かったぁー!
「さて、急にこちらに連れてこられて混乱しておるだろう。余がこれから説明するので、わからなかったら遠慮なく質問するがよい。この国は――……」
長ったらしかったので要約すると、今、この世界は魔王が平和を脅かしていて、魔王に数々の人が挑んでいる。しかし、そもそも人間族は魔法でも身体能力でも劣り、ずっと負けている。それを変える『切り札』として俺、つまり勇者を喚ぶことになった。と、こういう話だった。
うん。実に清々しいほどの自分勝手だ。
「……ん? ちょっと待て、魔法……だって?」
「む? ……おお、そうか、そちは魔法を知らんのか。では魔法についても説明することにしようか。」
やっぱりこの世界には魔法はあったようだ。
おもわず飛び上がって喜んでしまいそうな体をグッと押さえつけ、俺は王様の説明に耳を傾けた。
魔法には火、水、木、風、雷、光、闇、時空の8つの属性があり、時空と空間魔法以外は修練で覚えることができるらしい。
ちなみに時間属性と空間属性は適正不適正があるとのことだった。
「大体は理解した。最後に一つ。…俺は向こうの世界に帰れるのか?」
そう聞いた瞬間、王様の顔は目に見えて曇った。
「そう……か……おれは帰れないんだな…」
と、少し悲しげに呟く。勿論演技である。
それを聞いた王様は慌てて
「う、噂によると、魔王が送還魔法を知っているらしい」
と言った。
これは……嘘だな。
まあ、ちょっと失礼なことしたくらいで勇者が追い出されるわけないし、少し問い詰めてみるかな。
「……どうしてくれるんだ? 向こうには家族とかいるんだぞ? それを無理矢理こっちに連れてきて、これは所謂誘拐にはならないのか?」
「……それについては申し開きはできぬ。しかし、送還魔法を我々が知らぬのも事実じゃ。お詫びとして見合うとは思わぬが、少なくともこちらでの生活は保証しよう。」
よし、これで約束は取り付けたっと。
「国王様! このようなものにそんな約束を取り付けてもよろしいのですか!?」
チッ。ハゲオヤジめ、余計なことを……!
「構わんのだ大臣よ。彼はこの国を救う勇者なのじゃ。そのくらい、この国に比べたら安いもんじゃよ。」
このハゲオヤジ、大臣なのか。大臣にハゲが多いというのは、単なるイメージではなかったんだな。
「ですが……!」
「よいのじゃ。そなたが我が国の為に日々励んでおることは知っておる。ここはわかってくれまいか?」
「……承知しました。」
あ、勇者じゃ無かったら今頃大臣に切り捨てられてるな。
そりゃそうか、国王に見た目一般人が一丁前に要求してんだもんな。
王がこちらに向き直り、こう問いかけてくる。
「そちも、それでよいか?」
「わかった。とりあえずはそんなところでいい。で、俺はこれからどうすればいいんだ?」
「とりあえずは、強くなるためにレベルを上げてもらう。いくら強い勇者とはいっても、レベル1のステータスでは雑魚の魔族一人すら倒せんからな。」
「ステータス?」
「そうじゃ。」
どうやらこの世界にはステータスが存在するらしく、それぞれのステータスの詳細は以下の通りらしい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
体力…どれだけ攻撃に耐えられるか、要するに最大HP
魔力…最大魔力容量、つまり最大MP
筋力…力の強さ、高いほど敵に与える物理系ダメージが上昇する。
他にも重いものを持つときにも関与してくる。
敏捷…素早さ、高いほど移動速度や行動速度が速くなる。(避けることが楽になったりする)
耐久…守りの強さ、高いほどより物理攻撃に対する耐性が高まる。
器用…器用さ、高いほどより多くの武具や道具を扱え性能を引き出しやすくなる。
他にも料理などにも影響する。
精神…精神力、高いほど精神攻撃や魔法攻撃に対する耐性が高まる。
他にも、心が折れてから復活するまでの時間が短くなる…らしい。
意志…意志の強さ、高いほど敵に与える魔法系ダメージが上昇する。
幸運…運の良さ、高いほど様々な局面で有利になることが多くなる。
ちなみにこれは固定らしい。
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「ものは試しじゃ、心の中で『ステータス』と念じてみるがいい」
言われた通りに『ステータス』と念じて
みると、目の前にゲームのようなステータス画面が出てきた。
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名前:ユウタ・ジンノ
種族:人間族、異世界人
レベル:1
ステータス:
体力…120/120
魔力…100/100
筋力…15
敏捷…12
耐久…11
器用…12
精神…9
意志…10
幸運…7
スキル
鑑定Lv1
生物の名前及びレベルがわかる。
パーティーメンバーのステータスがわかる。
物の名前と詳細の一部がわかる。
自分の鑑定レベルより高いレベルの隠蔽がかかってるものは読み取れない。
魔法
光魔法Lv1
称号
異世界人
詳細:異世界から来た人に送られる称号。言語自動翻訳(様々な言語が、認識した時に自動的に翻訳される)限界突破(レベルの上限がなくなる。それに加えて必要経験値ダウン、取得経験値アップがつく)の効果を得る。
注釈:隠蔽可能
武術の心得:武術の経験があるものに送られる。対人型の時のみ、全ステータスが向上する。
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(これは……強いのか弱いのかわからないな…でも、異世界から来た人が弱いってことは無いだろうし…おそらく、レベル1で二桁ってのは異常なんだろう。)
ちなみに、この世界でのステータスの平均はこれである。
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レベル1の平均ステータス:
体力…120
魔力…100
筋力…10
敏捷…9
耐久…10
器用…10
精神…11
意志…10
幸運…5
と、彼のステータスそのものは平々凡々なのだが、彼がそれを知るのはまた後日のことである。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「どうじゃ?確認できたかの?
おおそうじゃ。念のために確認しておこうか。ステータスに称号というものがあるな?そこに勇者という称号が無いか確認してくれたまえ。」
ん? 勇者?? 称号??? 見当たらないぞ?
……とりあえず、ありのままを報告しておくか。
「……無い。」
「なんじゃと?無い……とな??念のためにもう一度確認してくれたまえ。」
「…………やっぱり無い。」
その途端、周りからの視線の温度が下がった気がした。
…………あれ? これヤバくね?
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