曇る窓、映る彩、クラスメイトの事情。

卯月草

彩り

 風が声を絡ませて彼と彼女を〝2人ぼっち〟にした。

 俺は独り佇む。



 放課後、日直の仕事である日誌を書き終わり、職員室へ向かう。校舎が囲んだ庭の花時計のところ。クラスメイトの男子が、クラスメイトの女子に手紙を渡していた。

 何と言っているのかは分からないけど、その表情は俺の身体はひりひりと痺れさせた。それはあの男子が女子に、自分の想いを伝えていることを確信させた。

 見てはいけないなあ。そう思えど俺はその場面にくぎ付けになって、足を前に動かすことができなかった。

 だけど俺の向かい側。中庭を挟んだ向かいの校舎。そこに1人の女子生徒が見えた。クラスメイトだ。ふと目が合う。先ほどとは違う痺れを感じた俺はすぐさま目をそらすとそのまま逃げるように、いや、逃げるために足を動かした。

 職員室は向かいの校舎で、彼女に会ったらどうしようかと思ったが、たまたま告白現場を見ただけで、どうにかする必要もないのだからと言い聞かせ歩みを進める。

 職員室に入ると、いた。緊張。

 担任と話していたが、平静を装い、けれど何となく彼女に会釈なんかしてしまったりして先生に日誌を渡す。先生にあいさつすると足早に去る。

 彼女の目に俺はどう映ったのだろう。不審に思われただろうか。だとしたら嫌だなあ。だって俺は彼女のことが好きなのだから。

 下足ロッカーへ向かうとき、もう告白していた男子もされていた女子もいなくなっていて、その後の2人のストーリーを想像する。

 今ごろ男子のほうは泣いているだろうか。女子のほうはどんな気分かなあ。だってあの子は俺のことが好きなのだから。人づてに聞いた話だけど。

 門を出ると俺の好きな子と俺を好きな子が一緒に歩いていた。俺の家はその2人の向かう方向ではないので、背中を向けた。その先にはあの男の子がいて思わず立ち止まる。1つ大きく息を吐く。そして追いつかないようゆっくりと歩き出したが、その背中から目を離せないでいた。そいつは道を渡るらしい。青がチカチカ、信号は赤になる。クラクションが鳴った。俺の横、そちらを見る。信号が変わったことに気付かなかったらしい。

 視線を前に戻すとあいつと目が合った。あちらから目をそらす。

 ああ、あの子は俺を好きらしいと、教えてくれたのはこいつだった。




 信号が青に変わる。


 俺はあいつの好きな人を知らない。

 目に映ったのは、黒と白のコントラストだった。

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曇る窓、映る彩、クラスメイトの事情。 卯月草 @uzuki-sou

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