田中ですが、何か?
@kokonoku
第1話
『頬が緩む笑いの後に、すっと胸を突く寂しさ有り。
その暖かさと冷たさの温度差が心を揺らす。』
作:ブリザード高校2年C組、田中狗壱
□□
ブリザード高校の保健室。
ぱよぱよぴ~ん。ど~も、ブリザード高校2年C組、田中狗壱(たなかくいち)、又の名を、乳毛(ちくげ)野郎で~す。
何?その名前って、それを聞いちゃう?聞いちゃうわけ?ねぇ、聞いちゃったか~、だよね、それなら特別に教えてあげよっかな。そんなに聞くなら教えてあげない事もないよ、本当は言いたくないんだけどね~。俺の心の闇、ほの暗い水底だからね。
え?やっぱいいって、大丈夫、大丈夫、君だけに教えてあげるから。
□□□
そう、あれは・・・始まりは高校入学直後だった。
高校初日、ウキウキハッピーな俺。やっときましたラノベ、アニメ主人公と同じ高校生ですよ。一体どんなかわいい子と出会ってラブコメし、異様に情報通で三枚目の親友と河原で殴り合うのか。いつ超能力に目覚めて学校にテロリストが襲ってくるのか。ワクワクドキドキが止まらない。
そんな高揚した気分で自己紹介ネタを考えてきた。なにせ第一印象こそ全て、ここでナイスに決めて一気に人気者の階段登っちゃう。寝不足になりながら考えたギャクを放った時の反応を妄想して有頂天。いや本当、このギャグを思いついたときは震えたね、自分のコメディセンスに。世界をとれると思ったよ、マジで。流行語もらちゃったかも。
そんなこんなで新学期初めての授業、その名も自己紹介タイム。
これまで暗黙化で、「こいつどんな奴だろう?」「俺って嫌われてないよね」「あいつら仲良く話して同中だろうな、いいなぁ」っと牽制し合ってきた者同士の初めての対話。
皆がカチコチになったり、無難な特技アピールだったり、時々失笑もののギャグ(あれはダメだね、ギャグを分かっちゃいない。見てて鳥肌たった)などを挟んで自己紹介を進めていく。
それで回ってきた俺の出番。
ちょい緊張しながら、この後の爆笑の渦を想像して頬が緩むの抑えながら教壇に立つと、隣では人のよさそうな若い女性の先生がニコニコしている。自己紹介聞いてなかったので名前覚えてないけど、「若いのに口臭そうだ」と思ったがそれは口にしないのがマナー。その匂いから逃れるように先生から顔を逸らしてクラスメイトを見ると、皆の視線が集まって高まる胸の鼓動。
息を吸ってハイ自己紹介。
「どうも、田中狗壱(たなかくいち)です。趣味は女体開発、特技はアナル調教です。昨日、日課のパン一ブリッジしながら確認したんですけど、乳首から毛が生えています!二本も、ジャッパン!」
皆にはっきり聞こえるようにゆっくりと言い放つ。
昨日鏡の前で何度も練習して、推敲に推敲を重ねた文言。一番最初の案は「どうも、田中狗壱(たなかくいち)です。くっきーって呼ばれました。美味しくないよ」だったが、ややインパクトに欠けると思ったので没にした。
それに何か足りないと思ったので手の動作も付けている。左手は制服の上から右の乳首にそえるだけ。決して摩ったり摘まんだりしてはしてはいけない。それはもっと大人になってからにしよう。まだ乳首開発して巨大化するのは早いと思う。開発後の外人の画像はやばかった(ネットでググってね)。
今は某バスケ漫画の用に、「左手はそえるだけ」、それがポイント。笑いのスリーポイントとっとちゃったかな、安西先生。
シーン
シーン
シーン
三回も言わんでも分かるわ!っとエア突っ込み。
だがしかし、マジで耳にはこの音が聞こえました、幻覚ではなくてね。雰囲気が出す音ってあるんですね、ビックリ桃の木桃太郎。
あれ、おかしいな。想像では、今頃、クラスメイトが大爆笑して、
――(少しギャルっぽい子)「やばい、面白すぎwww」 机を叩く。
――(大人しそうな黒髪少女)「ふふっっ」 上品に口元に添えて笑う。
――(運動部のお調子者の男子生徒)「ははは。めちゃウケww」 目尻から涙。
――(自己紹介で寒いギャグを飛ばした男)「ぐぬぬぬ」 悔しげな表情で唇を噛む
――(好みのロリかわいい女の子)「あっ」(かっこいい!) 俺に惚れてラブコメ波動!
というはずなのに、おかしいな、よく聞こえなかったのかな?声が小さかったのかもしれない。時が止まったように、誰の表情を動かない。
だが、春の優しげな風が教室のカーテンを揺らし時の進みを表している。
念のため、もう一度言ってみよう、リピートアフターミー、俺。
「どうも、田中狗壱(たなかくいち)です。趣味は女体開発、特技はアナル調教です。昨日、日課のパン一ブリッジしながら確認したんですけど、乳首から毛が生えています!二本も、ジャッパン!、ジャッパン!」
お気づきだろうか?
一回目を同じだとアレなので、最後にジャッパン!を二倍にしてみました。
倍返しだだだああああ!
私はそういうとこに気は配るタイプの純日本人なんですよ。
シーン
シーン
シーン
あれ?おかしいなぁ。
反応がない、でも時は動いているようだ。隣にいる口が臭そうな女教師の口がわなわな震えている。どうしたのだろう、おしっこに行きたいのかな?
模範となるべき教師ならそういうのは先に済ませておいてほしい。でも、俺は優しいから先生を思いを汲んで、他の生徒には見えないように教壇の裏でジェスチャーを繰り出す。
先生を笑顔で見つめながら、左手の親指と人差し指で輪っかをつくり、右手の人差し指をその輪の中に出し入れする。左手の輪が教室、右手の人差し指が先生で、「教室から出て行ってOKですよ」という意味だ。
が、そのジェスチャーを見た瞬間、先生の頬が紅葉し、次の瞬間「きっ」ときつい目で睨む。その瞳からは本気の怒りを感じた。
んん?あれ、おかしいな、意味が通じてないのかもしれない。
先生の怒りの視線から目をそらすと、ふと教壇の目の前の女子生徒と目が合うが、反射的に目を逸らされる。なんだ、今ぶるっとした、ヤバイ人を見るような目つきだった気がする。同じようにその後ろの男子生徒も目をそらす。ヤバイな、俺の魅力的な視線で乳首立っちゃったかな、二人共。
だがここで考える。
シーンと静まりかえる教室、目をそらすクラスメイト、それで思い当たる結論。
まさか!俺、ズボンのチャック空いてる?
さっと社会の窓を確認するが大丈夫だった。セーフ、セーフ、楽天セーフマン!
っと、その時。
「あいたたたたwwww」
お調子系運動部っぽい奴の声、その直後にくすくすとした笑い声が教室の至る所から沸きおこる。その失笑の嵐・・・
隣の若い女教師が「田中君、面白かったよ」っと励ます?
瞳は怒っているが顔だけ笑っているその表情、怖いよその言葉と表情のギャップ、ホラーだよ。
とりあえず凍結時間は解凍され、和やかなムードに移行していった。
お調子者?が俺を犠牲にして笑いをとったような気もしないが、その彼がさりげに目を合わしてきて親指を立てる。どうやら、彼は俺をフォローしたつもりのようだ。その申し訳なさそうな表情に悪意の様なものは見えない。この、お笑い泥棒め!許しませんぞ。
そんなちっぽけな義憤?を感じていると、中学入学のつもりが間違って高校に来てしまったようなロリ系女の子が、「そこにも生えるんだぁ~」っと呟いて自分の大きな胸を見て教室は静まり返る。
男子は表情が緩み、机を見つめて腰を引いてもぞもぞ。どう見ても新品ではない机を熱心に見つめだす。一部の女子は恥ずかしそうに顔を赤らめ同じように机を眺める、もう一部の女子は発言者のロリ少女睨む。「何媚び売ってるのよ。ぶりっこ!」という言葉が聞こえてきそうな視線で。
その後、私のあだ名は「乳毛」でした。あの時で終わらなかったのよね、これが。
なぜかね、隣のクラスの人も知っててクラス合同授業でいきなり「乳毛君」って呼ばれるのよ。親しげに話す君付けがなんともはがゆい感触で、高校生の口コミを侮どっていたね。
それが俺の乳毛ストーリーの起点。
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