第3話

 すると、そこには女子生徒の姿、ベッドに横になって寝ている。 

 へぇ~、いつの間にか横にいたらしい。入ってきたときはいなかったはずだから、俺がまりたんタイムを過ごしている内にするっとベッドに入ったのだろう。


 まったく、ベッドの先輩の俺に挨拶も無しとは、礼儀がなっていない奴だ。

 ベッドの先輩・・・なんか良い響きだ。今度誰かにちらっと言ってみよう。


 視線を動かし教員の机を見るが、そこには誰もいない。

 保健室を利用する書類を書くときはいたんだけどな。多分、おしっこだな。


 んんん?まてよ。

 これ、まさか、まさか、あれですか?あれでございませんか。

 よくあるあの展開、シチュエーションですよ、これは。


 という事は、今、俺は同じ部屋の中で、見知らぬ女子生徒と一緒にベッドで寝ているのか?隣のベッドだけど。これは、同じ屋根の下で同衾という奴ではないだろうか?


 うほっ!大人の階段、一歩上ってしまいましたぞよ。

 カタカタ(←空想上の階段を上る音) 


 胸が急にドキドキと高鳴る。気のせいか、何かいい匂いがする気もする。 

 なんだ!何が起こった!いきなり嗅覚が覚醒したのか。

 いまならチャクラを練れるかもしれない、螺旋〇!


 おっと、勢いに任せて心の中で必殺技を放ってしまった。

 でも、俺の経験がこの状況から未来を予測する。読みこんだエロ漫画、エロ同人誌の知識の集積が先の絵を描き出す。それが正しいならば、ここでいきなり女子生徒がオナニーを始めたり、何故か発情して襲ってきたりするはずだ。


 間違いない!

 そうであって欲しい、さぁ、早く来い!


 私はここですよ!ここですよ!

 私、いつでもいいですYO!


 保健室のベッドの布団の中で期待に胸を高まらせてもぞもぞする。

 ちらっと自分が履いている白ブリーフを確認する。そそうがあってはいけないからな。  

 そしてそう、何を隠そう、私はトランクス派ではなくブリーフ派なのです。色気づいて周りがトランクスを履く中、俺はブリーフに拘った。この締め付け感がないと何か落ち着かない、心が焦る。日本の伝統文化、健全男子高校生はブリーフ一択です。



 シーン



 シーン



 シーン



 来ませんね。まぁ、実際はそんなことだろうと思ってましたよ。


 同人誌みたいな展開が起ったら苦労しませんわ。誰も熱い中並んで、お互いの汗と汗でむめっとした肌をぶつけ合ってブルっと震えながら、湿度100%越えの千葉県の大きな施設には行きませんよ。 


 それより、俺の「ちゅぱ音」と「んぱ音」が聞かれていないかどうかの方が問題だ。

 冷静になって考えるとそっちの方が現実的な脅威だな。「乳毛君」というあだ名がバージョンUPしてしまうのはさすがに避けたい。まだ俺の高校生活は始まったばかりだ。多分、これから色々もっと、エロい事とか、楽しい事が色々あるはずだ。願わくはエロい事がいいけど、間違いない! 


 そっと隣のベッドを観察すると、彼女の長く伸びた黒髪から覗く耳にはイヤホンがついている。

 その姿を見て安心した、大丈夫だろう、聞こえていないはずだ。

 これで「保健室でさぼって、腕にキスしながらニヤニヤして震えている変態乳毛野郎」という誤報が校内に流れることは無いだろう。良かった、良かった、一安心。


『お兄ちゃん、ファイト。お兄ちゃん、ファイト』


 おっ、いつの間にかまりなたんボイスが次のトラックに移行したようだ。

 

 僕、がんばるよ!


 ふふふ、どうでしょう?元ネタが分かるかな、っと誰に共わず語りかけてしまう。

 

 そんな事より隣のベッドの少女、先程から体が震えている気がする。

 大丈夫かな?本当に体調が悪いのかもしれない。

 

 ここは保健室だからな、本来は体調が悪い子が来る場所だ。その可能性は高い。皆が皆まりなたんボイスを聞きながら悶絶しにくる場所ではない。俺以外にも校内に2,3人いるのではないかと実は疑っていたりもするのだが。我のまりなたんレーダーがそうビンビン語りかけてくるのですよ。高性能ですぞよ。


 それよりどうしようか?声を駆けようかな?保険の先生ぐらい呼んできた方がいいかもしれない。多分、近くのトイレにいるだろう。


 でもな、そこまでするのはさすがにやりすぎな様な気もする、彼女の体調が分かってからにしよう。そうしよう。

 とりあえず声をかけてみるか、ベッド下のスリッパを見る限り同じ学年の様だし。

 先輩なら躊躇するところだが、同学年なら問題ないだろう。


「あの~、大丈夫ですか。先生、呼んできましょうか?」

「・・・」


 無言。

 彼女はイヤホンをしているので、俺の声が聞こえていないのかもしれない。

 肩をゆするのは恥ずかしいので、しょうがない、ちょっと顔でも確認してみるか。

 

 頭をひょこひょこ動かして彼女の顔を見ようとすると、彼女の手元にはなにやら本?書籍?

 それをくいいるように見ている少女。いや、がっついているといっていいかもしれない。

 その何ともいえない不気味な姿は、マイシスターが盗撮した動画(俺がエロ本を読んで別世界に飛んでいる計10分の力作。因みにモザイク必須)の俺に似ていなくもない。

 あれにはぶるっとした。自分で自分を「きもっ!」っと思ってしまった。「あいつやべ~!」っと思ったら自分でしたの巻。それを見せられた時、コテっと自分の頭を右の拳で軽く叩いて反省のポーズをしてしまった。あいたっ!こりゃ、失敬。


 そんな俺と同じオーラを発している目の前の彼女。


 『だいちゅき』まりなたんボイスでよく聞こえないが、耳を澄ますと、「ふふ」っという笑い声が聞こえてくるような気がする。


 そっと、首を伸ばしてその本の中を覗くと、それは文字ではなく絵だった、漫画の様だ。

 その絵柄は良く見る物で、あれだ、なんともいえない不気味さを持つ巨人を駆逐する奴だ。だがおかしい、あれはコミックのはず、つまり書籍としては小さい。だが少女が見ているのはA4サイズはあろう大きさで、それに薄い。


 デカくて、薄い・・・

 

 それにキャラの表情が豊かだ。羞恥心を隠すようなその表情と、乱れた衣服。

 そんな妖艶な雰囲気があの漫画にあっただろうか・・・

 どちらかというと、正反対のイメージだった気がする。


 ぺらっとめくられる紙。

 それを見て「うおっ」っとする。


 そこに映っていたのは、駆逐系男子の乳首を舐めるすっごく強い立体起動の人。あれだよあれ、大きくなった某国民的アニメのたらちゃんに似ている人だよ。

 しかも、何故かフンドシ姿で立体起動装置を使って、白い布が風に揺れてブラブラしており、なんともいえない爽やかさな仕上がり。おい、その制服どうした?


 っていうかこれ、同人誌やん。

 しかもホモ。上品にいうとBLか、おそつまつさん。


 その事に動揺してついカーテンを揺らしてしまう。

 その動きか、俺の異様な視線に気づいたのか、彼女が振り向く。


 その顔には見覚えがある。いや、覚えどころか、同じクラスの人やん。

 しかも、バレー部の活発系女子、「アニオタとかプギャーwww」って見下している糞ビッチ女王様じゃねぇか。その勝気で端正な顔を愉快に歪めながら、クラスのオタが言葉攻めをされていたのをよく覚えている。別に俺がされたいとか思ってたわけじゃないが、「よくやるわ~、南無南無」と見ていた。吊るし上げ大好きっ子の東堂加奈さんだ。


 いつもは強気な表情の彼女だが、今はそんな面影はない。

 目を見開いて、唇をワナワナ震わせている少女。

 しかも頬は上気して右手はベッドの布団の中に入っており、その手はどうみても股間に向かっている。


 あれま・・・この子、まさか、してましたね?

 同人誌みたいな事、してましたね。

 巨人BL同人誌、使ってしてましたね。


 俺、分かっちゃいましたよ。僕の目はごまかせませんよ。

 あなた、感情移入しながらしてましたね。あなたの女王様的な性格上、攻めかな?

 いや、いつものあのSっけある態度は、実はドM願望の裏返しかな。


 分かりませんが、ぐふふふふ。私、見ちゃいましたよ、くくく。

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