第12話
お姉さんがリンゴを俺に差し出す。
美味しそうなリンゴ。
「いいんですか?」
「あげます。召し上がれ」
「ありがとうございます!」
リンゴを手に取り、パクっとかじる。
すると、あれ?甘くない、っていうか苦い。
喉の奥から湧き上がってくる突吐感にむはっと。
「げほっ、げほっ、げほっ」
口からそれを吐き出す。
モザイクが必要な絵が俺の視界の先に。
「引っかかったwwwwwww」
ゲラゲラ笑うお姉さん。やはり性悪ビッチだったもよう。
っち、ビジュアルにだまされたぜ、美人な女性が良い人のわけがない。
自分のピュアさが腹立たしい、このくそビッチが!
俺の純情をもてあそびやがって!悔しい、悔しいですっと、彼女を心の中で罵りながら、ほんのちょっとエッチな事をして心を落ち着かせる。
「苦いです。それよりひどいです」
「ごめんなさい。でも、能力の説明したかったの。許してね」(キャピ)
にっこり笑顔で微笑むお姉さん。
かわいいので許す!罪状、被告無罪、これにて閉廷。
だが、なんとなく本の能力が分かった。
うかうかしていられない、その仮説をお姉さんに尋ねなければ。
「見た目は絵の様になるけど、中身は違うという事ですね?」
「そう、その通り。ぼけっとした顔してる割には、中々鋭いのね」
ナチュラルにdisられたが、そんな罵倒には慣れております故、効果は薄いですよ、ふふふ。お姉さん、私のマイシスターをご存じないのですかな、ニヤリ。
「では、どうやって中を決定するのですか?」
「それは書いている最中にイメージを絵に注入するの。因みに今回は、1年前に腐ったみかんを想像したわ」
ぐへっ!ぺっ!ぺっ!
くっ、ぺっ!ぺっ!
入念に口の中に残っていた物体を吐き出す。
おい、俺、それ食べちゃったよ。吐き出したけど。
それ、別にもっと違うのでもよかったのでは、メロンの味のりんごとか、みかん味のりんごとか。絶対そっちの方がいいよ。このお姉さんナチュラルにSだろ、きっとそうだ。
それに微妙に東堂さんと表情が似ている気がしないでもない。同じようなな性格の人は表情が似てくるのかな。男子高校生をかどわかす美人お姉さん、許しませんぞ!
という事は置いといて、
「そのイメージは実際にあるものだけですか?それとも、空想上のものでも可能ですか?例えば、ペガサス味のりんごとか」
「それは微妙な所ね。大事なのは現実、空想という事ではなく、それを存在するものと認識でき、感覚が伴うまでイメージできるかという事だから。普通の人なら、自分で経験した事がないのは無理よ。リンゴを食べたことがない人が、りんごの味は分からないでしょ」
ほうほう。曖昧な所なので確信は出来ないが、やりようによってはチートの域まで高められる能力かもしれない。運用方法、それに絵書き能力にかかってるわけか。ふむふむ、興味深い能力だ。
「分かった。それよりお姉さん、もうそろそろ帰らないと上の人に怒られるから、もういくね。はいこれ」
「ありがとうございます」
俺は本をお姉さんから受け取る。
「それじゃあね」
「はい」
って、だめだよおおおおおおおおおおお!
何さらっと帰ろうとしてるんですか、このお姉さん。
俺ここに取り残されようとしてるよ。まだ、異世界にも現実も送られてないんだけど。
お姉さんの服の袖を掴む。
露出が多い服なのでどこを掴むか迷ったが、ミニスカートの袖にした。
決してやらしい動機からではありませんぞ!手が偶々近くにあったんです。なんか痴漢の言い訳みたいになってますが、本当に違いますぞ!信じて下さい!
「ま、まって下さい。俺を送還してください」
ちっ、気づいたか!みたいな顔をするお姉さん。
あんた、俺の事舐めすぎだよ。舐めるなら物理的にしてほしい。お姉さんならどこでもいいですよ。因みに私の希望は□□□です。精神的なのはNGよ。
「分かってるわよ。天使ジョークよ。面白かった?」
すっごい、嘘くさい。
携帯ショップのお姉さんの営業スマイル並だ。
だがここは笑顔だ、笑顔。ここで見捨てられたらリアルに人生終了する確信がある。
「面白かったです。激ウケでした。危うく泣きそうでした」
「良かった。それじゃ、どうしよっかな・・・う~ん」
あれ?やっぱり、方法ないのか?そんな予感がしてならない。
手頃なのがあるんなら、さくっとやってくれているはずだ。ここまでねばるって事は、あってもやばい奴なんだろうな、きっと。
「決めた!あれにする。あれならいけるよ。絶対いけるよ」
急にポジティブになるお姉さん。不安しか想起しないその表情。
特に何も知らない俺に同意を求められてもすっごく困る。このお姉さん、基本的にダメな子にしか見えないんだよな。気のせいかもしれないけど。
「今から、お姉さんがここに空間の避け目をあけますから、そこに飛び込んでください」
「?」
あれ?結構まっとうな方法?
それなら最初からその方法で・・・まてよ、これは絶対何か裏がある。
匂いますぞ、匂いますぞよ。これは嘘の香り、欺く者の声よ。ふふふ、私を欺くことなどできませぬ。
お姉さんはさっと目の前に次元の狭間の様な空間を造りだす。
まさにブラックホール、青狸の四次元空間。
「どこに繋がってるんですか?」
「異世界です」
「異世界のどこですか?」
「・・・どこかです」
やっぱりか、そんなことだろうと思った。
今の声から、多分、他の奴は指定の場所に飛ばされているのだろう。異世界生活が始めやすい場所、RPGでいう始まりの村だ。でも一応確認だ。思い込みは怖いからな、雛見沢症候群発症しちまったら終わりよ。元気に聡君のバットで素振りしちゃいますよから!残念。
「他の皆はどうなんですか?」
「他の子達は決まった場所なの。そこって決まってるから。でも、考えようによってはこれはチャンスだよ。無限の可能性があるよ」
きましたよ!きたこれ!無限の可能性。
何も魅力のないベンチャー企業の勧誘のようなそれ。
つまり自分でなんとかしろ、こっちは知らん構え。
だが、それしか道がないならしょうがない。
「それでいいです。そのかわり、何かもう二つぐらいください。さすがにこの本だけだと厳しいです。そうですね、お姉さんが持ってた天使の輪と、その腰につけてる小さな袋がいいです」
お姉さんの身体をただエロい目で観察していたわけじゃない。そういう意味もあったけど、彼女が身に着けている物の中で一番何を大事にしているかを見ていた。その結論がその二つだ。絵を描くと実現する本を持っているような天使だ、他のも凄いだろう。身体も凄いから。
「えっ、これはダメですよ。輪は上から借りてる物ですし、袋は私物です」
「いいじゃないですか。俺をこんな目に合わせたんです。それなら上司に告げ口しますよ。それさえくれれば何もいいません。それにもし理由がいるなら、無理やり異世界に送る奴にぶんどられたって、言い訳すればいいですよ。俺を悪者にして下さい。お願いします」
頭を下げると、「う~ん」っと頭をひねるお姉さん。
その隙を俺はつく。
いくらお姉さんが馬鹿でも、はなから説得して貰えるとは思っていない。
腹の中から巨人BL同人誌を取り出し、お姉さんの前に見せびらかす。
それはまるで、春の陽気につられて出没する露出おじさんのように。
その絵を見て硬直する彼女。一番際どいシーンをチョイスした効果が出たようだ。兵長と駆逐系少年が絡み合って□□□しているシーンよ。何かが人体にないはずの不思議な穴に入っておるよ。ある程度同人誌耐性がある俺でも動揺して時が止まった絵だ。
壁サークルに感謝!ドサーっと空想上でスライディング土下座。
石の様に固まったお姉さんの隙を突き、腰の袋と天使の輪をパクル。
そして、間髪入れずに次元の狭間に飛び込む。
四次元空間を出すお姉さんだ、時間を与えるとどんな対抗手段を講じられるか分からない。故に油断は禁物、今の内にダッシュよ!
「それじゃ、お姉さん、行ってきますね」
「ま、まって、それ」
「さよならです。また合う日まで」
「それ・・・」
お姉さんの青く絶句した顔にを見、俺は某怪盗のように満面の笑顔で手を振りながら、さくっと次元の狭間に飛び込んだ。
【物質・所有者移動履歴】
■消失品(ロスト) :所有者の推移(←これ大事)
巨人のBL同人誌(東堂さん→俺→天使?のお姉さん)
■入手品(ゲッツ) :所有者の推移(←これ大事)
絵を描くと実現する本(天使?のお姉さん→俺)
小さな袋(同上)
天使の輪(同上)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます