悪女探偵 雨宮事務所の受難

ユーラシア大陸

ようこそ悪女探偵 雨宮事務所へ

第1話 業人街より愛を込めて

 「だからさぁ……ここでこいつらをぶち殺すことだって、咎められるだとか許されるだとか、そういう話じゃねぇーんだよ。現実はいつだって正解なんだ」


 明滅する蛍光灯の下、硝煙がか細く立ち上がる。火薬の爆ぜた独特の臭気がゆっくりと小さな室内を漂っていく。

 何事もない、ただ日常の動作の様に慣れた手つきで彼女――麻里さんは黒光りする拳銃をうずくまる男に向かって放ってゆく。


 彼の命乞いの声が途絶えると、彼女は頬に着いた返り血を素手で拭いながら、ゆっくりと俺の方へと振り向いた。彼女は楽しそうにでもなく、悲しそうにでもなく、ただただ面倒くさそうな表情で口を開いた。


 「おかしいと思うよなぁ?じゃあ何をしたっていいんですか――って顔をしてるもんな。そうだよ。何したって問題ねぇんだよ。誰もホントは物差しなんざ持ってねぇんだからさ」

 「そんな、何をしても良いだなんて……」


 お構いなしに麻里さんは続ける。


 「もうアタシら生きるために生きてんだ。生きるってのはつまり、なんだ、その――簡単だろう?でも誰もホントの物差しを持ってないから迷っちまう。だからアタシらは自らを悪だと規定するんだ。それが君には出来ないんだろう、左京くん?」

 「……そんな、ことは……」

 「だから君はいつも無気力でなあなあに過ごしてきて――掴みどころがないんだ」


 彼女が何を言わんとしているのか分かりそうで分からない。自分の中に浮いては沈む感情が収まる気配は全く無い。

 しかし、答えに詰まって無言になっているこの状況こそが、彼女の想像した答えそのものになっていることだけには薄々と気付いていた。


 「もし君が考えるような正義の味方と言う存在がいるんだったら、そいつは負けたり挫けたりしても立ち上がれる権利があるんだよ。何度膝をついても、血反吐を吐いても、殴りかかってこなきゃな」


 麻里さんは少し嬉しそうに語りだす。


 「それに比べて、悪はどうだろうね?……負けたらそこで終わりさ。二度と陽の目を見ることは出来無い。正義の味方と違って、倒れても立ち上がる権利なんざもらえない。だからさ――」


 彼女は恍惚の表情を浮かべ、俺の胸倉を掴んで引き寄せた。

 ゆるふわパーマのかかった栗色の髪の毛が俺の頬をくすぐり、甘く爽やかな彼女の香りが硝煙の匂いと混じって鼻腔をかき乱す。

 しかし俺の心臓は、彼女の憎悪にも似たような感情によって脈動していた。





 「悪は絶対に負けられないんだよ。正義の味方以上にね」











 鉛色の雲が空一面に広がっている。夏の終わり、普段であればまだ夕暮れ時であっても明るいはずなのに、今日は全く陽の光など差す気配がしない。

 昨日の夜半から降り続ける重苦しい雨も、未だ止む気配がない。砂埃と訳の分からない化学物質を含んだ雨は、人々が外を出歩くのを忌避させるのには十分だった。


 ましてや、この「業人街ごうにんがい」であれば尚更だ。


 悪徳と暴力がルールとなったこの街で最も尊重されるべき規律は、「夜出歩かないこと」と「雨の日に出歩かないこと」。暗黙の了解どころの話ではなく、この街の外の住人向けのガイドブックに注意喚起として書かれているくらいだ。

  顔もまともに見せることのない市長が外部向けに明示することを提案したそうだが、尋常の人間であればたちまち食い散らかされてしまうこの街で、このルールを知らせるのは実に優しいことだと思う。


 故にこの雨の中、業人街を出歩いている俺はそんなことを熟知した人間の様に思えるが――実際にはそうでは無い。

 俺を先導してくれる女性がいたからこそ、なんとかこの街を歩くことが出来るのだ。


 「あんたさ、左京くんって言ったっけ?もうちょっと早く歩きなって」

 

 鈴のような声色が不意に俺の前から響く。

 俺――四戸左京しのへ さきょう――は水玉模様の傘を少し持ち上げ、声の主の方を恐る恐る窺った。


 「こんな雨の日にのこのこと業人街を出歩くなんて、ホントは嫌なんだからさ。君も分かってんだろ?どこでクソ面倒でクソみたいなクソ野郎に因縁つけられるか、分かったもんじゃないんだから」

 「はい……。その、すみません……」


 ゆるふわなパーマが掛かった栗色の髪をくるくると弄りながら、俺の前を歩いていた女性は苛立ち交じりに毒づいた。

 ネコかイヌか良く分からないキャラクターのイラストが散りばめられた傘を持った彼女は、人形の様な可愛らしい顔から想像も付かない位ドスの効いた声で俺をののしり続ける。


 「大体さ、何もこんな日に仕事させてください!なんて電話してこなくてもいいだろ。そりゃこっちも人手が欲しかったとはいえ、よりにもよって外からの人間だなんてさ、想像もしてないって。まぁでも、君みたいな大人しそうな奴をこのまま出歩かせるわけにもいかねーからな。こうして迎えに来てやったって訳。感謝しなよ」


 言うだけ言うと、彼女は淡いオレンジ色のふわふわとしたカーディガンとフレアスカートをなびかせ、さっさと歩いていってしまった。


 (なんて乱暴な人なんだ……)


 彼女と会ってから数十分、俺は挨拶以外にまともに口を開いてない。っていうか、開かせてくれない。

 今みたいな調子で、半ギレになりながらまくしたててばかりなのだ。

 壊れかけたネオン看板や、道端に投げ捨てられた家電製品の間を女性はスイスイと歩いてゆくが、俺はおっかなびっくり進むしかなかった。


 (こりゃあ大分気難しい人の所に来てしまったんじゃないかな……)

 ――俺の転職活動はいきなり失敗の予感である。



 きっかけは些細なことに過ぎなかった。

 高校在学中に両親が事故で他界、身寄りも無かった俺は施設に入ることになり、そのまま施設費と学費を稼ぐために職を転々とした。


 この日本という国が数えきれないくらいの天災、人災、そして戦争に見舞われ疲弊している時代にあっては、俺の様な人間はさほど珍しくはない。この「業人街」だって、そんな時代の流れが生み出した一つの形だ。

 どこにも温情など無いし、他者を気にかけてやる余裕もない。だからこそ俺は自分の力で生きなければならなかった。


 ある時、俺の入っていた施設が取り潰されることが決まった。まともに施設費を払える人間などおらず、国も国を維持するだけで精一杯な状況ではあてにならないものだから、ある意味当然の結末だった。


 「ま、しょうがないかなぁ……」


 退去を予告されたその日の内に、俺は荷物をまとめ、そそくさと施設から出ていった。

 輪をかけて無気力な俺はこの際だからとその足で学校へと向かい、その日限りで自主退学をすることを校長と担任に告げた。

 彼らもまた気力なく俺の退学願を受理してくれたし、あっけなく退学は決まったのだった。


 授業中の教室の横を通る時、クラスメートの何人かが俺に気付いて話しかけてくれたが、今日で退学することを告げると言葉少なげに俺を見送る。

 「やっぱりお前、いつかは退学すると思ってたもん。まぁ無理のない範囲で、元気にやっていけよな」

 まがりなりにも今から学校を辞めようという人間にかける言葉がそれかい、なんて突っ込む気力も湧かなかった。


 住む場所も生活の中心になる場所も失ってしまった俺は、ただ風の赴くままにぶらぶらと歩き出す。

 ちなみに前の職場だった怪しげなインド料理店は――数日前から店長とオーナーが黒服の男たちと一緒に姿をくらましてからそれっきりだったので、退職の挨拶をしに行くのは止めた。




 さして何も考えず気ままに町から街へと渡り歩いていく内、気が付けば俺はこの業人街の猥雑な路地に立っていたのだ。

 路地の脇には、壊れて打ち捨てられたのだろう、埃と泥まみれの家電製品がおいてあり、その手前でまだ使える部品がないかと鼻息荒く見定める男達が群がるように立っていた。


 後ろを振り返れば、うずたかく積まれたゴミ袋に埋まるようにして老婆が眠っている。老婆の腕の中にはぎらついた眼差しをした薄汚れた老猫が抱かれていて、警戒心を隠そうともしない。

 建ち並ぶバラック小屋の壁に雑多に張られたチラシ類には、「内臓買います」だの「鉄砲玉募集中」だの「素敵な虹色のお薬、入荷しました!」だの、選べるオプションばりの恐ろしい文言が躍っている。


(気が付いたら何だかすごい所に来てしまったなぁ……)


 最初のうちは、自分の立っている場所が悪名高い業人街だとは気づかなかった。

 それに気付いたのは、路地の向こう側で街宣車がスピーカーから「この業人街と呼ばれる街を浄化するため云々」と垂れ流しながら走り去っていったのを見てからだ。

 一瞬見えたその街宣車には、真っ白な防護服とガスマスクをつけた人が乗っており、つぎはぎの服やぼろきれの様な服しか纏っていない周りの人間と比べて明らかに異様だった。


 (さて、これからどうするか……)

 お金も殆ど尽きていたことだし、ここらで一つ稼いでから身の振り方を考えようと思った矢先、半分潰れた家屋のシャッターに貼られた一つの求人広告を見つけた。


 「何々……?『若干名の探偵助手募集中。体力がある者歓迎。3食昼寝付き住み込みOK、先輩職員が一からレクチャーしてくれる新人に優しい探偵事務所です。応募のあて先はこちらの番号まで』」


 ――探偵助手、か。


 何となく、面白そうだし悪くないな、と思った。

 こんな怪しげな街でどう生活すべきかもわからない中で、住み込み可というのは実に魅力的だ。しかも昼寝付きとは。

 もちろん相当な大嘘つきが、適当に都合のいいことを並べ立てているだけかもしれない。しかしこの街をうろついて他に仕事が見つかる当てもなし。だったらダメで元々だ。


 「とりあえず、連絡してみるか。……ん?」

 その求人広告の下の方に目をやると、思わず苦笑してしまう。


 「何だこの名前……。『悪女探偵あくじょたんてい 雨宮事務所あまみやじむしょ』だって?」


 自ら悪女と名乗るとは。そんな所にわざわざ依頼をする物好きなんているのだろうか?っていうか、悪女って名乗るその神経はどうなんだろうか。


 「こりゃ相当な大嘘つきな様な気がしてきたぞ……。もうちょい考えてから連絡してみるかな。流石に悪女って自分から言う所で働くのはちょっとなぁ」


 結局、その日は広告に書かれていた番号に連絡せず、適当な宿屋を見繕ってこれからのことを再考するのだった。




 「――で、結局まともな働き口も見つからずだらだら過ごす内に、いよいよヤバいってなってウチに電話してきたわけだ」

 「ええまあ、そんな感じです」

 「左京くん、あんたは馬鹿か?馬鹿だな、間違いない。こんな町でまともな仕事なんてあるわけねぇーっての。アタシが断言するね。よくもまぁそんな大馬鹿な頭でこれまで生きてこれたもんだよ。信じらんねーわ!」


 傘の縁を俺の傘にがつがつとぶつけながら、女性は大笑いする。彼女はそのまま俺の顔を覗き込んできた。澄んだ水色の瞳が、俺を見定めるようにじっと見つめる。

 こんな荒れ果てた悪名高い街中で、彼女だけは随分と綺麗な身なりをしていることに今更ながら気づいた。街宣車に乗っていた連中とは違う異質さが、彼女にはあった。


 (でもやっぱりすごい可愛いな、この人。口を開かなければだけど……)

 思わずどぎまぎしてしまい、目を逸らす。


 「まぁでも、顔は悪くないかもね。あとはそのボサボサの髪さえどうにかしちまえば、それなりの男前にはなるんじゃない?」

 「は、はは、ありがとうございます……」


 照れながらぼそぼそと呟く。聞こえたのか聞こえていないのか分からないが、彼女はフフンと可愛らしく鼻を鳴らすと、踵を返してまた歩き始めた。


 「あの、そう言えばまだお名前を聞いていませんでしたね」


 照れ隠しにそう訊ねると、彼女は振り返ること無く答えた。


 「あぁそうだった。アタシは雨宮麻里あまみや まりだ。よろしくな――って言葉が必要かどうかは、無事に生きて戻れるか分かるまでお預けだな」

 「えっ、それってどういう」


 聞き返す間もなく、彼女――麻里さんは傘を乱暴に投げ捨て、俺の方を振り向くこと無く勢いよく駆けだす。


 「うわ、ちょっ!待ってくださいよ!」

 「うるせぇ!いいから走れ!傘なんて捨ててとにかく走れ!」

 「えぇぇぇぇ!?」


 俺も傘を投げ捨て、慌てて彼女の後を追いかける。

 直後、背後から幾人もの男達の怒声と何か物を蹴散らしながら近づいてくる音が聞こえた。


 「おいゴラァ!テメェら待ちやがれ!」


 捨てられたごみ袋に躓き、路地の間に張り巡らされたずぶ濡れの洗濯物の下を息も絶え絶えに掻い潜りながら、みっともないフォームで俺は麻里さんの後を追いかける。

 走る最中、ちらりと後ろを見ると鬼の様な形相で男達が駆けてきていた。


 「うわっ!うわわわっ!」

 訳も分からずやって来た街で、訳も分からず追いかけられている。何をどうすればいいのか考える間もなく、ただひたすらに走り続けた。


 ――しかし。


 「ゴラァ!ちょこまか逃げるんじゃねぇ!」

 後ろを走る男達が、石か何かを思いっきり俺の頭に投げつけた。

 瞬間、目の前はちかりと真っ白く光り、次いで灼けるような痛みが後頭部に突き刺さる。


 「ぐぁっ……!」


 姿勢が崩れ、道端に放置されていたオンボロのテーブルに勢いよく倒れこむ。上に乗っていた雑多な皿や空き缶がガラガラと地面にぶちまけられ、散乱するそれらの中に俺はうずくまってしまった。

 降りしきる雨に染み出るように、俺の頭からは絶え間なく血が流れ続ける。濁った雨水に赤色が広がり、みるみるうちに目の前が赤く染まっていった。


 「へっへへへ……。このガキ、身なりからして外から来た人間か?良いもん持ってんじゃねーのか?」


 追いついた連中は、下卑た笑い声をあげながら、品定めをするように俺の周りを取り囲む。その中の一人、小太りの男は馬乗りになると、おもちゃで遊ぶように手に持ったナイフを一瞬チラつかせたかと思うと、それを俺の足へと突き刺した。


 「うああぁぁぁぁぁぁっっっ!」

 全身の痛覚が一点に集中したように痛む。まるで刺された部分だけが自分の意識の全てであるようだった。


 「ほほ~いい声で鳴くじゃねぇか。久しぶりに活きの良い悲鳴を聞いたぜ。ほらよ!」

 にたにたと笑った小太りの男は、手に持った得物を突き刺したままぐりぐりと押し付ける。


 「うぅ……ぐあああぁぁぁっ……!」

 「おほぉ~良いねぇ!もっと叫んでみろよほら」

 「おい、そんな簡単に殺すなよ。外の人間なんだ、引っ張れば身代金でもなんでも取れんだろ!」

 「へへっ、分かってるっての。でももうちょいだけ遊んでも――」


 男がそう言いかけた時、突如轟音が響き渡る。同時に巨大な影が飛来し、快音と共に馬乗りになっていた男を吹き飛ばした。


 「――もうちょいだけ遊んでやっても良いぜ?ただし、アタシとな」

 「てっ……てめぇ!何してくれてんだゴルルァ!」

 「あー?見りゃ分かんだろ?ゴミ掃除だよ、ゴミ掃除!言わなきゃ分かんねぇのかこのが!あぁっ!?」

 「んだとこのアマ!――って、てめぇは!こないだの探偵屋か!」


 薄れかける意識を無理やり再起動させ、狼狽える男達の視線の先に頭を向ける。

 そこには、道端に埋もれていたのであろう、さび付いた古い街燈を引き抜き肩に担いだ麻里さんの姿があった。


 「おー?クソボケ脳のお前らでも、アタシの顔は覚えてんのな。少しは見直したぜ」

 「忘れるわきゃねえだろうがっ!てめぇよくもこないだは俺らの商売を潰してくれたなぁ!」

 「商売だと?笑わせんな追剥ぎ共。業人街であっても、テメェらには陽の光なんざ二度と拝ませてやんねぇからな!覚悟しとけよ!」


 そう啖呵を切ると、彼女は担いでいた街燈をまるでやり投げ選手の様に思い切り投げ飛ばした。弾丸の如き勢いで投げつけられたそれは、俺の周りにいた狼藉者どもに逃げる隙すら与えずまとめて吹き飛ばして壁へと叩き付ける。

 鈍い音と共に、コンクリート壁がばらばらと破片を落下させるその様は、彼女の怪力の恐ろしさを物語っていた。

 まさに文字通り一瞬の出来事であった。


 「で、次は?次はどいつが的になってくれんの?」

 「ヒッ!ヒィィィ!」


 たちまち戦意を失った悪党達は恐れをなし、我先にと元来た路地へと逃げ帰る。投げ飛ばされた連中も、ぼろぼろの体を引きずりながら這いずり回り、逃げ出した連中の後を追うのだった。


 「なんだ、つまんねぇな。偉そうに大口叩いておきながら、ちょっと派手な格好見せてやったらコレだ。話になんねぇ」

 麻里さんは口を尖らせながら、ゆるふわな髪の毛をぐしゃぐしゃとかき上げる。


 (いや、そんな馬鹿力を見せ付けられたら誰だって逃げ出すと思うけどな――)

 と思うものの、口には出さない。


 「まぁこれでしばらくは面倒な連中に絡まれることもねぇだろ。……ところで左京くん、怪我は大丈夫か?」

 「あっ……」


 目の前で想像しがたい光景が繰り広げられていたものだから、自分がつい先ほどナイフで足を突き刺されたことすら忘れていたのだった。彼女の言葉でそれを思い出した途端、また灼けるような痛みが広がる。


 「……けっこうがっつり刺されてんのな。しょうがねぇ、アタシが連れて行ってやるしかねぇか、面倒臭ぇ」


 そう言うと麻里さんは造作もなく、ひょいと俺を担ぎあげるとすたすたと歩きだした。


 「ま、麻里さん、大丈夫ですか……?そんな無理しなくても俺は大丈夫……いってててて!」

 「どっちの方が無理してんだよ。あんたを歩かせてたら、それこそ夜になっちまうだろ。黙って運ばれていきな」

 「は、はいぃ……」


 生半可にも身長は俺の方が幾らか高いものだから、担がれた俺は両足をズルズルと地面に引きずられるようにして運ばれる。ひび割れたコンクリートから飛び出た配管や瓦礫に足がぶつかる度、鈍痛がじわりと響くのがこの上なく辛い。


 (早く……早く楽になりたい……)

 足と頭から流れ続ける血に、延々と降りしきる冷たい雨。

 手荒い業人街の歓迎に耐えながら、ひたすら早く横になりたい思いに駆られるのだった。



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