第14話
目が覚めると、目の前には女神の様な顔、河合さんだ。
なんだ、俺は死んだのか、やっぱり河合さんは天使の生まれ変わりだったのか。
それならこれから、天使の河合さんに導かれて昇天するのかな、ぐへへへ。
どんなプレイがまっているのですかな、天国(ヘヴン)では、ワクワクがとまりませんなぁ。
「あっ、皆さん、目覚めましたよ」
皆さん?
俺と河合さんの二人のラブタイムじゃないの?嘘だといってよ、バーニー。
そんな願望とは反対に、ぞろぞろと聞こえる足音。
なんだ、この夢を破壊する振動音は。寝ているから余計に大きく聞こえるYO。
「変出者が起きたわね」
その高圧的でさげづむような声で、姿を見なくても誰か分かる。
俺を桶で殺そうとした殺人犯、鬼の東堂さんだ。
皆さん、ここに桶を投げてくる暴行犯がいますよ!
避難して下さい、危ないですよ!ここは彼女のキルゾーンですよ!
桶投げてきますよ!同人誌でオナニーしながら投げてきますよ!
が、そんな心の叫びは虚しく、他の面々も俺を囲む。
「うぇ~い、くきっち、びっくりだわ。まさか空から落ちてくるなんて」
おっ、ちゃらい埼玉君だ。
服装もいつものまにか学生服から、RPGの冒険者のような服に変わっている。
その様子が様になっており・・・あれ、その姿、そこそこ日数が経ってるのか?
「でも、よかった田中君が無事で。ずっと心配してたんだ。こっちの世界で気づいたら、田中君だけいなかったから」
イケメンリーダー徹君、その綻んだ表情、俺の事を本心から心配しているようだ。
さすがですね、徹君。人望はそういう所から湧いてくるんですよ。
「お、おう。ごめん」
何故だか反射的に謝ってしまった。
瞬間的に上下関係を認識してしまったのかもしれない、悲しい。
「ううん。いいんですよ。でも、どうして空から落ちてきたんですか?」
俺を慰めるエンジェルボイス。
「それは天使の河合さんならご存知では」と口走りそうになったが、今はまずい。
彼女と二人だけだったら、密室に二人だけならそれでいけたのに。そしてそれを受けて顔を赤らめ「くすくす」と笑う彼女の天使スマイルを見る予定があああ!
くそー、周りのメンバーが憎い、誠に憎いですぞ!
そんな八つ当たり。
それに、普通にどうして空から落ちてきたかは分からない。
多分、あの天使がいったように、どこにでるか分からない入り口の先が偶々空だったのだと思うけど。
けどあれ?それって超怖いじゃん。もしかしたら俺死んでるよ!
即死でぐちゃだよ、色々な物飛び散ったグロ画像ですよ。
その考えにぶるっと震える。
というか俺、結構な高さから落ちていたはずなのに、無傷っぽいのですが・・
温泉ではそんな事気にする暇などなかったが、今、体に特に違和感はない。
女王様(笑)に投げられて桶があたって場所がジーンとするぐらいだ。
どうなってんの?あまり高くない所から落ちたとか、偶々打ち所がよかったかもしれないな。偶に、スカイダイビングでパラシュートが開かなかった人も助かったりしてるし。それ系統かな。
様々な「?」が頭に浮かぶが、ここは本当の事は言わない方がいいだろう。まずは様子見。一体どういう状況か全く分からない、不用意な発言は避けた方がいいだろう。
「あの空間から消えたら、宙だった。皆は違ったの?」
声の調子を気にしながら呟く。
大丈夫、変なところはないはず、いつも通りの声。
「はい。私達は教会の中に召喚されました。そこで、傍にいたシスターの方に色々お世話してもらいました」
な、なんだと・・・
シスターさんにお世話されるだと・・・
くぅ~、俺もそっち路線がよかった。
あんな性悪天使コスプレお姉さんより、やっぱり心が純粋なシスターさんだよ。人は外面じゃなくて中身だと思いますよ。そういう人が良いです。
「因みに、具体的には何をしてもらったの?」
セクハラ質問ではないはずだ。
シスターさんがエロいことをするはずがない・・・かな(キョロ)
河合さんは唇に人差し指を当てて「え~とぉ~」と呟く。
僅かに指を動かし、ぷくっと柔らかそうな唇を小さな手ですりすりする姿に悶絶しそうになる。その唇の柔らかさを強調するようなその仕草。布団の中でごそごそ胸を揺らす俺。
「そんな事でどうでもいいっしょ!」
バスッと横からするどく入る鬼の一言を受け、指を唇から離す河合さん。
ぐぬぬぬ、天使の思考を遮る悪魔の声、何を隠そう東堂さんボイスですよ。
この悪魔め!
「あんた、レベルいくつよ?」
「?」
何?レベルって?
今やってるスマホゲーならカンストしてますが、何か、キリッ!
勿論無課金ですよ、ドヤッ!
だが、逆に「ぎっ」っと三倍ぐらい鋭い目で睨まれる。
「ふぉっ」!っと震える俺。河合さんがいるのでなるべく表情には出さないように耐える。
どうやらスマホゲーの話ではなさそうだ。
ということはまさか、この世界、ゲーム世界みたいにレベル制があるのか?
「加奈、いきなりだと分からないだろ。僕が説明するよ」
さすが頼れるリーダー徹君、ナイス。
迷える私目にご教授下さい。
できましたら、東堂さんと俺の間に入って視界を遮って下さると嬉しいのですが・・・
それは望みすぎですね。
「レベルというのは、RPGゲームでよくあるレベルと同じだよ。そもそも、この世界がゲームのような仕組みで動いているようだからね。レベルが上がると、身体能力やHP、MPといったゲームでお馴染みのステータスがあがるんだ。ごめん、ゲームやった事ないとよく分からないよね」
いいや、速攻で理解しましたよ。
あれですね、ネット小説の異世界転生ですね。ばっちり把握しましたから。
「ありがとう。、大体分かった」
「ほ、本当かい?」
若干頬が引きつる徹君。
俺の驚愕の理解力に驚いているのかもしれない。
私の頭脳は世界一!、ですよ。
まぁ、ありえないけど。
「あぁ、ゲームは時々やるから」
ここでいう時々は、毎日5時間以上やっていますという意味ですがね。
授業中もチマチマ確認して、隙間時間を有効活用です。
MMORPRの猛者のように日に10時間は学生の身分ではできないのです。
だから最強クランには入れない私です。やりたいけど。
「きもっ、オタク」
その声は、巨人系BL同人誌で保健室でオナニーしていた東堂さん。
あの事を無かったことにして、今までの態度を貫くようだ。
ちっ、メンタル強人め。
ちょっとは優しくなるのかと思いきや、逆に鋭くなっていますよ。
真症のツンツンめ。
そんな俺と東堂さんを意味ありげな目で見つめる河合さん、あの保健室の目撃者。
瞳がゆるゆると震えており、何かを読み取ろうとしているような雰囲気。
いや、特に何もないので、そんな意味深な目で見つめないでほしいです。あれは若気の至りですよ、ほほほ。
俺は河合さん一筋の純国産日本男児です。毎朝竹刀で素振りとかしちゃいます。えいや、えいや、めええええええん!
ひとしきり頭の中で、仮想敵の東堂さんに面を10回ぐらいくらわすと(勿論、一発も上手く決まりませんでしたがね)
「そのレベルってどうやったら分かるの?」
一番確かな答えが返ってきそうな徹君に顔を向ける。
「教会で発行してくれるステータスプレートという、小さな鉄の板見たいな物に表示されるんだ。後、大事な情報だから信用できる人以外には見せないようにする必要があるよ」
彼がドッグタグのように首から下げているプレートを、服の中からチラッと取り出す。
徹君がしているとおしゃれなアクセサリーに見えてカッコいい。
かくいう私も、昔、ドッグタグ付けてましたけどね。
偶々みられた女子に失笑されて、その日の内に捨てましたが。
でも、ほう、そっち系ですか。
プレートを発行した時に、これは全員驚愕、「田中君SUGEEE!!!」展開ですかな、ほほほ。思わず頬が緩んでくる。
「でも、ステータス発行には金が要るわよ。あんた、金あるの?」
「え?」
なんですと!そんなもん無一文に決まっておろうぞ。
いや、まてよポケットに財布があったはず。それをとりだそうとすると・・・
「馬鹿ね。こっちの金に決まってるでしょ。ゴールドよ、ゴールド」
「知ってるわい!」
つい反射的に返してしまう。
「はぁ?」
ギロリと睨む東堂さん。
まずった!しまった!やってしまった。
今のはどうみても俺が悪い、すまそ、すまそ。
「ごめん。ご教授ありがとうございます」
「そっ」
訂正訂正。円滑なコミュニケ―ションは相手を思い合った会話からですぞよ、東堂氏。
そんな鬼のような表情で我を見ていますと、我が開眼した時に大変な事になっちゃいますよ。果たして、我がどんな要求をするか想像できますかな?ぐへへへ。
にしても金か、ゴールドね・・・
天使からパクった小さな袋を見ると中には金貨がいくつか目にはいった。っというか、この袋の中めちゃくちゃ広くて底見えないんですけど!
なんですかこれ、青狸の四次元ポケットみたいじゃないですか!
驚きの表情を隠しながら袋の中から一枚金貨を取り出し、それを皆に見せる。
「これのことかな?」
「「「!!!」」」
一同驚愕。
いや、本当に大驚愕!
高校の自己紹介タイムの時の様に、時が止まった。
河合さんは可愛いく口を開けて唇をわなわなさせている。力が抜けたその表情はやっぱりかわいい。
東堂さんは下品に口を開けて間抜け面をさらしている。東堂さん、あなた無駄に歯が白くて歯並び良いのね。
徹君も珍しく表情が固まっており、うぇ~いな埼玉君は、瞬間冷却うぇ~いって感じだ。
表情が固まってる。
とにかく皆驚いていた。
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