第43話 三十九杯目✿みんなの笑顔 第四章バチカン強襲
〜ハルの視点〜
俺とマナ、伯爵の3人は日本から飛行機でイタリアに飛んだ。
フライト時間は、地元からの移動を合わせると、約14時間ほどだった。
飛行機に乗るとき、困ったのは二つ。
もちろんクロスケと伯爵だ。
クロスケは、まさかの犬じゃなかった。
「ハウンド!戻れ」
「クゥ〜ン」
と寂しそうに、伯爵の影の中に消えていった。
そうか!
使い魔だ!そうに違いない!
「まさか!使い」
「マナ、犬は向こうで、また出してやるから心配するな」
犬って言いやがった!
絶対違う!断じて犬ではない!
「伯爵パスポートはあるんですか?
ないと飛行機には乗れませんよ?
最悪荷物にまぎれるか、あとは機体にくっつくしかありません」
だよなあ。
こんな時は金城のおっさんだ。
1日で作れるはず!聞いてみるか。
「俺にまかせ」
「問題ない。
私はゆったりと移動を楽しむ。
気にするな」
俺のこと見えてないのかな?
まさか、飛行機を奪うのか!?
やばいよやばいよ〜。
俺の心配を他所に、空港までついた伯爵は荷物検査や窓口を普通にパスしていた。
ただ伯爵が係員の目を見て、「……通せ」
それだけで普通に通って行った。
係員は少しの間、惚けた顔でよだれを垂らしていたからきっと催眠術だ。
吸血鬼は音波などで催眠術を使うことができると聞いたことがあったからな!
やっベー本物だよ!とテンションが少しだけ上がったのだが、ここから、伯爵に振り回されることとなる。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
長いフライトを終えて、イタリアについた。
ここはローマの近くの空港。
俺はがんちゃんにはメールを送っておいたので、連絡がくるまで、しんちゃん捜索はそっちに任せて、俺たちは黒い玉を追うことになっていた。
しかしだ。
こういう時は、いつもがんちゃんか角田に頼りきりだった俺は、何をしていいかわからなかったのだ。
それに、飛行機で半日かかっての長旅で、正直なところ疲れていた。
「とりあえず宿にいこう。
伯爵、玉を作ってた奴らの場所とかってわかんないですよね?」
「ローマだ。
奴らは、バチカンと喧嘩しようとしている。
下っ端が知っていることなど大した情報はないがな。
奴らから動くのを待てばいい」
だよな〜
さすがにわかんないよな!
ってわかるんかい!!
「私も久々なので、どうだ?
ここには、美しい教会などもたくさんある。
観光でもしながら宿に向かおうではないか」
観光じゃねえよ。
ローマの休日するつもりだよ!
マナさんのバイクに乗せてもらって暴走しちゃうぜ!!ヒャッホー!
ていうか吸血鬼なんだよね?
教会とか普通ダメなんですけど?
ニンニクもそうだよね?
機内でペペロンチーノ普通に食べてたよね?
なんなの!?
昼間にトラクター乗ってたしさ!
あんたら夜型だよね?
日光とか浴びるとギャアアア!とか言って溶けちゃうんじゃないの?
お願いだから溶けちゃえよ!
少しでいいから吸血鬼っぽいとこ見せてよ!
「あのー。教会とか入れるんですか?」
ナイス疑問マナさん!
そうだよね!!さすがに教会はむりだよね!?
「ふふ、もちろん入れるさ。
下級の吸血鬼は無理だろうが、私には意味のない、ただの建物だ」
ふふ、じゃあねえよ!
なんで!?
なんであんたはオッケーなの?
やっぱりダメな吸血鬼じゃん!
もういいよ。
もう普通に怖いだけの人ってカテゴリーに入れるよ?
いちいち気にしてたら疲れちゃったよ。
「そうですか。
とりあえず移動して、行きたいとこあったら行きましょうか」
俺はとぼとぼと歩き始めた。
案の定、普通に教会とか入ってくし、本当に観光してるだけだった。
ホテルについて早々、がんちゃんからメールがあった。
「しんちゃんを見つけた。
無事に保護したが、まだ日本には帰れない。
詳しいことはバチカンで合流してから話す。
明日には着く」と
よかった。
しんちゃんが無事でいてくれて本当によかった。
明日には会える。
「マナ、しんちゃんが見つかったよ。
明日にはがんちゃん達とくる」
「そうですか。
……よかったです。
本当によかった」
思い詰めたような顔でつぶやいた。
マナも心配していたに違いない。
小さい頃からの仲だからな。
俺はマナの頭を優しくなでた。
「どうした?
いい知らせじゃないか。
今日の所は喜ぼうぜ!」
「私の……せいなんです。
しんちゃんの気持ちに応えられなかった。
あんなに優しい人を傷つけてしまったのです。
だから、こんなことに巻き込まれたのは私のせいです!」
泣きそうな顔でマナはまるで懺悔でもするように話す。
「誰のせいでもないさ。
みんな自分で選んで生きてんだ。
しんちゃんだって、いきたくなきゃ行かなかったさ。
自分で選んだんだ。
起こった事を、誰かのせいにするほど子供じゃないよ。
だからな。
マナが悲しい顔してたら、今度はしんちゃんが自分を責めちまう
みんな無事ならそれでいいじゃねえか」
「兄様……うう」
マナは安心したように俺の胸で泣き始めた。
しんちゃん無事でよかったけどさ。
あんのやろう、俺の妹に手え出してたとはなあ。
あいつ穴掘るの好きだしたまに掘られるのもいいかもな。
そうだ!角田にしんちゃん掘ってもらって!
その間に俺が墓ほってやろう!
そしてがんちゃんにはコールを頼もう!
ハイ!ほって!ほってほて!ほって!ほってほて!ほって!ほってほて!ほって!!
へっへっへっへ!!たのしみだぜええ!!!
「……兄様?」
「楽しみだなあ、早くみんなにあいたいよお」ゲス顔
「え、ええ」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
こうして次の日を迎えた。
がんちゃん達は、なぜかバチカンにいるらしく、そこまで来てほしいとのことだった。
バチカンっていうのは、イタリアであって、イタリアではない場所だ。
【バチカン市国】
面積は世界最小だ。
人口も千人いないくらいな小さな国。
ここは言うなればカトリック教会の総本山。
ローマ教皇が治めている変わった国だ。
バチカンの近くには歴史的な教会や城も残っている。
ローマを流れるテヴェル川の近くには、サンタンジェロ城があり、その前の大通りをまっすぐ進んだ。
通りにはカフェやレストランなんかも並び活気がある。
東京とは違う雰囲気を肌で感じる。
それにしてもさすがイタリア。
ファッションにこだわりを感じる。
ジーンズとか普通くしゃくしゃじゃん?
こっちの伊達男はジーンズもシャツもアイロンかけてピシッとしてる。
「ウホっ!!たまらんですな!」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「角田、俺の後ろで鼻息荒くすんな」
ひょいっとでてきたのはやはりこいつだ。
情報屋の角田「風森殿!!
いやーまたあえて拙者感激でございます。
それにしてもいい男が多いですなあ!
まさに絶好のボーイ!ウホッチィング日和!」
ウホ!っていわなきゃだめなの!?
同族の挨拶なの!?
「幸せそうで何よりだ。
角田、妹のマナと、大叔父さんの伯爵だ。
角田は俺の友達だ。
新宿で情報屋をやっている」
「はじめまして、兄がいつもお世話になっております」
「これはこれは風森家のみなさま。
拙者は角田ともうします。
なにか調べものがあるときや、いい男の情報はまかせてくだされ」
一応入国審査などあるかと思ったが、すんなり入れた。
俺達は角田の案内で大広場に着いた。
そこは沢山の柱に囲まれた劇場のような広場。
石柱には聖人達の彫刻、皆がこちらをみて歓迎しているかのような神聖な空気だった。
広場の真ん中には記念碑があり、観光客が群がっていた。
ああ。
ヴェルディの凱旋行進曲が
俺の胸の中で響いている
まさにイタリア!
せっかくバチカンに浸っていたところに
「おーい!ハルちゃあん!」
キラキラと走ってきたのはしんちゃんだった。
「しんちゃん!
しんちゃあん!」
俺は走った。
まるで、愛する人が戦場から帰ってきたかのように。
駆け抜けた。
あと少しで、しんちゃんと熱い抱擁をする!
わけがあああない!!!
俺はコンマ二秒でズボンを下ろし!
淫らに揺れる割れ目を顔に叩きつける!
【風森流秘技ケツ毛アタック】!!
「ハブほお!!」
「心配をしたよしんちゃん。
うんうん。
元気そうでよかったなー」
涙目で倒れるしんちゃんをマナが笑顔で起こした。
「しんちゃん!よかったあ」
照れくさそうにしやがってこのロリコンが!
「ハルちゃん、マナ。
ごめんよお!ごめんよおお」
「いい大人が泣くんじゃねえよ。
まったく心配かけやがって、みんなで来ちまったじゃねえか。
このクズがあ!ぺっ」
「兄様!ひどいです!しんちゃん大丈夫?」
「ハルちゃん。
君は本当に優しいねえ。
見ていて僕まで恥ずかしいじゃないか」
いつのまにかがんちゃんも来ていた。
「うるせえよ。
がんちゃんもありがとうな。
俺の方は逃しちまった」
「それなんだがね、実はこっちも逃しちゃったんだ。
まあ詳しいことはあっちで話そう」
広場から少し離れた建物に俺達は移動した。
まるで執務室のような場所に案内された。
中に入ると、若いシスターと間抜け面のにーちゃん。
顔つきの怖いおっさん2人、一人は眼帯をしている。
きっと歴戦の中二病患者だろう。
「はじめまして、て!?
お!お前は!!まさか!いやそんな!?ままさかな、ふふ、うん。
はじめまして、私はガイウスというものだ。
ここにいるのはアラン神父とシスターエリカだ。
ようこそバチカンへ。
日本の方々」
なんだよ!!
納得したけどきになるよ!!
うわあああ気持ちわりー!
つうか日本語うめえな。
「はじめまして」
俺達はそれぞれ挨拶をした。
伯爵以外は。
「そちらの方は?」
伯爵は一人だけ勝手にソファーでくつろいでいた。
「私は気にするな。
ただの保護者だ」
「すみません。
私と兄の大叔父様です。
気難しい人なのでご勘弁を」
「はあ、そういうことでしたら」
ふう、よかった。
よく考えたら天敵だよねー。
ばれたらまずいよね。
それから俺達は、今までの経緯を聞いた。
シスターの夢だとか、地獄だとか、俺は話半分だったが、
「〜というわけだから、君達は我々の保護下にいてもらう。
連中の狙いや数もわからないことだらけだ。
いったい何を考えているかもわからない」
「クックック……アッハッハッハッハハハハ!わからないだと!?
貴様らバチカンがわからないというのか?
悪魔がやることなんて一つだ!
試練!誘惑!闘争!戦争!
人間の魂を集めて楽しい事をするのさ!
幾百幾千の時も!人間を試しているのだ!
光は闇に!闇は光に!
……しかしだ。
今回は違うんのだよ。
暁の明星や神でもない。
寂しがりやな地獄の王の一人が、
自分でパーティーを開くんだ。
プレゼントをたくさん用意して、みんなで踊りたいのさ!
待てばいいのだよ。
今から連中に先手など打てはしない。
奴らが何十年前から準備していると?
わざわざ大それた占いや予言を使って、ここまで舞台を整えてくれたんだ。
楽しみに招待状を待とうではないか?
天罰の代行者。
エクソシスト君達?」
ガタ!!
「貴様あ!何者だ!何を知っている!!」
アランは十字架を構え、デュリオはいつでも銃を取り出せる構えをとる。
「はあい!
そこまでにしてくださいね。
伯爵も顔が怖いですよ?
亡くなられた奥様が見たらなんというか。
すみませんこの人病気で、中二病っていうんですけど〜。
かなり激しい妄想があってね?
私たちは客人ですので、黙ってお客様してればいいんです。
ねえ!エリカさん?」
マナの汗が止まらない。
「え……ええ」
エリカの汗も止まらない。
「妻か、ふん!つまらんな」
え?妻だけに?
つまらんの?
まじで!?ここでブッコムの?
「ぷ!ぶはははは!!いやあ最高のダジャレですねぇ!」
一人だけうけてんよ!
詐欺師の癖に笑いの沸点低いなー。
でもまあなんとかこの場もおさまったし。
「はいはーい!
聞きたいんですけど?
そのクリスタルボールっていくつか集めると龍が出てきてパンティーとかくれるんですか?」
「兄様!またはしたない事を!不謹慎です!」
「ん!?そういえば、クリスタルスカルは今回赤かったのだな?」
「ええ。
なので、もう一つの青のクリスタルスカルはまだ見つかっていません」
「青の?
ちょっと待ってください。
バチカンで持っていたのは黒いものだと聞きましたが?」
「我々が持っていたのはだ!
前に話しだろう?
世界中でいくつか見つかった中に本物があったと、我々が持っていたのは黒。
そして青を持っていたのが、ドイツだ」
それはドイツだ?ってか?
「それは、どいつだ?
ぶはははは!!」
やべーよつぼっちゃてるよ。
「以前話した通り、第二次大戦の時、ドイツ、イタリア、日本の三国は連合を組んだ」
「あんたらが使えなかった時の戦争ですな?」
ああイタリア軍は理解できないほど使えなかった戦争だ。
ヘタレ度を世界に示した。
「うるさい!パスタの何処がいけない!それに我々は10人ほどのチームなら無敵だ!」
それも理解できない。
「とにかく、我々バチカンが嫌いなものは神に仇なす異教徒、悪魔、そして共産主義だ。
あの時代カトリックと共産主義の戦いでもあったのだ。
ドイツがヨーロッパで暴れまわった時、青いクリスタルスカルが見つかった。
ドイツ敗戦後イギリスに渡り、ある財団が保管していたが、最近になってこれは現代に作られた偽物だと判明した、という発表があったのだ。
我々は疑ったのだよ。
何せ本物だと確認したのは我々バチカンだからだ。
黒いクリスタルスカルは約100年前に見つけ保管していた。
それと照合して本物だと判明したのだ。
エクソシストの中でも諜報活動のプロ達がいる。
その昔アサシンと呼ばれた暗殺者達の末裔だ。
その彼らの掴んだ情報は、クリスタルスカルの複製が世界中に出回っていたということ。
その複製品を作っていたのが、資本主義、銀行を牛耳っている財団だ。
傘下の会社も山ほどある。
世界のカトリックをまとめるのが我らなら、彼らは資本主義そのもの、共産主義国家への援助までしている一つの金でできた怪物だ。
奴らは古くから悪魔信仰、科学者達を集めて、世界の裏で暗躍してきたのだ」
「ということは、すでに連中は一つ持っている可能性があるのですね」
「そうだ。
最悪奴らはアルファを一人蘇らせているのかもしれない」
「ではなぜ連中はしんちゃんを襲ったのでしょう?最低でも二つで何かを企んでいるのでは?
もしかすれば連中は持っていないかもしれない。
結局、僕たちができるのは、赤いクリスタルスカルを守るということだけのようですね」
「そうだ。
そして君達はロード級と思われる強力な敵を撃退したという。
今は敵の情報がなさすぎる。
少しでも人ではほしいところだ」
「みんなはもう決めてるんだろ?
ただな、終わったらちゃんと安全に送ってくれよな。
マナは帰れ。
聞いた話だと危険すぎる」
「ダメだ。
私は楽しみにしてきたのだ。
帰るわけにはいかない。
それにどうも引っかかることがおおいのでな。
もしもの時は私がなんとかするので安心したまえ」
伯爵は楽しそうに笑う。
「必ず約束は守ってくださいね。
マナになんかあったら許しません」
とは言いつつも、俺は幽霊や悪霊の厄介ごとは散々見てきたが、この人に比べたら怖いものではない。
そんなことからか、きっとマナを守ってくれるだろうと安心できた。
「ではみなさん。
ついてきてください」
俺達はガイウスのおっさんについていくと、エレベーターに乗った。
こんな古い街に最先端のセキュリティ〜システムがあるなんて信じがたい光景だった。
扉が開くとそこは広い場所。
まるで一つの小さな市場だ。
壁にはこれでもかと本や刃物、銃器などがあったのだ。
そして軍人のようなものから神父やシスターがたくさんいた。
「ようこそバチカンへ。
そして、エクソシストの総本部へ」
ガイウス大司教は不適に笑うのだ。
俺達は上の階の部屋を借りた。
まるで戦争の準備だ。
俺は覚悟が足りてなかった。
俺達を殺すために、連中がいつかくる。
生き残れるのか?
恐怖が体に伝わっていた。
手がふるえ俺は部屋を出て、がんちゃんの部屋へいった。
目の前には楽しそうにくつろぐ仲間達の姿。
そうか、みんなとっくに覚悟ができてるんだな。
「いやあ面白いものがたくさんあったよ?
いろいろ試さなきゃね!」
「ここは楽園!
ガチムチ天国に最も近い場所でござる!」
「俺はとにかくいいヘルメット探さなきゃ!」
さっきまで恐怖していた事がバカらしくなった。
そうだ、俺達は何度も危ない目にあってきたが、その度におもった。
なんとかなる。
なんとかならなくてもこいつらと一緒に行くのも悪くない。
そうだ、いつも通り行こう。
久々に
みんなの笑顔に
会えた気がした。
どうせ死ぬにしても、
楽しく行こうぜ!!
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