第三章 喪失の精霊姫《ロスト・クイーン》③


 二人が執務室を出ていくと、グレイワースはふっと微笑んだ。


「しかし、あのお姫様も大胆なことをする」

「――知っておられたのですか、学院長」


 グレイワースの影の中から一人の女性がすっとあらわれた。

 影精霊使い――フレイヤ・グランドル教師だ。


「彼女が編入試験のときに精霊鉱石を使ったことか? 無論、気付いていたよ。もったいないことをする。あの石塊ひとつで二千万ルードはするんじゃないかな」

「では、あえて不正入学を見逃したのですか?」

「フィアナ姫は、十三歳にしてあのルビア・エルステインに次ぐ第二位の精霊姫候補だった。もし彼女がもう一度精霊使いとして目覚めたなら、最高の掘り出し物じゃないか」

「しかし、あんなもの、学院生活を送っていたらすぐにバレるでしょうに」

「それは彼女もわかっているのだろうさ。わかっていてなお、学院の扉を叩いたんだ。目覚めなければそれまでだが、目覚めれば幸運だ。だからあの坊やと組ませた」

「学院長、あなたはいったいなにを――」


 フレイヤが眉をひそめた、そのとき。

 執務室の窓から翼のある目玉が飛びこんできた。

 グレイワースの使役する探査用の精霊だ。


「ふむ、どうやら学院都市に招かれざる客が侵入したらしいな」

「先日の闇精霊ですか?」

「さて、どうだろうな。何が狙いかは知らないが……フレイヤ・グランドル、君は風王騎士団シルフィードに警備を強化するよう命じておけ」

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