マジック・アブソープション

じゃがいもNEX

第1章  きっとそれは始まりで

第0話 とある傍観者の一人語り、あるいはプロローグ

魔法まほうとはなんだと思う?」


 床から天井まで本で埋まった部屋で一人の女性が問いかける。

その問いに答えるものは無く、それでも女性は悠々と話を続ける。


「私は魔法を奇跡だと考えている」


 そう言って女性は指先から一つの小さな炎を生み出す。

 炎は女性の周りをくるくると飛び、最後には手のひらの上に戻り、消失する。


「魔法がどうやって生まれたのか、もしくは誰かが生み出したのか……残念なことにそれは誰も知らない。

 なぜなら知覚した時には既に存在していたからだ」


 女性が近くにあった椅子に座り、右手を上げる。すると部屋の中にある一冊の本が浮き、上げた右手に収まった。

 そしてその本を開き、ページをめくる。


「魔法の起源に関しては色々ある。神々が人々に与えた祝福だとかそんなくだらない話がほとんどだけどね」


 少し不満そうに言いながら本を閉じて投げる。すると、本はまるで意思がある様に、重力に従わずに元にあった場所へと戻った。


「さて、話を戻そう。なぜ私が魔法を奇跡だと思うのか……? 

 それは世界がそう決めているからだ」


 ニヤリと笑いながら立ち上がる。


「魔法というペンで世界と言う紙に新しいモノを描き加えている。つまり、それまで無かったものを生み出しているわけだ。それを奇跡と言わずしてなんと言おうか?」


 女性はどこか楽しそうに、嬉しそうに声を高ぶらせていた。誰に話しかけるわけでもなく、録音して記録するわけでもなく、ただただ一人で語っている。

 それに意味などあるのだろうか?いや、それに意味などはない。それは女性本人が一番自覚していた。

 自己満足。

 今の女性にぴったりの言葉だろう。むしろそれ以外の言葉が見つからない。


「そう、自己満足だ」


 女性はなにか思い付いた、というより思い出したといった感じで両手を合わせる。

「人間なんて自己欲求の塊だ。魔法だってそのために使う。魔法は個人で扱える奇跡だからね。大いに結構、それが普通だ当たり前だ」

 女性は踊り出す。何かに歓喜する様にクルクルと、クルクルと。


「時に魔法は力となる。戦争や私的暴力や犯罪……他にもたくさんあるだろうね。しかしそれは悪いことではない」


 踊るのをやめ、少し乱れた息を小さく深呼吸をして整える。


「奇跡は力だ。どんなものでも変えてしまう力なんだ。そしてそれを自由に扱えるのは、生物としての特権だろう」


 そしてどこからか取り出した水晶を左手で持ち、右手をかざす。すると水晶にはどこかの光景が映し出された。


「じゃあその中で異質なものはどうなってしまうのか?」

 その光景に映し出されるのは一人の少年。


「今から私が見るのはそんな少年の物語だ」


 女性は目を輝かせる。それは新しいおもちゃを貰った子供の様に、それは新しい発見をした研究者の様に……。


「んっ?私は誰かって?まぁいいじゃないかそんなの気にしなくても……まぁ強いて言うならば」


 唇に人差し指をあて、囁くように言った。


「どこにでもいる、ただの傍観者さ。君達と同じようにね」

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