異世界から女子小学生が攻めてきたから俺たちの出番のようだな

@gyuunyuunomio

第1話

 ――2025年。東京の空に巨大な船が突き刺さった


 何もない中空から、生えるようにして出現した巨大なそれは、一見して船だとはわからなった。

 斜め30度ほど下に傾き、まるで空に突き刺さったかのように静止したそれは、船というよりは、オートマチック式の銃身のような、長方形の建造物だった。

 人々が混乱にどよめく中、突如、閃光が奔った。船の先端から放たれた光は、十数キロの地面を瞬時に焼き尽くし、東京を火の海に変えた。

 そうして、人々は初めて悟ったのだ。あれは侵略者である、と。



 《ヴィ・ロン》―――侵略者は自らをそう名乗った。

 世界5か所都市の上空に同時に現れた“船”は、紫の閃光と、不可視の力をもつ兵士によって、電撃的に占拠された。

 人々は恐怖に慄いた、いつ自分たちに襲い来るかわからない紫の閃光に――ではない。

 神のごとき威容をもつ“船”に――でもない。

 では何に恐れ慄いたのか。

 それは、《ヴィ・ロン》人のいでたちに対して、であった。

 彼ら・・・いや、彼女たちは一様に、キュートでポップな格好をしていた。

 ある《ヴィ・ロン》人は、フリルのスカートに「Lovery Girl」とプリントされたシャツ、カラフルなスニーカー、といった、まるで友達とお洋服を見に行く少女のようないでたちで、戦車の装甲を易々と切り裂いた。

 またある《ヴィ・ロン》人は、レース襟のブラウスにカーディガン、チェック柄のプリーツスカート、黒髪を耳下でゆるく束ねたサイドテールといった、まるで図書館にお気に入りの本を読みに行く大人しめの文学少女、といったいでたちで、鍛えられた軍人を縊り殺した。

 何より、彼女たち全員に共通するのは、背中に背負った赤い革のカバン―――ランドセル。

 そう、侵略者ヴィ・ロン人は全員が“女子小学生”だったのだ。



 「―――つまり奴ら《ヴィ・ロン》人は、不可視の力場を発生させる兵器を使うのだ。」 

 侵略者の全世界宣戦布告より3か月。某県の自衛隊基地。

 基地内のブリーフィングルームには、困惑の雰囲気が漂っていた。

 部屋にいるのは50人ほどの男たち。その誰もが、自衛隊基地にはにつかわしくない、バラバラな格好、風貌をしていた。

 ある者はあか抜けない大学生、またある者はスーツ姿のサラリーマン、無精ひげに長髪のひきこもり風の男もいる、さらには(何がしかのイベント帰りなのか)アニメのキャラクターが描かれた紙袋に、パンパンのリュックサックを背負っているものまでいる。

 その明らかにちぐはぐな集団が、さらに、困惑の色を隠せずにいるものが、部屋の前方にあった。

 前方スクリーンの前に立つのは、スーツの上からも隆起が見て取れる鍛え上げられた肉体と、鷹のような鋭い眼光をした中年の男である。

 だが、男たちを困惑させるのは彼ではない、淡々とあることを説明する彼の後ろ、スクリーンに次々投影される資料画像だった。それは―――

 スカートからすらりと伸びた、まだ未発達の太もも。あるいは、華奢なうなじからその下、シャツからわずかにはみ出るキャミソール、そして赤いランドセル。つまり―――

 (小学生の・・・女子だ!!)

 (じぇじぇじぇJSッ!)

 (あああああJSの太ももぺろぺろぉ!)

 (ニーソはいてない、やりなおし。)

 色めき立ちながらも、男たちは困惑を隠せないでいた。なぜ、国家に属する防衛組織の基地内に自分たちを集めて、このようなご褒美・・・もとい犯罪すれすれの画像を見せるのか・・・

 困惑のさざ波が広がる中、スーツの男が淡々と説明を続ける。 

 「―――この、力場を発生させる何がしかの兵器が、銃弾や爆発の熱を遮り、あるいは素手で戦車の装甲を切り裂くほどの力を生み出していると推測される。我が国・・・いや、他のどの国の軍隊も、やつらの侵攻を止められない理由はそれだ。わかるかね?」

 (・・・いや、わかんねーよ!)

 (いきなり人を呼びつけて何を言ってるんだ・・・?)

 (これはもしやATフィー○ド・・・!いやラムダドラ○バー・・・はたまた念○力でござるか!?)

 (ニーソキタ―――――!!)

 彼らとて、3か月前に異世界からの侵略者が現れ、人類に攻撃を開始したことは知っていた。

 東京23区は完全に占領され、日本社会、および経済は混迷。政府の首都機能は一時的に名古屋に移され、今も侵略者との戦いが続いていること――それくらいはテレビやネットで報道されている、周知の事実だった。

 だが、侵略者が全員女子小学生の格好をしていること、そして、人類科学では未知の兵器を使っていること、それら、一般には公開されていない情報が、彼らを困惑させていた。

 「―――我々防衛省および関係機関は、奴らの不可視の力を・・・“女児力”と名付けることにした」

 ザワッ

 室内にどよめきが広がる。

 「この“女児力”の正体がわからない限り、我々の軍事力では《ヴィ・ロン》には対抗できない。日本に限らず、世界5か国地域はすぐに占領されるだろう。無論、5か国地域だけでは済むまい・・・」

 どよめきは、絶望的なうめき声へと変わっていく。占領された東京23区の内情は未だわかっていない。そして、次は自分たちの番かもしれないのだ。紫の閃光が焼き尽くすのは―――

 「―――だが、対抗策は一つだけある」

 室内が静まり返る。スーツ姿の男は確かに言った、不可視の力と紫の閃光で、人類の軍事力を圧倒した侵略者に対して、対抗する術がある、と。

 「それは・・・君たちだ」

 スーツ姿の男は、室内にいる1人1人をゆっくりと見渡した。その目を、まるでこれから、彼らの運命が180度変わることを、決定づけるかのように。

 男はゆっくり息を吸うと、こう告げた。


 「人類の命運は―――君たちロリコン紳士に託された。」

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