契約の天使

銀町要

第1話こうして俺は底辺に

俺の名前は初川壱夫はつかわいちお

高校二年、青春真っ只中。クラスの皆や部活の仲間達と楽しくやっていた。

そう、あの日までは…


◇◆◇◆◇


ん?なんだこれ……

ッッ!胸につけるシリコンパッドじゃねえか…

こんなモン誰かに見つかったらそいつ社会的に死ぬな。俺が隠密に届けてやらねえと…

流石に名前とかは書いてないよな…ん?

『ひめみやさくらこ』

ッッ!書いてた…

しかも姫宮桜子ひめみやさくらこってあの姫宮桜子かよ。みんなが憧れるお姉さまじゃねえか…

これは核爆弾級に危険な物を拾ってしまった…見つかったら俺まで死んじまう!

「初川先輩!」

俺は全身がびくっと震える。

そして、後ろを振り返ると、そこには俺が1番気に入っている後輩、水野愛莉みずのあいりがいた。

普段なら上機嫌で返事をする所だが、今は違う。

「どうした水野?」

俺の心臓は、パッドが見つかるかもしれないという恐怖心でドクドク鳴っている。

「もう!愛莉って呼んでっていつも言ってるじゃないですか!」

可愛いけど今はやめてくれ…なんてったって、俺は今水爆級の危険物を握り締めているのだから。

「で、なんだ?愛莉?」

「特に理由はありません。呼んでみただけです!」

おうおう…女の子が言うあざといけど可愛いセリフランキング第4位のセリフ来たよ…

超可愛いけど今は勘弁。

「そうか…なら俺は大事な用があるからもう行くわ…」

そう言ってふり返ろうとした時、左手に握り締めていたシリコンパッドが緊張の汗で滑り落ちる。

地面に落ちたシリコンパッドは、2度小さくバウンドすると、動きを止めた。

「先輩…そういう趣味だったんですか…でも泥棒は止めてくださいね。どうしても欲しい時は私の下着でも貸してあげるので」

愛莉は身長に釣り合わない大きな胸を強調するように、上目遣いで言ってくる。それにしても…

愛莉の下着を貸してくれるってまじか!…いやいやそうじゃない…まずい、これはまず過ぎる。

「愛莉、これは違うんだ。たまたまそこで拾ったから持ち主に届けてあげようとしてただけで…」

それを聞いた 愛莉は顔がカァと紅潮する。

「そ、そうなんだ…へえー…で、これ誰のか分かってるんですか?」

愛莉はシリコンパッドを掴んでまじまじと観察する。

やばい…これは駄目なやつだ…

「愛莉!やめ…」

止めようとしたものの、時すでに遅く、愛莉はシリコンパッドを掴んだまま硬直していた。

それだけ姫宮桜子は怖いのだ。単体ならまだしも姫宮親衛隊というサークルがバックに付いている為、男子からも中々恐れられている。

姫宮親衛隊は色々とやばいし何より面倒くさい。

そう考えていた時、周囲の様子に気が付いた。

「なにあれ…」

「シリコンパッド?」

「誰のだよ」

まずい。この状況は非常にまずい。

そして、この状況に便乗するかのように、異様なオーラを放つ姫宮桜子が群衆を掻き分けて歩いてきた。

「二人共、何をやっているのかしら?」

姫宮は胸を隠すようにしながら聞いてくる。

そりゃ気になるだろうさ。男女が一個ずつシリコンパッドを握り締めて、硬直しているのだから。

「…そこにシリコンパ…そこにシリコンの塊が落ちていたから何かなと…」

群衆たちは姫宮の様子とこの状況から事態を察したのか、こそこそと遠のいて行く。

くそ…薄情者め…

姫宮は去って行く人達を横目にプルプルと震えている。

「ッーー!」

まずい…別に俺が悪い訳じゃないんだけどこのままではまずい…

とりあえず今はそっとしてやるのが1番か。

「姫宮…とりあえずこれ返すな…」

そう言って、シリコンパッドを返した俺は愛莉と一緒にそそくさとその場を離れた。


◇◆◇◆◇


そう。これが俺の楽しいスクールライフをぶち壊した1日だ。

この1日だけ見れば可愛い後輩が出てきて平和的に見えるかも知れない。

しかし、この次の日から俺の周りが徐々に変わっていく。

姫宮が、俺に下着を盗まれたと虚言を吐いたのだ。

まず、愛莉以外の女子生徒からは完全にシカトされるようになった。

そして、姫宮親衛隊を中心にパシリとされ、ひどい時には暴力を振るわれる事もある。

まだ、姫宮に興味が無い男子とは普通に接しているし、それほど辛い事では無いと思うかもしれない。

それでも、やりたい盛りの男子高校生からとれば、女子からシカトされるという事は何よりも辛い事なのである。

そして、その女子達の前でパシリにされ、暴力を振るわれるという事は、肉体的ではなく精神的ダメージがとても大きい。

ほら、そんな回想をしていると、また姫宮親衛隊がやってきたよ…

「おい壱夫、俺の為にホットのコーヒー買って来てくれよ」

「「「俺も俺も!」」」

おいおい…今は真夏だぞ…

「お前ら今の季節分かってんのかよ」

「なんだ?壱夫?」

ッッ…

姫宮親衛隊のメンバーが俺のみぞおちへストレートを打ち込む。

痛い。俺が低スペなのもあるだろうが、姫宮親衛隊の暴力は基本レベルが高い。

俺が悶え苦しんでいると、リーダー格は嬉々としてこう言う。

「チッ…使えねえな。変態が」

こいつらは俺を教室で晒し者にするのが目的のようで、気がすむと帰ってくれる。

それでも俺のプライドはズタズタだ…

くそ…こんな奴ら姫宮のバックをやってなきゃ俺より下だろうに。

これも全て姫宮のせいだ…

よく考えて見ればあのシリコンパッドだって姫宮が落とした物だ。

そして、姫宮は結局シリコンパッドを見た者を全員口封じをした。

そのくせ俺に下着盗まれたとかほざきやがった。

…考えれれば考えるほどイラついてくるな…

何か姫宮に復讐してやりてえ…

俺の青春をぶち壊したあの姫宮に!

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