宇宙崩壊した恋愛ゲーム
芯鉄那由多
プロローグの前に
その建物の内部は、無数の本棚とそれに収まる本が存在する空間だった。
それもただの本棚ではない。一列だけで千冊もの百科事典が収納できるのに加えて、それが千段もあるという規格外な物だった。
「おや、人が訪れるとは久方ぶりですね。初めまして私はこの図書館の司書である■■と申します」
黒衣(一般的には黒子)のような全身黒装束のそれは言った。
あまりにも司書とはかけ離れた出で立ちではあるが、当人は自覚しているのかしないのか、自分の容姿には言及せずに話を続ける。
「ここにいるということは、やはりあなたは何かの記録を探しに来たということでしょうか。ご安心ください。この図書館はあらゆる次元や時代に存在するあらゆる事実を記録しています。あなたの探すものも必ず見つかることでしょう」
初めて図書館に来訪した人物に案内をする司書のように、静粛な雰囲気を壊さないように淡々と話していたが、喜悦を隠しきれていないのか口調の節々で声を大きくしたり、体が震えていたりしていた。
「え! 乙女ゲーム それも宇宙崩壊する規模の!?」
求められた記録があまりにも予想外だったのか小さな驚き声をあげた。
「そうですか。宇宙の真理すら知ることができる■■■■図書館に訪れたわけがわけがわかりました。確かにここなら、このような本もあります。……ええ、畏まりました。司書の私にお任せください。早速、ご用意しましょう」
指をパチンと鳴らすと一切の予兆なく唐突に、その場に机と椅子が現れる。図書館に収められた英知を用いられたのだろう、名工が嫉妬に狂う出来栄えだった。
「どうでしょうか。あまりの芸術性ゆえに戦争の原因にすらなったこのデスクチェアセットは。これだけではありません。限度こそあれど、かつて存在したものならいくらでも再現できます。あなたがお望みなら1つの世界の財を凝縮して生み出されたシャンデリアや人々の心を思いのままに操ることができる作曲家が作った楽曲集を奏でるレコードなどをいくらでも……要らない? 机と椅子だけで充分? それと本? ああ、そういえばまだ本を出していませんでしたね。この図書館では自分がこのような本を読みたいと深く念じると該当する本が目の前に転移するという仕組みになっております。どうですか、すごいでしょう。」
得意げに笑う仮面の人物。しかし、その嬉しそうな雰囲気に少しの翳りが表れる。
「私はね、忘れ去られることがどうしても許せないのですよ。過去の存在が連綿と紡いできたからこそ今があるのに、それが無かったかのように忘れ去られているのです。ですから、この図書館を造ったのです。かつて懸命に生きた命たちの輝きを誰かに知ってもらうために。 ……話が長くなってしまいましたね、それではどうぞお読みになってください」
そして、机の上に本棚から1冊の本がゆっくりと飛んできた。
○
「将軍閣下! 表示指数が危険水域を500%突破! どうしたら!」
「もはやこれまでか……我々は……この世界は滅ぶしかないのか!」
「結局、予言を覆すことができなかった。これが定めなのか……」
「許さない! 絶対に許さない! この肉体が滅びても恨みは消えぬぞ!」
「いやだ、死にたくない! 神様!」
「助けてよ誰か!」
こうして世界は滅びた。
○
「あ、すみません間違えました。あまりにも久々なのでちょっと近くの本を選んでしまいました。今度は間違えません。それと、この作品のプロローグはあまりにも冗長なのでで読まない方がいいかと。第一話で、プロローグの要約があるので、それで十分かと。では、どうぞ」
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