一周目エンディング『マイ・フェア・レディ』中編

  「いや、ですから。ここでルート分岐です」

 アイシャは言った。

 割れたカベからさし込む夕日は目が灼けるようで、その中にアイシャが立っている光景は、まるでアニメの最後のほうにでてくる放課後の学校シーンのようだった。

 「この異世界人が言うところの『ルート分岐』の概念ですよ」

 彼女は床に転がっていたシンをひろいあげる。いつのまにか、誰かがここに連れてきたようだ。まだ気絶している。

 「さあクムクムさん。シンさんルートがここにあります」

 アイシャはシンの毛皮をもふもふと撫でる。

 「シンさん、気絶してますし、誰かが連れ出さないとまずいですね」

 「ああ、それで?」

 「クムクムさん、シンさんのこと、ちょっといいかなー、とか言ってましたよね」

 「……まあ、思わんではなかった、かな」

 クムクムは指先をつつき合わせる。

 「クムクムさんがシンさん連れて逃げて、わたしがこの全裸変態を救助するんでも、別にかまわないんですよ?」

 アイシャはそう言っておれを指す。

 全裸なのは事実だが、アイシャに変態と言われたくはない。

 「な、なんの話だ」

 「分かってないふりはいいですよ! チャンスってことですよ。カレを助けて二人きりだったら、ムッツリなクムクムさんでも仲良くなれるじゃないすか!」

 アイシャは気絶したシンを指でつつく。

 「いま、この異世界人いうところルート分岐ってことですよ!」

 「あ……ああ、そういう……」

 「どう考えてもそこの変なのよりシンさんでしょ! 同種族だし! わりと気も合いそうじゃないですか。甲斐性ありそうだし……シンさんルート、オススメっす」



 「そ……そうか……ルート分岐はおれ以外にもあるんだ!」 

 おれは頭をかかえた。

 「あたりまえじゃないですか」

 アイシャは手をぱたぱた振る。

 「なんで自分だけに選択肢があると思ってるんですか? ちょっと異世界から来たからっていい気にならないでください。何様なんですかって感じですよ?」

 アイシャはやけに楽しそうにおれの回りをぴょんぴょんはね回る。

 「さあクムクムさん! こんな変なのやめて、シンさんと仲良くおなりなさい!」

 彼女はシンをぐいぐいとクムクムに押しつける。

 「あ、アイシャおまえ……」

 おれは何か抗議しようとする。

 「いやいや、ぜったいあなたといるよりこっちですって、あなた、この世界で生存する能力ないじゃないっすか!」

 「うっ」

 反論のしようがない。

 「まあまあ、そう言うなよう」

 クムクムがアイシャを止める。

 「まあ……」

 クムクムはシンをじーっと見る。

 「うーん……」

 それからおれをちらっと見る。

 「理屈では……」

 またシンを見る。

 「でも……」

 それからおれを見る。

 クムクムはなにか決心したように、アイシャの肩に手を置く。

 「……シンのことは頼んだぞ」

 「……は?」

 「わたしは、こいつをこの世界に呼びだした責任もあるし、まあその、とにかく面倒は見る。こいつを連れていく」

 クムクムはおれの手をとり、ぐいっと引きよせる。

 「け、結論出た! 悪い方に! そっちルートでいいんですか! なんで?」

 「いい。なぜなら、こっちの方が……」

 クムクムはキリッとした顔で言った。

 「ダメなやつだから」



 「クムクムさん、ダメ男が好きなんですか?」

 アイシャはキリッとした顔で言う。こいつにだけは言われたくない。

 「それ、心の病気ですよ」

 「い、いやいや、いうても、こいつ、そんなにダメじゃないぞ。悪いやつじゃないし。いや、たしかに、第一印象とか最悪だったんだけどな。なんかなぁ……」

 クムクムはモジモジしている。

 「こいつ、ちょっと、わたしがいないと、あかんようになってしまう気がするし」

 「いやいや、それダメなやつですよ!」

 「シンは一人でもなんとかなる奴だろう」

 「だから安心なんじゃないですか」

 「だがこいつは……わたしがおらんとダメだからな」

 「クムクムさぁん、あかんですよそれ……」

 アイシャは顔に手を当てる。

 「なーんで、クムクムさんみたいないい子にかぎって……」

 彼女は顔をおおって、頭脳バトルに負けたみたいなポーズをする。

 「……こんなのと」

 彼女は指の間からおれをじろりと睨む。

 その目には確かな殺気が宿っていた。

 たぶんアイシャなりに、友人としてクムクムのことを心配したのだろう。そして、おれを殺すことを一瞬考えたのだ。そうに違いなかった。こいつならそのぐらいやる。

 「クムクムさん……」

 「なんだ。もう決めたぞ! 言っておくが、こいつに手を出すなよ」

 クムクムはおれをかばうように手を広げる。

 「……手遅れですね」

 アイシャはふっと笑い、殺気が消滅する。

 「なんだその言い方は!」

 「なんというか、ご愁傷様です」

 アイシャは微妙なひきつり笑いをして、シンを抱きかかえた。

 「さあ脱出しましょう!」

 こうしておれは『最後の死亡フラグ』を回避し、破壊されたカベから城を抜け出した。

 おれは走れメロスみたいな状態で駆けだした。靴がないから足が痛い。

 「おまえ、布ぐらい巻いたらどうだ? 恥ずかしいんじゃなかったのか」

 横を走るクムクムが言う。



 もう暗くなりつつあった。破壊された城を背にして、坂道をかけ下りていく。

 人気は少なかった。ダークエルフは何人かいたが、みな壊れた建物を片付けるのにいそがしいようで、幸いなことにこちらには興味がなさそうだ。

 「あれ? なんでオレ、運ばれてんだ?」

 アイシャに抱っこされているシンが目を覚ました。

 「お、気がつきましたか。しばらく運ばれててください」

 「おう、わかった」

 シンは器用にアイシャの肩をよじ登り、おんぶの姿勢に切り替える。スピードが増した。

 「あとで、ちょっとご残念のお知らせがあります」

 「は? なんのことだ?」

 「シンさんももうちょっとダメ男だったらよかったのですが」

 「なんの話だ?」

 アイシャは黙って走り続ける。

 しばらく黙っていたが、やがてシンはなにかに気づく。

 「……あっ、くそ、そういうことか! マジかよ!」

 「そういうことっす。ご愁傷さまです」

 「あーちくしょう! あんな丸耳野郎のどこがいいんだ!」

 「ダメなところが、いいっぽいです」

 「うわー! 聞きたくねえ!」

 「クムクムさんはもう手遅れです。グチならあとで聞きます」

 「……いや、オレはガタガタは言わん! 言わんが」

 アイシャのほうが速いので、距離が離れていく。

 「一回だけ殴らせろ! おまえだおまえ! うおー!」

 「まあまあシンさん! 酒でも飲みましょうや!」

 アイシャがさらに走るスピードを上げる。

 「お前と飲んでも楽しくねえよ! 降ろせ!」

 「あんたたちはあんたたちで楽しくやっててください! 朝までに戻ります!」

 


 城をでて、城下町のようなエリアに降りると、あたりはわりあいにぎやかだった。

 町のところどころで、コボルトたちが楽しそうに酒を飲んで何か食べていたりする。見張りのダークエルフは何かあきらめたようにぼーっと立っている。

 「この様子なら大丈夫だな……」

 クムクムが辺りを見まわして言う。

 「もう落ち着いてるみたいだ、アイシャが馬車を用意してくれてるはずだ。そっちに先に行っていようか」

 クムクムは行きがけの店で、ビン入りの水と焼いた卵が入ったサンドイッチをおれに買ってくれた。水にはレモンのようなものが入っていて、ちょっと甘い。すぐ飲んでしまったので、さらにもう何本か買ってもらった。

 「ずいぶん腹減ってたんだな、ちゃんと食わせてもらってたのか」

 「食ってたよ」

 二個目のサンドイッチを食いながらおれは言った。

 「飲まされた媚薬の副作用かな、異常に腹が減る」

 「媚薬ねえ……」

 クムクムはおれをじーっと見る。

 「ま、まあええわ! 馬車のほうに行くぞ」

 クムクムについていくと、大きな三階建ての宿屋があった。厩舎があり、ほろ付きの馬車が駐められていた。見張りの者と話をしたら、あっさり中に入れてくれた。

 「アイシャが大学の名義で貸りてるようだな」

 おれたちは馬車に乗りこんだ。



 「ここで一晩すごそう」

 クムクムがオイルランプに明かりをつける。

 馬車のほろの中には、大きな木箱がひとつ、それから木綿でできた寝袋が重ねて置かれていた。クムクムがランプを木箱の上に置く。

 「どこかの商人組合の馬車みたいだな……」

 クムクムが独り言のように言う。

 「寝具もきれいだ。寝やすいな……」

 身体にまく毛布のようなものを探したが、あいにくなかった。しかたなく、おれは寝袋の上に体育座りした。クムクムとちょっと目があう、目を逸らす。

 気まずい。

 「やれやれ」

 クムクムがとなりに座ってくる。びくりとする。

 「みんなスケベばっかりだよな。おまえもだけどさ」

 「あ、ああ、うん」

 クムクムはランプの火をじっと見つめていた。

 金色の光に照らされるクムクムの横顔が妙に気になった。

 「おまえ……さっきから鼻息荒くないか」

 「き、気のせいだ」

 「そっそ、そうだな。気のせいだよな」

 「あ、ああ、気のせいだ」

 気のせいではなかった。

 おれは体育座りの脚を自分のほうにぐっとくっつけた。

 なぜかというと、おれのワンダーランドが急にハードボイルドな状態になってきていたからで、いかに恥をかきなれたおれとはいえ、こんなモノを女の子に見られたら世界の終わりという状態だったのだ。

 そう。やつらに盛られた媚薬がいまごろ効いてきたのである。たぶん、適度に効果が和らいできて落ち着いてきたからだろう。

 「べ、べつに気にしなくていいぞ」

 「あうあう」

 「その、わたしはハダカは平気だからな、別に、気にならない。あ、うん。べつに」

 クムクムはランプの明かりでも分かるぐらい耳真っ赤だった。



 気まずい。

 どうしよう。

 とにかく何か会話を。

 「…………クムクムさん」

 おれが口を開くと、クムクムはびくっと身体をこわばらせた。

 「な、何だよ!」

 「……助かった」

 「お、おう」

 「ありがとう」

 「そ、そうだ。感謝しろよ」

 「うん……」

 「まあ、その、なんだ……」

 また会話がとぎれる。

 ふたたび気まずい沈黙。

 こうなったら最終手段である。

 おれは寝たふりをした。

 「…………」

 「あっ寝た!」

 「………………」

 「…………な」

 「………………」

 「何もせんのかあああ!」

 クムクムがキレた。

 「何かしろよ! そういう流れだろこれ!」

 クムクムさんはおれの肩をつかんで、ぐいっと引きたおす。

 「わっ」

 「……あっおまえ、何をするー」

 棒読みで言うクムクムさん。

 「うわー、押したおされたー。そんなつもりはー」

 彼女はおれの手首をガッとつかんで、身体に押し当てる。

 「やめろー、うわー。まあ媚薬のせいならしょうがない」

 「……あの、クムクムさん?」

 「なんだ?」

 「…………ずるくない?」

 「ない」

 ランプを消すクムクムさん。



 「ゆうべはおたのしみでしたねぇ」

 アイシャの声で目が覚めた。もう朝が来ていた。

 「うわー!」

 クムクムも同時に起きたらしい。同時に叫んだ。

 「み、見るな。見てはいかん!」

 身を寄せ合って身体を隠そうとするおれたちをよそに、アイシャはとくに動じる風でもなかった。

 「ああ、こっちでやるんで、ふたりでいちゃいちゃしてていいですよ」

 アイシャは気をきかせる風にそう言って、馬を連れてきて馬車につなぎ、馬具を点検したりしはじめた。

 「いちゃいちゃしろったってなあ……」

 クムクムは外していた布を拾って身体にまく。

 「そういえば、シンは?」

 「会いたいですか?」

 「い、いや、いまはちょっと」

 「二日酔いで宿で寝てます。また会う機会もありましょう。ああ、そうだ」

 アイシャはほろの中に入りこんできて、おれを小突く。

 「いてえ」

 「シンさんの分です。殴っとけって言われました」

 アイシャはにこっと笑う。

 「あ、ああ……」

 「そしてこれは、わたしの分です」

 アイシャの強烈なアッパーカットが、おれのあごを正確にとらえた。



 馬車は動き出す。もうこの土地ともお別れだ。

 「お、おい、大丈夫か」

 クムクムがノックダウンされたおれを介抱する。

 「ま、まあこれで一件落着だな……」

 「だ、だめだ……まだ終わってない」

 「なにがだ?」

 「裏ボスがいる……」

 「なんだよ裏ボスって。おまえの使う変な言葉はわからん」

 「エコー先生が……悪堕ちした……」

 「エコー先生は、ふつうにダークエルフに受け入れられたって聞いたぞ」

 「ち、違うんだ。表向きそうだが……あの人は戦争を起こすつもりだ。ダークエルフに戦争に仕える技術をいろいろ教えて、また戦争をするように仕向けようと」

 「なんだと!」

 「あの人は……けた違いの科学の知識を持ってる。しかも正確だ。ダークエルフに科学を教えて、銃とか作らせるつもりだ。あの人は野心に目覚めてしまった」

 「そんな……でもあの人は誰にも教えないって」

 「気が変わったらしいんだ。おれのせいで」

 「呼んだ?」

 聞きおぼえのある声がした。

 そばにあった木箱がメリメリと開いて、銀髪の美少年が姿を現した。久しぶりに姿を見るエコー先生である。

 「ゆうべはおたのしみだったね」

 木箱をバタンと倒し、テレビから這いだすみたいにずるずるでてくるエコー先生。

 「ゆうべって……わたしらの?」

 「エコー先生、見てたの?」

 「うん。超近くで」

 エコー先生はほがらかな笑顔で言う。

 「馬車に一番のりしたのはぼくだったんだ。いちおう、隠れていたほうが安全だと思って、箱に入ってセーフモードにしていた。そうしたら君たちが来て」

 「で?」

 「……まあ、ジャマするのも悪いんだろう? ああいう状況。だから箱のすき間からずっと見てた。はじめはなかなかうまくいかなかったね。ハラハラしたよ」

 凍りつくおれとクムクム。

 「うまくいってよかったね。よくがんばった。感動した」

 おれたちの肩に手を置くエコー先生。

 凍りつくおれとクムクム。



 「な、なんで馬車に乗ってるんですか? エコー先生」

 「え、帰るからだよ。とりあえず」

 「あの、この世界を滅ぼすのはやめたんですか?」

 「え?」

 「この世界を戦争に巻きこむって……」

 「ああ、別にやめてないよ」

 エコー先生は笑顔で言った。

 「ただ。あんな騒動になったからね。いちど逃げ出して様子を見たほうがいいと思ったんだ。状況によっては、別の軍閥にとりいったほうがいいかもしれないし……予定は変わらない」

 「せ、戦争を起こすのか?」

 クムクムが問う。

 「なんでそんなことを……」

 「ああ、うん。だって、それが一番科学の進歩スピードを加速させるからね」

 「そんなことが許されると思っているのか?」

 「大丈夫だよ。戦争でたくさんの人が死ぬが、そのぶん、農学や医学がすごいスピードで進歩して、人口はむしろ増えて、平均寿命は大きく伸びるはずだ……ぼくたちの世界みたいにね」

 エコー先生はにいっと笑う。

 「そのぐらいしか、楽しいことがないから」

 彼がいわばおれの旅路の、隠れた最後の敵。

 むかしのゲーム用語で言うところのいわゆる裏ボス、エコー先生である。

 「どうしよう。クムクム、どう止める?」

 「さ、最悪、わたしが戦って……しかし勝てるか」

 「だめだよ! クムクム死んじゃうよ!」

 「これもわたしが撒いた種だ……」

 バトル展開っぽい会話をしていたところで、アイシャが言った。

 「まずいっすねえ……追っ手が来てます」



 「あ、あんな事になったのは、謝る! 本当に!」

 追いかけてきたのはルカだった。あとで事情を知ったらしい。

 おれはアイシャに馬車を止めてもらい、彼を迎え入れた。

 「なんて言えばいいか分からないが、すまない」

 「も、もういいですよ」

 「戻ってきてもらえないか」

 「それはイヤです」

 ルカはおれを連れもどしに来たようだ。

 行く行かないの押し問答をしていると、エコー先生が

 「だあれ?」

 エコー先生は、ルカを見たとき、フリーズした。

 フリーズとしか言いようがない。五秒ぐらい止まっていた。

 「……な、名前を訊いても?」

 「ルカ」

 「ルカくん? ……となり、いいかな」

 「あ……うん。もちろん。あ、ぼくはエコーだ」

 エコー先生はおれを押しのけるようにして、ルカのとなりにずいっと座る。

 なんかちょっと、初対面にしては位置が近い。

 めっちゃ近い。

 「せ、積極的だね……」

 ルカも何か様子がおかしくなる。

 「きれいだ……こっちの異世界人と同じ種族とは思えない」



 「どうしてここに?」

 「あ、ああ、そこの異世界人を連れもどそうと思ったんだけど……」

 ルカはおれをちらと見る。

 「そうなんだ。も、持っていっても別にいいんじゃないかな」

 「勝手に決めないでください! いやです!」

 「そう? ど、どうも無理なようだよ、ルカくん……」

 「そう……ルカでいいよ。……彼とはどういう関係なの?」

 「……ただの医者と患者だ。ビジネスだよ」

 「そう、ふーん……」

 「プライベートじゃない。ルカは彼とは?」

 「ああ……まあ同じようなものさ。仕事のようなもの」

 「なるほど、連れもどすの?」

 「あ、あとでいい……と思う」

 ふたりは何か確認し合うようにおれについて話す。空気が読めないおれにはよく分からないが。おれが話題の中心でないことは間違いない。

 「エコーはどうしてこの国に?」

 「……電池の材料を探しに来たんだけど」

 「ふうん?」

 「気が変わって……ちょっと技術供与して、戦争でも起こそうかと」

 「なるほど、悪くないね」

 ルカはくすっと笑う。

 「悪いよ!」

 おれがツッコミを入れると、ルカはちょっと迷惑そうにおれを見た。

 「でもまた気が変わるかも……」

 エコー先生はなんか意味ありげに言って、ルカをじーっと見る。

 「移り気なんだ?」

 「そ、そうじゃないけど。最近いろいろありすぎて……」

 「聞かせてよ。ボクもなんだ」

 二人が、なんか。

 近い。



 「エコー先生どうする? 戦うのか?」

 「……いや、解決したかも」

 おれはつぶやいた。

 エコー先生とルカは、いつのまにか二人ですみっこに移動して、小さな声でたのしそうに話しあっている。

 エコー先生は本当に楽しそうな顔をしていた。

 これまで見たエコー先生の中で、いちばん無邪気で幸せそうだった。おれには見せたことのない顔! 彼はルカしか見てない。

 一方ルカも、完全に彼に心を奪われたようだ。おれに向ける目が急速にどうでもよさそうになった。一目ぼれって信じますか。とりあえず、ダークエルフにはあるようだ。彼はインド映画みたいなスピードで恋に落ちたようだ。

 「裏ボス、封印されたかも」

 「封印」

 「安全になったかも、いまのところ」

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