第21話 30秒に1個のリズム
「俺がさっきまでいたコンビニで、コレが切れたんだよ」
宮沢はチョコレートの箱を叩いて言った。
「食べたいのに、もうない時、すげー辛くないか?」
「残念だとは思うけど、辛いという程かな」
「つれーよ。で、移動したらあるかもしれないと思って、コピー機いじってたら、ニワトリがわんさか出てきて、どうしようもなくなって入ったんだ。で、来てみたらやっぱりあった。良かった」
「それだけ?」
「それだけ」
「嘘つくな」
「嘘じゃない。マジで好きなの。このチョコが」
「本当にそれが理由か…?」
「そうだよ。他になんか聞きたいことある?」
「いや……」
宮沢が言っていたことは、それだけ聞くと嘘くさい。好きなチョコが無くなったから移動したというのだ。生死が掛かっている場面で、そんな理由で人が動くか?
だが実際に宮沢が「マジで好きなの、このチョコが」と言うのを聞くと、なんかそんな理由で動きそうだなとも思う。
それに、多分アーモンドチョコレートが好きなのは本当だ。あのフィルムの開け方は、相当テクっている。
あのコピー機もクセモノで、興味本位でいじるとニワトリにコンビニを占領されてしまい、移動するしかなくなる。多分宮沢も、「移動しよう」という確固とした気持ちがあってコピー機をいじったわけではないのだろう。ただアーモンドチョコが切れて、「移動したらあるのかなー」程度の気持ちでボタンを押したのではないかと推測する。押した瞬間に移動が強制的に決定されるとも知らずに。
宮沢は30秒に1個のリズムでチョコを頬張る。あれだけ好きだと言いながら、食べておいしそうな表情などは一切しない。むしろまずそうにすら見えるから不思議だ。
3人になった。
鍵野さんは、宮沢とほぼ口を利いていないが、人が3人もいるとなんだか日常のコンビニに近づいたような気がする。
少し前まで一人で不安で気が狂いそうになっていた状態から考えると、人数が増えたということは、だいぶありがたい。事態の根本的な解決には全く進んでいないのが悲しいが、気持ちの部分だけは、やや楽になった。
チャイムが鳴った。
21時半だ。
オオイシタツルの予言は、当たった。
スマ子のラジオが始まったのだ。
「みんな、久しぶりー! スマイルナビゲーターのスマ子です! 元気だった?」
相変わらずだ。
「チキングくんから説明があった通り、みんなのコンビニは繋がっていて、移動することができるんだよ! そして、上手く移動を使って条件をクリアすれば、元の世界に戻ることもできるからね!」
上手く移動を使う、という表現はチキングはしていなかったが、これも何かのヒントかもしれない。
「それはそうと、実は最近ワタシ、小説にハマってるんだー。文字しかないのに目の前にその景色が見えて、登場人物が動き出すんだよ、たまらないよねー!」
なるほど、そうやってつなげるのか。
「そこでオススメなのが、このサイト! 『カクヨム』っていう小説投稿サイトだよ。ここには色んな小説が投稿されてて、飽きないんだなー。みんなも今から見てみて!」
僕と鍵野さんはスマホを取り出した。
宮沢は……、スマホを出すどころか、聞いてもいないようだ。
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