第18話

 ぐ~すか、ぐ~すか。



 こけこっこ~!



 戦国浅田家。おっと間違えた、朝だ。

 

 いつのまにか布団で寝ていたのか、目をごそごそして瞼をこする。

 すると、目の前にうつる天使の姿。


 ほげ~、んん?って、河合さんがパジャマ姿で目の前にいるYO!

 なんでだ、何でこんなことに、まさか!まさかのあれですか!


 昨日酔っぱらって、ごにょごにょして、朝チュンしてしまったのか。

 スズメはいずこに?いずこに?

 チュンチュンボイスが聞こえませんよ、今すぐチュンチュン必須ですよ。


 くそ~それよりも記憶を直ぐに思い出さなければ、消える前に早くだ。

 確か、確か、記憶の定着率は時間が経つ事に激減するはず。

 それなら今すぐに思い出さなければ、俺の記憶を!!!!

 

 ――フラッシュバック、マイメモリー!――


「おはようございます。田中君」


 ほわ~んとした河合さん、朝から胸からドッキュン元気です。

 

「おっはー」


 布団から飛び上がって、全身を大の地に広げて「おっはーーーーーー!!!!!」っと叫びながら飛び跳ねたかったが、それは我慢する。


 ってか、動揺して化石みたいな挨拶をしてしまう。

 しまった!ついうっかり八兵衛だった。

 

 くすくすっと笑って口元に手を持っていく彼女。いちいち可愛い彼女に胸は高鳴りまく  り。よくも、まぁ、朝から俺を高めてくれるものだな、ははは。


「朝から何バカみたいな挨拶してるし!あいかわらず、ブルきしょ」


 何奴!新手か!っと思って顔を上げると、いつもの東堂さんだった。

 まぁ、顔は美人でいいけど、河合さんのような可愛さはないね。はい減点、マイナス100点。それに、お化けの様に手を振るそれはなんですかな?おしっこ行きたいのかな?


 それにしても、何故彼女までいるんだ、俺と河合さんの愛の巣に。

 まさか、まさか、3Pなのか、そうなのか?

 昨夜ああしてこうして、俺と河合さんの痴態を見た東堂さんが、「く~」っとハンカチを噛み、「河合さんだけには負けないんだから!」といって我にアタックですかな。


 そういう趣向ですか~、ぐへへへ。

 別に、私は構いませんがね、どうしてもというなら、相手してあげない事もないですよ。

 私、心が広いですから。


「田中君も起きたんだ」

「うぇ~い、くきっち、よく寝てたね」


 その声に妄想が遮られる。

 あれ、徹君と埼玉君の声。二人共起きてるってか、寝てたの俺だけじゃん。

 

 急に恥ずかしくなってくる。っていうか俺の布団以外、皆四隅に片づけられてるんですけど。これ、どんな罰ゲームですか。

 修学旅行のあれですか、起きたら皆いませんでした(悲しみ)パターンですな。

 泣きぽよぽよぽよ~ん。


「おはようございます。申し訳ございません。寝坊してしまったようです」


 とりあえず、懺悔の意味をこめて謝る。

 布団の上で、掌を床に着けて土下座。 


「謝らなくていいよ」

「そうだよ」

「うぇ~いだよ」

「謝るなら鉄板土下座っしょ!」


 最後にとんでも要求まざってるが気にしない。

 でもこの世界なりリアルにありそうだな。ポーションとか、回復魔法があればできるよね。

 思わずぶるっとしちゃいましたYO。

 どこぞの王様とか金持ち貴族がリアルでやってないといいけど。


 周りを見るとかなり明るくなっている。

 というか、窓から見える太陽は真上ですよ。これ、朝じゃなくて昼ですよ、奥さん。

 やっちゃたな~。


「それで、皆は何を?」

「僕たちはとりあえず今日はいつも通り働くよ。皆仕事あるから急には止められないから。これからの事は夜でいいかな」


「そ、そうだね」


 皆さん高校生なのにしっかりしていますね。俺もか・・・


 そうして部屋を出ていく一団。

 昼休みに俺の様子を見に来てくれたのかもしれない。よく見ると、その服装は職場のそれであった。

 

 徹君は商人のよう。

 埼玉君はコック姿。

 河合さんはシスター。

 東堂さんは・・・あれ、私服だ・・・。


 それで、私服の人だけ残る。


 気まずい沈黙。


 私服の人がツーンとしている。

 その、ものすっごく触れづらい空気なんですが、なんで残ってるんですか、この人は?

 新手のいじめか何かですか?


「その、東堂さんはいいの?」

「なにそれ、嫌味、まじうっざいんですけどぉ~、まじ空気読んでほしいんですけどぉ」


 はぁ?なんだこの女。まさか、こいつだけ働いていないのか。

 そんなまさかな事が・・・


 ありえますなぁ、よく考えると普通にありえてくる気がする。

 そう考えると、精一杯強がっている彼女が可愛くも見えてくる。


「あの、仕事に遅れると大変なんじゃ。こちらの世界の事は分からないけど」

「やめて。本当に糞野郎だし。あーしをいたぶって楽しい?ねぇ、今、どんな気分、ねぇ、ねぇ?」


 すっごい卑屈なんですけどこの子。

 これ、絶対仕事してませんよね、触れてはいけない事に触れてしまったようです。


「あの・・ごめん」

「もっと、ちゃんと謝ってし。ちょ、全然分かんない、分かんないんですけどぉ~」


「本当に悪かったよ。反省してる」

「しょうがないし。あーし、心が広いから許してあげなくもないよ」


 何故かものすっごく強気でおられますよ、このお嬢さん。

 本当に何で?何故に?


「・・・」

「なにぃ、あーしが許してあげるってボイスってるのに、礼の一つもない感じ?」


 あれ?謎のデジャブ感。

 そのセリフは、どっかの同人誌の様なそれでは・・・


 ポカンと彼女の顔を見ると、それに気づいたのか。


「な、なんで事言わすし、このド変態」


 がつっと枕で叩かれ、ドゴンと頬にあたり首が回る。

 「だが甘いですな、事前に首を回して威力を減衰していたんですよ、ほほほ」っと言いたいところだが、そんな事はできなかった。


 首が!!!首が痛い!!!


 なんか違和感あるよ、寝違えた時のあれだよ。


 無理やり首を回して、頭を元の姿勢に戻す。

 手で首の感触を確かめるが、問題ないようだ、セーフ。

 首に変な違和感残ってるけど、多分セーフ!


「痛かった・・・」

「な、なに、謝らないし。私、悪くないもん」


 そうだろうね、東堂さんが謝ったら逆に怖いわ。

 体の芯からブルっと震えてゲシュタルト崩壊するわ!


 まぁ、いつもの事なのでスルーだ。

 マイシスターで大抵の理不尽暴力には慣れています故。


「東堂さん、暇なの?」

「別にそうじゃないわよ。これでも、すっごく忙しいの」


 そうか・・・暇なのか。

 強気な彼女がツーンと他の方向を見ている。

 壁の染みでも数えているのかもしれない、できましたら、その数を私に後で教えてくれますかな。カウント引きつぎますよ。


 というのは冗談で、ここは彼女を持ち上げて、色々この世界のことを知らなければ。

 実際、俺、この世界についてほとんど知りませんから。


「それじゃ、街を案内してくれないかな。そのために残ってくれたんでしょ」

「ばれちゃったかぁ。そう、あんたのために、わざわざこのあーしが残ったっしょ。バリ感謝っしょ?」


 さいですか~。あざ~っす。

 ここは、正統派ツンツン少女に従いましょう。


「それなら早く着替えなさし。あーし、部屋の外で待ってんから。10分以内に来ない放置」


 さっと部屋を出ていく彼女。

 コツンっと襖が閉まる音が部屋に響く。 


 その直後、一瞬扉が開き、俺の服らしきものが放り投げられる。


「これ!」


 が、上手く投げれなかったのか、一部の服が彼女の真下に落ちる。

 それを恥ずかしそうに拾い、ポイッと部屋の中に投げて襖をしめる彼女。

 東堂さん案外ドジっ子なのかもしれない。


 服をかき集めるとどれも新品で、この世界の人が着ている一般的なそれ。

 どうやら彼女達が買ってきてくれたらしい。



 俺はそれを着て部屋を後にした。

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田中ですが、何か? @kokonoku

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