異世界魔法と現代地球

もなお

第1話  

 初めて彼女と出会った時のことを僕は鮮明に覚えている


 雨が強い日、公園の中でひざから血を出して泣いている子がいた。

 ひざから流れる血は結構な量だった。

 僕は治癒魔法をかけてあげた。


「もう血は止まったから大丈夫だよ。魔法の練習でもしてたの?」

「えっ?」

「一人でやるのは危ないから大人に見てもらうといいよ。それじゃあね」


 次の日その子はまた公園にいた。

 その子は僕のことを見てぼーっとしていた。


「また魔法の練習でもしてたの?一人だと危ないよ」


 彼女は違うと言った。何やらもじもじしている。


「あ……あの……私と友達になって…」

「うんいいよ。僕の名前は上坂悠里かみさとゆうりだよ。」

「あっ……!私は和泉澪いずみみお!」



 ---



 それからは毎日のように公園で待ち合わせをして一緒に遊んだ。

 最初におとなしい印象を受けていた彼女は思っていたよりも活発な女の子だった。

 黒髪ショートヘアがよく似合う彼女はスカートよりも短パンを好んだ。

 僕たちはすぐに仲良くなり、いつも一緒に泥んこになりながら遊んでいた。


「悪い、まった?」

「悠里遅いぞ!」


 澪はいつも僕より先に公園で待っていたくれてた。


「澪よ、見てくれ。これが絶対割れないシャボン玉だ」

「えっ? すごい! どうなってるんだこれ?」


 僕は魔法を使ってシャボン玉にかけてみた。


「シャボン玉の周りを固めてるんだよ」

「悠里って魔法がいっぱい使えていいなあ。私も頑張ってるんだけど全然使えないや」


 澪は悔しいのかシャボン玉をガンガン叩き始めたが、シャボン玉が割れる気配はなかった。


「前に私の怪我を直してくれたのも魔法なのか?」

「そうだぞ。俺の親父がいろいろ魔法を教えてくれるんだ」

「いいなあ……私のパパは忙しくて全然遊んでくれないんだ」


 澪は少し俯いて元気がなくなった。


「澪も魔法を覚えたいのか?」

「うん……今度行く学校は魔法が使えないとダメなところなんだって。だから魔法の勉強しなさいって言われてる」

「そうかあ……」


 澪の元気がどんどんなくなっていく。


「そこの学校は遠いから悠里とも遊べなくなっちゃうんだ……」


 今にも泣きそうで目じりに涙を浮かべている。


「あ、えっと……」


 僕は戸惑う。

 6歳の僕には泣きそうな女の子に対して何を言っていいのかわからなかった。


「げ、元気出せよ。遠くてもたまに遊びにいくからさ」


 突然、澪は顔を上げた。


「そうだ! 悠里も一緒に同じ学校に行こうよ。そうしたら毎日一緒に遊べるよ!」

「えっ?」


 我、天啓を得たりといったような感じだ。


「うーん。テストがあるんだろう?……合格できるかなあ」

「魔法が使えれば簡単に合格できるってパパがいってたから、悠里なら絶対合格間違いなしだよ!」


 みるみる元気を取り戻していく。

 澪はもうこれしかないという顔をして興奮していた。

 確かに魔法なら簡単に使えるので合格できるだろう。


「わかったよ、一緒に同じ学校に行こうぜ」


 澪は嬉しそうに飛び跳ねて笑っていた。

 僕もその顔をみていたら思わず一緒に笑ってしまた。


 ---


 次の日のことだ。

 僕は昨日から疑問に思っていた事を澪に尋ねた。


「昨日さ、同じ学校にいこうって言ったけど、魔法が使えないとテストに合格できなくて入れないんだよな?」

「そうだぞ?」

「……あのさ、澪って魔法使えるの?」


 澪はショックを受けて固まった。


「だ、大丈夫。魔法が使えなくてもお金をいっぱい払えば学校には入れるから、心配しなくていいってママがいってたから大丈夫だ!」

「えー、それはなんかカッコ悪い気がするけど」

「魔法なんて学校行ってから勉強すればいいんだ!」

「うーん……じゃあさ、僕が魔法の使い方を教えてあげようか?」

「え、本当か!」

「友達だろ?それくらい当たり前だよ」


 澪は嬉しそうだった。


「でも、人前で魔法はあんまり使うなって親父に言われてるんだよね。だからさ、人のいない秘密基地に行かない?」

「秘密基地?」

「そこだと魔法覚えるのが早くなるよ」

「面白そう!どこにあるんだその秘密基地は!?」


 澪は目を輝かせていた。


「よーし、じゃあ今から行こう。秘密基地だから誰にも言っちゃダメだぞ」

「わかった。絶対誰にも言わない」


 僕はわざとらしく一つ咳ばらいをした。


「通るときちょっと危ないから手を繋ぐぞ」


 僕は澪と手を繋ぐ。

 なんだかちょっと恥ずかしい。

 澪も心なしか顔が赤い気がする。


「あー、えっと……じゃあ行くよ」

「行くってどこに?」


 恥ずかしさを誤魔化すように僕は魔法を発動した。

 すると、目の前の空間に小さな穴が開いた。


「……えっ?」


 澪は驚いている。

 

「ん~、こんなもんかな?」


 僕は穴を人が通れるくらいまで広げた。


「ちょ、ちょっと待って! なんかバチバチ言ってるんだけど!ここ通るの!?」

「大丈夫だよ、一緒に入れば問題ない」

「え、えーーーーー」


 僕は困惑している澪の手を引っ張り、その穴に飛び込むのだった。

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