世界の報い
「はあ、はあ、はあ……」
息を整える『真の神』。荒ぶっていた感情が光と息が収束すると共に沈静化する。
落ち着いたことにより周囲に気を配れる余裕が生まれる。
「あれ……ここは……そうだ、ついあの技を使ってしまったんだ」
きょろきょろと見回す。
「あいつは消し飛んだようね良かった。でもあの技を使った割には部屋の損傷はあまり無いようね」
新しく造った本や人形、服の一部が消滅してしまったが、それ以外の物は傷がつくことなく部屋の中に有った。
「管理マシーンの防衛システムが作動したようね。でも、新しく造ったものは防衛の対象にならないで消えてしまった……。これも全部あの女のせいね」
最近、興味を持ち創造した世界故に、消失した落胆は大きかった。もっとも恨む対象が消えたこともあり、怒り狂うほどの状態にはならなかった。
「こうなるんだったら、もっと定期的にシステムの設定をするんだった。でも面倒なシステムね。AIのように自分で考えさせて行動させれば……駄目ね。予想外の行動をしたり、意思でも生まれたら面倒ね。管理のために世界百個分くらいの力を費やしているのだから、大変なことになるわ」
机の上にあったノートパソコンを持ってから、ベッドに倒れ込む。そしてノートパソコンを操作する。
「あー疲れたわ。電子書籍やゲームのマウス操作をするのも面倒くさいわね。そうだわ、ドラマCDを聞こくことにしようっと」
再び趣味に没頭した。
○
さて、ここで一つ質問があります。
あなたが昔、読んだ本は今どこにありますか。
幼少時に触れた絵本はどうなりましたか。
あなたが小学校の時に使っていた教科書はどうなりましたか。
親元で今も大事に保管されていますか。誰かのおさがりとしてあげましたか。
あなたの好きだった漫画はどうなりましたか。
今も本棚にありますか。失くしましたか。古本屋に売りましたか。
それとも――捨てましたか。
○
1か月後――『真の神』は相変わらず、趣味を楽しんでいた。
「うーん、最近パソコンの動きが悪くなってきたなー。
物語の中に登場する神よりも上位に位置し、複数の物語という多元世界を支配する、この多元世界における真の神。
「よし、要らなくなったファイルを消そうっと。まず手始めにこの音楽ファイルから……」
カーソルを操作してファイルをクリック。ドラッグをしてゴミ箱の中に入れ、
「え……」
ごみ箱より闇が生まれる。
パソコンにあるごみ箱ではない。部屋の中に有るごみ箱だ。
「な、なにが……」
自分が楽しむだけに物語という世界を作り出し、本を捨てるように、世界を捨ててきた神。
『殺す』
今こそ、その報いを受ける時が来た。
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