第10話
目を開けると、そこは異世界だった。
辺り一面真っ白な銀色の世界、まるで雪の国のまぎれこんだ感覚で・・・
って、ただの白い空間で全く移動してないじゃん!
俺、1mmも移動してませんよ、ただピカって光っただけじゃん。
なんだ、お姉さんの持ちギャグか何かかと思ってほっと一息つくが、、そうではないようだ。
周りには俺以外誰もいなかった。
閑散とした空間、先程までの人の温かさが恋しい。
あれ?どうしたんだ。俺だけ失敗したのか?
キョロキョロ頭とを振ると、天使コスプレのお姉さんが仕事は終わったとばかりに頭の上にのっけている輪を取り外す。
え?それとれるんだ。安っぽいな、ドンキに売ってるんじゃね、とか思ったけどそんな事思ってる場合じゃない。
すぐに聞かなれば、なんたってあのお姉さん、空間に穴開けて帰ろうとしてるんだもん。俺、置いてかれちゃうよ。こんな意味不な空間に取り残されるとか、ホームアローン超えてデッドアローンだよ。井戸の中に取り残された少女と同じで精神崩壊して怨念化必須。呪いのビデオテープになってTUT〇YAに出回っちゃうよ。
「あの~、お姉さん、お姉さん」
その声に反応したのか、こちらの方に振り返るお姉さん。
俺を見て首をかしげる。「なんでいるの?」といった感じか、反対側にこてっと頭を動かす。ちょっとかわいいその姿が憎い。
「お姉さん、俺、取り残されたんですけど」
「そう、みたいね」
「・・・」
「・・・」
え?それだけ。
あの、もっと色々リアクションはあるかと思いますが。
「うわわわわ^」っとかかわいい系どじっこお姉さんとか、「まさか、あなたは!」みたいな俺の隠された潜在能力に恐れおののくとか、「めんどくさ!」見たいな疲れたOLの顔とか、因みに私は最後の奴がたまりません!たまりんせんぞよ!それでお願いします!
だがしかし、お姉さんは反対方向にコテっと頭を傾けるのみ。
沈黙に耐えられず、
「その、俺はどうすれば?」
「それじゃ・・・次の時に一緒に送るわ」
何か嫌な予感がした、彼女のセリフの間に隠された気配を察知した。
シックスセンスがざわりと脳裏で呟く、このお姉さん嘘をついているのではないかと。俺は小心者だからな、人の顔色と言葉の意味を読むのには長けているのだよ。チェリーボーイと思い侮りましたかな。
「因みに、その次と言うのはいつですか?」
ギクリと肩が震えるお姉さん。
やはりか、我の目はごまかせんませんよ、ふふふ。
「えっと、この後すぐかな」
「具体的にはいつですか?」
「一年後」
えええええええええええええええええええ!
おい!貴様は世界陸上のメインキャスターか何かか!
聞いておいてよかった。さらっとお姉さん呟いたけど、こんな何もない空間で1年とか普通に餓死するわ。食料があっても精神的に死ぬわ。時と精神の部屋なんて、何もなかったらただの拷問部屋だろ。確かCIAかどっかでそんな拷問部屋あるって聞いたことあるぞ。
「なんとかしてください。現実に戻してください。チート能力下さい」
(おっぱい揉まして下さい!←チキンなので声に出せませんけど悟って下さい。おねしゃーす)
「あれ?あなた、普通ね。現実に帰るって選択肢を思考する事できるんだ?上手くきかなかったのかな」
ちっ。やっぱり思考誘導か何かがかかっていたのか。そうだろうと思っていた。誰も騒がないのはおかしい。東堂さん辺りがキーキーわめくもんだと思っていたが、それがなかった。始終お姉さんをdisっていたが、あれはその種のものとは違った。
それにしても、今思い出すとさすがにあれはdisりすぎだと思う。ちょっとお姉さん、「雌豚!」とかいってましたよ東堂さん。そんな密告をしたくなりましたが、善人の私目はそんな事しません。一応クラスメイトですからね、彼女。
「かなかな」っと何やらぶりっこのように呟いているお姉さん。
殴りたいその笑顔だが、そっと腰から力を抜く。ここは冷静になるところですよ、そう、心をクリアにして考える時。クリアマインドでセイッ!
トン、トン、チーン。
はい、思考しました。
「それで、現実に返してくれますか?それか、チート能力MAXで異世界でもいいです」
うん、考えてみればチート無双で異世界の方がいいよな。
現実で暮らすよりはそっちの方がどう考えてもいい。一番いいのはチーム能力持って現実で無双だけどね。とりあえず、無双できればどっちでもいい。
「う~ん。現実に返すのは無理かな。私の権限でできないから。だから異世界に送るね」
やはり現実帰還は無理か、それはお約束だな。
なんでそうなのかは不思議だが、まぁ無理だろうと思っていたよ。
現実世界から強制的に拉致る奴らに何言っても無駄だろう。
それならば、
「チート能力はありますか?」
「そうだね~、異世界に送る人には何かしらの能力は全員に付与してるよ。中にはチート級なのもあるけど、それはごく少数だし、最初はどれも弱いから成長させないと」
最初から最強は無理か。努力とか修行とか面倒くさいからそっちがよかったんだけどね。
だが成長系でもいいだろう、確実に成長するのが分かっているなら問題ない。
っというか、そういう事さっき送った人に説明しなくていいのか?
まぁ、送っちゃったもんはしょうがないけど。
「それなら、能力ください。強そうな奴」
沈黙が流れる。お姉さんはニコニコしている。
俺の声が聞こえなかったような雰囲気。それならばもう一度、
「それなら、能力ください。強そうな奴」
お姉さんの笑顔がぴくっと動き、
「ごめんなさい、さっき異世界に送還する時に全部付与しちゃったんだよね」(キャハ)
「・・・」
笑ってごまかそうとしていますよ、このコスプレお姉さん。
許せん、許せんぞよ。自らの過ちを認めない愚者よ。笑顔で騙されるチェリーボーイと侮っていますな。我は違いますぞよ。お姉さんの事ガンガン攻めて泣くまで言葉攻めする勢いですよ。私、妥協しませんよ!
「お姉さんの失敗ですよね。なんとかしてください。お姉さんの上司に告げ口しますよ」
いるかは分からないが、どうみてもこのお姉さんは下っ端だろう、多分いるはずだ。
この人?(天使?)が組織の上にいたらヤバイ。まぁ、そもそもいても告げ口の方法なんて分からないけどね。
「わっ、だめですよ、そんなこと。分かりました、それじゃ、これでどうですか?」
お姉さんが俺に一冊の本?を見せる。
当たりだ!やったーっと、お姉さんお得意のハイタッチしそうになるのを抑える。
見ず知らずのお姉さんにハイタッチとか、恥ずかしくて絶対に無理です。
「これは何ですか?」
英語の構文見たいな質問をしてしまう。
「それは本です」と答えたら、俺はお姉さんのほっぺをつねると誓う。
「これはですね。なんと・・・」
またしてもためるお姉さん。
「俺しかいないからそういうのいいから」とか言おうと思ったけど、それはさすがに可哀そうだから乗ってあげよう。今は気分が良い。
「な、なんですか?」(←迫真の声)
「実はですね」
「・・ごくり」(←唾を飲みこむ音を口から出す)
「このノートに名前を書くと」
「書きますと・・・ごくりんこ」(←唾を激しく飲みこむ音を口から出す)
「その人が死ぬんです」
きたああああああああああああああああああああああああああああ!
デスノートですよこれ、天使が持っていていいんですか、そんなもん。
それ、悪魔の持ち物でしょ!
でも、これまさにチート能力やん。無双出来ますわ!わっしょい。
願わくは、これを持って現実に帰りたい。俺、ライト君を越えるスピードで書きまくる自信ありますよ。新世界の神になります!
まぁ、実際はそんな気ないけどね、そんな大きな正義感ないですよ。さくっと暇つぶしに悪そうな奴の名前は書くかもしれないけど。
でも、「ふふふ、私に逆らうと、不幸になりますよ」(クスリ)と不気味に呟きたい!
「いいんですかな、私、ですよ」(ニヤリ)と強者ぶりたいよ!
「っていうのは冗談です」
「がってむ・・・」
くぅ~、嘘かよ。悔しい、すっごい信じ込んでしまった。
色々想像しちゃった俺の心の動きを返せ!
俺の時間を返却しろ!
ピュアな男子高校生の素直さを舐めるなよ!
心の中でシュプレヒコール。国会で変な看板と盾持ってデモしちゃいますぞ!ぽよぽよち~ん。
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