Effective Project

モジャンコフ・ヴィッチスキー

プロローグ

夏の話

 これは、夏の話だ。

 夏の、とてつもなく暑い夏の、たった1週間足らずの出来事だ。


 たぶん、誰も信じられない。まったく関係ない人間がこの話を聞いても、極めて微妙な表情で、そうなんですか、すごいですね、以外のセリフを吐くことなんて、ほとんど不可能に近い。


 と言いながら、俺には信じがたい話だったか? というと、その答えはノーだ。


 俺は信じていた。いや、ゼッタイに事実か? と訊かれたときにイエスと答えるだけの自信もないし、ここでそれを証明できる手段もない。

 幾人かの友人や、関係者に事実だった、と証言してもらうことはたしかにできるだろう。


 けど、それはあまりに意味がない。


 俺たちは嘘をつくからだ。


 それは、あいつも言っていたことだ。

 結論から言えば、俺が誰かまったく関係ない人間に100%この話を信じてもらうこと自体は、不可能だと思っている。

 俺にだって、それくらいはわかる。


 だから、信じてくれとは言わない。

 でも、はい、そうですか、すごいですね、とは言って欲しい。

 嘘だろ、だとか、ありえない、の前に、お世辞でも、軽蔑でも、同情でもなんでもいいから、俺にそれと悟られないようにひとこと「すごい」と言って欲しい。

 俺はそれだけで、なんだか満たされた気持ちになれるのだ。

 127歳まで生きるためには、精神の充足だって必要なわけだ。

 

 精神の充足。


 つまるところ、


 ただ、


 そのため  に、


 俺はいまから、


 この話をはじめる。

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